再訪
また、先輩のところに行こうか。何となく心が揺れる。二日も連続できて、邪魔にならないだろうか。
どうして先輩が一人でいるのか、そう言えば聞いたことがない。どうして一人で居られるのか。巧自身、興味があった。なぜか一人になってしまう巧にとって、先輩のように振る舞うことができればと思わずにいられない。
巧は食べ終えた弁当箱を畳んで、立ち上がる。自分が動いたことに注意を向けた人は一人もいなかった。校庭を動き回る人たちの意識の中にはじめから巧はいない。
昼休みの部室棟はひっそりとしていて人気がない。新しい床や壁の無機質なにおいが鼻をつく。まるで、模型の中を歩いているようだった。職員会議でお助けカフェの活動を説明する時に、昼休みには部活動は禁止という校則があると知った。お助けカフェは部活ではなく、ボランティアだから、という理屈で乗り切ったが、そのルール通りに部室は全て鍵が閉まっていて、活動の様子はない。では、どうして夜桜先輩が昼休みに部室を使えているのか疑問が残る。といっても、それほど深く追求しなければならないものとは思えなかった。たった一人で文藝部という部活を作って、謎の活動をしているのだから、今さな謎が増えたところで変わりがない。
前に使っていた地下の部室とは違って、新しい部室のドアには小窓がついている。そこから、中の様子を見ることができる。パンを食べている夜桜先輩と目があった。何か考え事をしている目が、巧にぶつかって、ふと緩まった。先輩は立ち上がってドアをあける。巧は息を吸って、
「こんにちは。」
と言う。
「今日もきたの。」
と先輩はそれだけ言って巧を中に入れた。ドアが閉まって、小さな部屋の中で二人きりになると、それだけで安心した。校庭を見つめていた時の寒々しい感じは消えた。
「お弁当は?」
「食べました」
巧は返事をすると、席に座る。前向きに座る先輩の机と視線が直行するように、もう一つ机がつなげられている。先輩の横顔を見るような形で巧は座ることになる。向かい合って座るよりかは気が楽で、隣り合って座るよりも馴れ馴れしい感じはしない。
「今日もまた、人を見つけられなかった…。」
先輩は巧の顔を見て、言葉を選ぶ。
「そもそも、君、人に声をかけられないのね。」
自分でも認めたくなかったことを言い当てられたような気がした。巧は何も答えられず、ただうつむく。うつむいていると、今まで自分がしていたことが、次々と思い出されて、言葉がこみ上げてくる。先輩は何も言わずに黙っていた。巧が話し出すのをわかっていたかのようだった。