助けられる練習
「助けられる練習が必要なんじゃないですか。」
猫実さんは言った。
助けられる練習。
巧はうなずく。顔を背けて。どうしてそれが必要なのかを、痛いほど自分は知っているからだ。そして、それがどれだけ難しいことであるかを、知っている。今でさえも巧は自分がどう助けられたのか、どうやって助けられればよいのか、その根本のところを知らない。だから、猫実さんのそばにこうやって立っていることで、どうにか自分の弱さを忘れようとしているのかもしれない。本当は自分が猫実さんに出会わなければ、一人で何も知らずに過ごしていたのだろうと思う。
巧はいつものように言葉を持ち帰る。家に帰るまで何度も反芻する。本を読むことはなかったし、目を開けてぼんやりと電車の中で景色と人々を見ながら考える。考えれば考えるほど、一人で考えなければならないところに突き落とされてしまったような気がした。自分の弱いところを知る人、自分の弱さを差し出せる人は、自分の他にいないのだと思い知る。猫実さんは、助けてと言えないことは不幸だと言った。その時に巧は、言い出せない自分の弱さに自分自身で気がつけるようになったのかもしれない。
猫実さんはそこにある巧の弱さを抉り出すように無理やり、白状させたのだと言える。そうでもされない限り、巧はずっとそのままだったのだろう。
「どうしてそんなに怒ることが出来たのですか。どうして、不幸だと迷いもせずに言い切ることが出来たのですか。」
目の前にいない猫実さんに問いかけてみる。
巧はベッドに寝転がって、ぼんやりと天井を見る。部屋の中に散りばめられた目に見えるものたちは何も言わなかった。