書く自分
書けない日が三日も続いたのは、久しぶりかもしれない。書いているときは、小説の中の出来事で頭はいっぱいになる。それどころか、今、自分が考えていることも小説の中に吸い取られて、気がつけば文章になっている。小説はフィクションに過ぎない。それはそうだ。しかし、実際に書いてみると、自分の中の心の動きははっきりと文章の中に現れている。書いている巧にとって、自分の小説はどうしてもフィクションに過ぎないと言い切ることはできない。自分の心の中に起こった出来事であることは確かなのだ。
前に書いた小説を読み返してみると、思ったより興味深く、原稿用紙を繰る手が止まらなかった。
巧が初めて書いた小説。ある少年が未来からやってきた少女と共に冒険をする物語だ。
「自分には何ができるのだろう。」
主人公が今の自分と全く同じことを、まっすぐに問いかけているのを読んで、思わず笑い出してしまった。この小説を書いてから、いろいろあったのに、大して変わらない自分を見たような気がした。そして、今書いている小説でも、同じようなことをまた書いている自分に少し呆れる。自分って案外変わらないものなのか。
そう納得すると、今度は
不思議な安心感が心の中にじんわりと広がってゆく気がした。
「はい、もうペン持っていいよ」
保健室の先生は巧の手から包帯をはがした。毎朝、巧が確認するようにペンを持つ話をするので、わざわざ先生の方から教えてくれるようになった。
「中間テストも近いでしょ。これで勉強頑張れるね。」
ペンを早く持ちたがっているので、勉強熱心な生徒だと誤解された。
その誤解をあえて解くことなく、保健室を立ち去る。その途端に小説のストーリーが脳内に駆け巡る。キャラクターが会話をし始める。手の自由度と、頭で考えることは関係があるのだと発見する。
今回のテストも、勉強しながら毎日書くことを止めることはないだろう。