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「我々! サンフランシスコ防衛大学129期生卒業生一同は! 立派な軍人となることを誓います! 解散!」
「いぇぇぇぇぇぇ!」
俺たち同期の主席が、学生長の最後の仕事である挨拶を終えると、帽子を投げて奇声を発しながら走り出した。もちろん俺も含めた卒業生252人も一緒にだが。地獄のような4年間を終え、開放感で脳内麻薬が分泌されてるのではないだろうか思うほどに、ハッピーが満載。ヤバいね。あの鬼教官たちに感謝する日がいつか来るのであろうか……。
卒業式を終え、卒業パーティー会場に向かう途中、寮で同室であるフィリップが話しかけてきた。
「アレン! 卒業おめでとう!」
「おめでとう! って、お前も卒業じゃんかよ!」
「細かいことはいいんだよ! それに、第八席なんだろ? 配属希望はどこにするんだ?」
各防衛大学の成績上位者10名は、よほどのことがない限り希望の部署に配属される。俺の大学4年間の間、その上位10名に入るためだけに必死で勉強してきた。
「兵器開発部門だよ。他の奴には内緒だぞ」
「お前ならパイロットが向いているだろうに。給料もいいし、戦争なんてこのご時世起きるわけないんだからさ。ホント変わってるよな」
露骨に渋い顔をされてしまう。まぁ、学生の一番の憧れはパイロットであり、そこを希望しない俺は相当な変わり者なのだろう。さらに言うならば、技術開発などの直接戦闘に関わりのない部署は、防衛大学の中でも最高に不人気で、舐められている部署になる。それこそ配属希望を大っぴらに口にすることを憚れるくらいには。
でも、俺はそこを希望している。なぜかって? それは俺が、あと数年後に戦争が起きることを知っているからだ。
俺、アレン・アンダーソンは転生者である。そして、転生したこの世界は、前世で大好きだったアニメ「鋼鉄歩兵」の世界だったのだ。このアニメは、シリーズやスピンオフで10シリーズ以上のアニメが作られた、国民的ロボットアニメである。もちろんゲーム化もしており、ゲーセンではよく、このアニメに出てくる戦闘ロボットのコクピットを模した筐体のゲームにバイト代をつぎ込み、朝から晩までプレイしたものだ。
余談ではあるが、この世界がアニメの世界であると気付いたきっかけ。それは、アメリカなのに英語をしゃべる奴が一人もいないことだ。和製アニメなので、劇中で英語を話す人物がいなかったのは確かだが……。物心ついて、世情を調べて出した結論が、ここが鋼鉄歩兵の世界だということだった。
ここが鋼鉄歩兵の世界だと気づいてから、俺は生き残るためにどうすべきか、必死で考えた。原作では、今後火星に移住した人々と地球に住む人々とで、人類の生存圏すべてを巻き込んだ戦争が始まる。田舎で細々と暮らそうが、宇宙の果てに逃げようが、戦争に巻き込まれる可能性は0ではない。むしろ、この戦争で人類の人口四分の一が死ぬとか、そんな設定だった気がする。確実に民間人も巻き込んだ死者数だよな。劇中では描かれていないけど。
そこで俺は無い知恵を絞って考えた。幸いにも戦争は地球側が勝つことがわかっている。主人公サイドだしな。であるならばどこが安全か。軍の中で戦わずして必要とされる部署ならば、むしろ軍に守ってもらえるので安全でなはずだ。どうせなら、大好きだったロボット、ウォーカーに関わる仕事がいいな。戦時中の兵器開発・研究なんてのは本部に引っ込んで行われるだろうから、安全であろう。
まっ、そんなことを考えての技術開発部への希望である。原作開始までにせいぜい他の部署に転属にならないようにがんばろう。