序章3
闇の魔王ゲーテよ、我の願い受け入れ、我に刃向かう全ての愚者を葬り去る
暗黒の力を我に与えたまえ・・・
ゾルが何かの魔法の詠唱を唱え終わると、体全体に黒い雷のようなものが
絡みつくように発現する。
ゾルは両手を手のひらを合わせると、ラフィたちのいる地上に向けて構えた。
「ポルン!飛べ!」
「兄様・・・それは・・」
「いくらなんでも、やりすぎよ!」
「いいから、飛べ!!」
殺気だったゾルの有無を言わさぬ迫力に、ポルンは咄嗟に羽を広げ
空に舞い上がる。
「おい・・なにやらかすつもりだ・・」
「なんかやべーぞ・・・」
ラフィ達は何か言い知れぬ恐怖を、ゾルの体にまとわりつく巨大な暗黒のオーラから
感じ取るとざわめき始める。
上空にいる兄に、ポルンは羽ばたき、声が届く距離まで近付いた。
「兄様、それはやりすぎよ。」
「考え直して!」
「もう・・とまらねーよ・・」
「こいつ等はやってはいけない事をやってしまった。」
「その罪死で償わせる。」
止めさせようと近付いたものの、その目は凍てつき、怒りで我を忘れている兄ゾル
その迫力に押し切られ、ポルンは半ば諦め気味に、ラフィ達を悲しい瞳で一瞥すると
兄から離れてゆく。
「消えろ!!!」
「ダークマター・・!」
ゾルがそう言い放ったかと思うと、体を取り巻く暗黒のオーラはゾルが
構える手の平に集まり、黒い球体のような物を形成し始める。
その球体がどんどん巨大になり、臨界の頂点に達するや否や
物凄い勢いで、周りの空気を巻き込みながら、ラフィたち目掛けて
飛んでゆく。
「うわ・・・」
「ぎゃ・・・・」
その黒い球体はラフィ達に届くと、一瞬で悲鳴を最後まで上げる間もなく
ラフィ達は蒸発するように消滅した。
その後も。球体の威力は止まる事を知らず、物凄い爆風を辺りに撒き散らし
地上のありとあらゆる物を破壊しつくす。
ダークマターの威力は凄まじく、その衝撃はサルサの森全体を揺らす。
「終わったか・・」
「兄様・・・・」
地上の物を破壊しつくした後、徐々にその威力を弱め、その漆黒の球体は
縮小し、煙が覆いつくすとその姿を消した。
二人が見つめる真下には、ダークマターの爪跡がまざまざと残されている。
巨大で底深いクレーターが、その全体からどす黒い煙を浮き上がらせている。
クレーターの周りには吹き飛ばされ、根っこから折れたモルモルンの木が、
無残な姿で無数に横たわっている。
「む・・・何事だ・・・」
「ん?なんだなんだ・・」
「おい、あれ・・」
サルサの森の住人は、ダークマターの衝撃による揺れを感じ取ると
家から外に賭け出て、周りの様子を伺う。
少し離れた場所に、煙のようなものが覆い尽くしているのを確認すると
驚いた様子で、ざわめき始めた。
「あれは・・なんだ・・?」
「さぁ・・」
「敵襲?」
人々は謎の揺れと、遠くに見える煙が覆う一帯を視認すると
外界から、この村に危害を加えようとやって来たものの仕業だと
考え始め、混乱を見せ始める。
(みんな静まれ!!)
人々の頭の中に誰かの声が強い口調で流れる。
(・今、お前達の心に直接テレパシーで声を伝えている。)
「こ・・この声はラカンだ・・・」
「本当だ・・」
混乱しかけた村人は、ラカンのテレパシーを受け取ると、少し冷静を取り戻した。
その場で足を止め、ゆっくり目を閉じると、これから話す言葉に意識を集中し始める。
(私が、今からあの煙が渦巻く場所へ様子を見てくる。)
(お前達は静かに、私が帰ってくるのを家の中で待っててくれ。)
「おぉ、ラカンが行ってくれるぞ」
「ラカンなら安心だ」
「俺達は家でゆっくりその報告を待とうじゃないか・・」
村の人々はその言葉に、さっきまでの動揺が嘘のように消え失せると
安心したのか、家族と一緒に家に入っていった。
「あの煙は魔法によるもの・・・」
「ティーシア少し出かけてくる。」
「いってらっしゃい・・」
ラカンは漆黒の翼を大きく広げると、断続的に羽ばたかせ
風を操ると、轟音を伴って空へ飛び立った。
(・・・・・・・何か嫌な予感がするわ・・)
只事じゃないという事を、夫であるラカンの厳しい表情と素振りから、察すると
ティーシアは言い知れぬ不安が、体中を駆け巡るのを感じた。




