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俺がこの基デトロイト基地に配属されて、4年がたった。仕事はまぁ、ボチボチ……、なのだろうか。ハンス博士が良く機密っぽい設計データを見せてくるんで、原作知識を元に回答しているのだが、やたら評判がいい。最初の頃は理由を問い詰められても回答できず、同僚の技術者から反感を買うことも多かった。しかしながら、検証を重ねると俺の回答以上の案が出ないことがほとんどであり、最近では「そういうもの」としてコチラの案を素直に検討してもらえるようになった。
それ以外ではテストパイロットを務める日々である。言われた通りに単純動作を繰り返しデータをとる作業は、なかなか骨が折れるが、特にミスもなく作業を行えているため評判は悪くない。
また、基地の正規パイロットから模擬戦を挑まれることも多く、ハンス博士の許可もあり、業務の一環として行っている。どうも、在学中のウォーカー操縦の成績が良かったことから方々に興味を持たれているらしい。こちらとしてはゲームの延長線でしかないのだが、で勝てば勝つほど対抗意識むき出しで躍起になって挑んでくるので、ちょっとうっとおしい。
今のところ無敗ではあるが、対人戦のテクニックと年季ではこちらも負けていないので、まだまだ無敗記録は伸びそうだ。というか、うちのパイロット弱すぎるね。前世の全国ランカーのエグさを体感している身としては、ぬるく感じてしまう。ちなみに自慢だが、基地内では「最強のテストパイロット」の異名で通っている。こちらとしては、大したことないんだけどね。そんな経緯もあって、国防隊やパトロール隊からウォーカーパイロットとしての引き抜きのお話がきているのだが、すべて断っている。ほんと、前線にいくことだけは勘弁して頂きたい。
割と充実した日々を過ごしているあいだに、世界情勢は確実に原作開始に近づいてきていることを感じる。宇宙に輸出する食料の値段は年々高騰しており、火星と地球の対立は深まるばかりである。食料生産用のコロニーやプラントの建設の話は諸々の利権も絡み進みが悪い。そのことも対立に拍車をかけているようだ。特にその影響を一番に受けているのが、地球から最も遠い人類の生存圏である火星なのだ。
火星での食事は、合成タンパクや合成炭水化物から作られた食料がほとんどであり、地球産の食料は高級品で一般市民は口にすることができないらしい。合成タンパクや合成たんぱく質の原料は、味もあまりよくないこともあるが、一部原料に人間の排泄物を利用していることもあり人気がない。一部の地球に住む人間からは「宇宙人はウンコが主食だ」なんて揶揄されている。そりゃ切れるわな。地球に住む人々からすると実感はないのだろうが、戦争への流れは止められないだろう。
特に去年は各地の天候不順が原因で、食料の生産量が少なくなり、当然食料の輸出量が減っている。おぼろげな記憶が確かであれば、原作開始は今年のはずだ。何より、主人公が乗るはずの試作機である、『リンカーン』が完成したからな。こいつは間違いないでしょう。こいつがロサンゼルスに移送されたら、いよいよだな。工業都市であるデトロイトは食料生産能力が低いため、攻撃目標としての優先順位は低いはずだ。戦争が始まったら基地に引きこもっておくか。
そんなことを考えていたら、ハンス博士から無慈悲な宣告が届いた。
「リンカーンをロサンゼルス基地に移動する。私と一緒にロサンゼルス基地に来てくれ。なに、どうもロサンゼルス基地の司令が『最強のテストパイロット』に興味があるようでね。是非とも君にも来て欲しいと連絡があったのだ。模擬戦を行うだろうから、そのつもりでいてくれ。整備班にはガーフィールド後期型を用意するように伝えてある。機体の細かな要望があれば、君の方で整備班と調整しておくように」
いやー、調子こいて勝ち過ぎたことが仇となったか。一瞬目の前が暗くなったね。基地司令の要望であれば断る手段はないしなぁ。
この世の終わりのような顔をしていると
「負けても気にすることはない。そう気負うな」
と、ハンス博士に気を使わせてしまった。そこじゃないんだけどなぁ。俺の存在というバタフライエフェクトで開戦がずれ込むことを祈るしかないね。
そんなこんなで、悶々とした気持ちのまま、俺はロサンゼルスに向かうこととなった。