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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
二人の王子編
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兄弟

  

 物置部屋の奥に位置する隠された小さな部屋に、アイリス達は少しだけ息を潜めるようにしながら、睡眠をとっていた。


「……」


 夜中にふっと目が覚めたアイリスは半分寝ぼけながら、何となく周りを見渡す。一室しかないため、もちろんクロイドだけではなくユアン達も同じ部屋で眠っていた。


 長い間、使われていないであろう木箱の上に布を敷いて、そこに横になるというだけの簡易ベッドだが、ないよりはましだ。


 横に寝ているユアンが足元にいるレイクの腹に足を蹴りこむように押しているため、レイクの顔が歪んでいた。

 だが、レイクに全く起きる気配がないのは寝付きが良い証拠だろう。


 それでも、ここは王宮内で、自分達は招かれざる教団の人間だ。今は四人揃っているため、いざという時に備えて見張りを一人、立てることにしていた。


 ユアンとレイクが寝ているということは、クロイドが見張りの番をしているのだろうと、身体を起こして、表からは隠されていた小さな扉がある方へと歩いていく。


 扉の近くに窓があり、その窓枠に座るようにしながら、クロイドは外を眺めていた。


「……まだ、見張りの時間には早いぞ?」


 アイリスの気配に気付いたクロイドが振り返る。先輩二人が寝ているため、声量は抑えられていた。


「ん……。何だか、目が覚めちゃって」


 明朝にアルティウスがここへと訪ねてくることになっている。

 そこで入れ替わるのだが、やはりクロイドも緊張しているのか、表情は昼間と変わりなかった。


「夜は寒いからな。これを着ておくと良い」


 そう言ってクロイドは彼が膝にかけていた布をアイリスの肩へと羽織らせる。


「ありがとう。……あなたは寒くないの?」


 何気なく窓際に置かれている木箱の上に腰を下ろし、クロイドと同じように窓の外を眺めてみる。


 暗闇に月と星が浮かんでいるだけで他には何もない。

 夜中に起きている人間が少ないため、街の灯りはこの場所まで届いてはいなかったが、遠くに小さな灯りがぽつりといくつか見える。


「……やっぱり明日のことが心配?」


「……まぁな」


 薄暗くても分かる程の、深い溜息。夜の街を見渡しながら、彼は一体何を想っていたのだろうか。


「王宮にはあまり良い思い出はないし、会うと面倒な人間も多くいる。部屋に籠るだけで済むといいんだが……」


「……会いたくない人……」


 それはクロイドにとっての敵ということだろうか。


「本当なら、アルにも会わずに任務だけ終わらせて帰るつもりだったんだが……。こうなってしまった以上、仕方がない」


「弟さんにも会いたくなかったの?」


「……あいつは俺のことを死んだとは思えなかったと言っていたが、俺にとってはここでの生活は忘れるべきものだったからな。……まぁ、それが逃げることになるんだが……」


 月明りの下でも分かるほどの苦悶の表情が何を語っているのか、無言のままでは分からなかった。

 だからこそ、訊ねたいと思ってしまう。彼の口から、言葉と感情を引き出したくなってしまったのだ。


「……ねえ、アルティウス王子のことについて聞いてもいい?」


「ああ」


「あなたの目から見て、アルティウス王子はどういう人なの?」


 アイリスの質問を聞いて、一度、何かを思案するようにクロイドは目を瞑った。


「あいつは……多分、人が求める理想の王子像に近いんだろうな」


「理想の王子……」


「人望があるのは、人から求められたものに応える力を持っているからだ。的確な判断能力、人に応対する力、物事の最善を見つける考察力……。アルにはそういうものが昔から備わっているように見えた」


 つまり、10歳にも満たない子どもにそれだけの力があったということだ。そう考えると、少しだけ末恐ろしく思ってしまう。


「性格だって、快活で穏やかだし、いざとなれば面倒な貴族を相手に軽くあしらっていたこともあったぞ」


「……」


「あいつは……良い奴だ。贔屓目無しで見ても凄く、良い奴で……そして、この国には絶対必要な奴なんだ」


 クロイドが拳に力を入れる。


「でも、たまに突拍子もないことを提案してくるし、強情だし。そう思っていたらたまに、子どもっぽいことするし……」


「ふふっ……」


 クロイドのアルティウスに対しての批評にアイリスは小さく笑みを零した。


「本当に、心配性のお兄さんみたいね」


「なっ……」


「私の兄……と言っても、従兄妹の兄さんがいるんだけれど、私と会う時はいつも心配事を並べてくるのよ。今のクロイド、兄さんと同じ表情をしていたわ」


「……」


 たまに会うことしか出来ない分、やはり心配する気持ちは募るものなのだろう。クロイドがアルティウスを語っていた時、その眼差しは温かく、そして穏やかに見えた。


「あなたが心配性なのは知っていたけれど、それは元からだったのね。……でも、ちょっとだけ安心したわ」


「え?」


「本当は……あなたはアルティウス王子のことが羨ましいんじゃないかって思っていたの」


「王子の身分か? それは別に……」


「ええ。だって、クロイドってば、最初からアルティウス王子のことだけを気にかけていたもの。余計な心配だったみたい」


「……前にも言ったが俺はここに戻って来る気は更々ないからな。俺の居場所は君の隣だと言ったはずだ」


「もちろん、承知しているわ。……だからこそ、明日のことは私と先輩達に全部任せて頂戴。アルティウス王子が安全でいられるように、先輩達に防御魔法をかけてもらうから」


「……頼んだ」


 アイリスの言葉に、クロイドはどこか安心したような溜息を短く吐いた。

   

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