ラジオ計画
猫実さんがさらり、と巧にいうことができたのも、ラジオの原稿をさっそく書いてきたからなのだろう。猫実さんはきれいに手書きでまとめられたノートのページを二人の席の真ん中に置いた。
巧は痛みが治りかけた手で、ページの端を押さえる。
『お助け部は人助けの部活です。毎日昼休みには、お助けカフェという誰でも参加できる対話の場を開いています。放課後は部室にて、お悩み相談やお手伝いの依頼を受け付けています。基本的にどんな相談でもお話を聞きたいと思います。』
と部活紹介風の文章がつづられている。その横にはラジオのトーク内容の候補が挙げられている。「二人の自己紹介」や「お助け部に入ってよかったこと」などを話すという風に書いてある。
「インタビューされたようなことを、言えばいいかなと書いてみました。ただ、これは私の提案ですから、巧さんの意見もほしいです。」
巧もうなずいて印象を述べる。
「しっかりしていると思います。」
書き並べられた猫実さんの言葉には整然とした説得力がある。今までいろいろ聞かれ、答えてきた言葉がしっかりとまとめられている印象だ。
「お助け部がどんな部活かわかりますし。」
「はい、そこを気をつけました。」
「ラジオでお悩み相談ってしないんでしたっけ?」
巧が聞く。
猫実さんは少し考えて、
「いきなり相談者がラジオに出演するのは大変という話でしたね。」
と言った。巧もその結論に至る議論を思い出した。肝心の相談者を見つけることができなかったのだ。全校生徒が聞くラジオで自分の悩みを公言するのは難しい。
「でも確かに聞いてくれる人とのやりとりをしたいですね。」
猫実さんはノートに「参加型にする」と書いた。
「お助けカフェのように誰もが参加できるラジオにできればいいですよね。」
猫実さんはペンを紙に乗せたまま、空中を見て言葉を探している。巧も猫実さんの思考に同調するように考えようとする。
「誰もが参加できる…か。」
言っては見たものの、どうやって実現すればいいのか。誰でも、というのはずいぶん簡単に言えてしまう理想だ。
「そういうことを考えると、本当に困っている人のためではなく、みんなにとって楽しいという方向になると思うんですけど。」
巧は言った。猫実さんはその言葉をのみこむようにゆっくりとうなずく。
「はい…。そうですね。」
「まあ、宣伝目的なら楽しくてもいいと思うのですけど。」
「そうですね。」
しかし、猫実さんはやはりその道は選ばないだろうと思った。なんとなく、巧も猫実さんの目的を掴めるようになってきた。
どうにか、考えを引き出したいが、アイデアがでない時は地道に待っていることしかできない。考えるやり方も、泥臭いような気がして、そこがお助け部らしいな、と巧は思った。