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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
二人の王子編
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合流

  

 その後、明日の早朝に王宮内の物置部屋で待ち合わせすることをアルティウスと約束し、温室からアイリス達は出た。


「……顔色、悪いけれど大丈夫なの?」


 周りに誰かいないかを警戒しつつ、アイリスは声を抑え気味にクロイドにそっと訊ねる。


「……大丈夫だ」


 そう答えるものの、クロイドの表情は先程と変わりなく真っ青なままだ。やはり、色々と気が重いのだろう。


「今は先輩達と合流する方が先だ」


「そうね。……先輩達、賛成してくれるといいんだけれど」


 こちらで勝手にアルティウスと約束して、魔具の回収に協力してもらうことになった上に、先輩二人にはアルティウスが街へと視察に行く際の護衛役として、話をこぎつけてしまった。

 勝手なことをしたと怒られてしまうだろうか。


 普段はあまり使われていない物置部屋があるらしく、その部屋の奥に王宮で働いている者さえ知らない秘密の小部屋があることをミレットが事前に調べてくれていたので、今はそこに向かいながら、先輩達を探していた。


 物置部屋の奥の部屋は隠れるように大きな棚が扉の前にあるので、使用人でも知らない人が多いらしい。そのため、この秘密の部屋に食料などを運んで、今日は一晩を過ごすのだという。


 クロイドの嗅覚に何か感じ取ったものがあったのか、彼は顔を上げて周りを見渡す。

 自分達以外に誰も通っていない廊下だが、クロイドは小さく呟いた。


「……先輩?」


 クロイドが呟いた声に反応するように、二つの軽やかな足音が真後ろに降り立った。


 アイリス達は背後から急に人の気配を感じ、思わず身体の向きを変えながら、ざっと後ずさりすると、そこには埃まみれのユアンとレイクがいた。


「ぶふぉ……。あー……埃っぽかったぁ~」


 二人は身体に付いた埃を手で払いながら、苦しそうに咳をする。


「いやぁ、クロイド、よく俺達が天井に隠れているって分かったな」


 レイクは中々、埃が落ちないのか、何度も荒っぽく服を叩きながら埃を落としていた。


 まさか、二人が廊下の天井に張り付くように隠れていたとは驚きだ。さすがのアイリスもこのような妙技は出来ない。尊敬するような眼差しでアイリスは二人を見ていた。


「俺、鼻がいいんです。追っ手は撒いたようですね」


「まぁな。さすがに侵入するのが二回目となれば、逃げ方だって分かってくるもんさ」


「そう言って、何度か王宮魔法使いの魔法に捕まりそうになっていたのはどこの誰よ」


 盛大に溜息を吐きつつ、ユアンは埃被った髪を一度解いてから埃を落とし、再び綺麗に結い上げる。


「うるせぇ。魔法が使えたら、あんな奴ら一瞬で片付けられるってのに……」


「まぁ、でも、結構撒いたから暫くは安心でしょ。……追跡魔法を使われたらすぐに居場所が知られちゃうけど」


「あの、その事なんですけれど……」


 アイリス達はユアン達を廊下の端にある小さな部屋へと入る様に手招きし、声の音量を抑えた。


「実は先輩達には勝手なことをしたと思われるかもしれないのですが……」


 そこでユアン達と別れた後に何が起きたのかを簡潔に説明することにした。


 偶然、クロイドの知り合いであったアルティウス王子と出会い、奇跡狩りに協力してもらう代わりに明日、彼を街へと視察に連れて行って欲しいとお願いされたことと、その際に二人には王子の護衛役になって欲しいことを話した。


「なるほど。つまり、王子様に目を付けられたってわけね」


「王子からの提案と言っても極秘だろう? 他の誰かに見つかったら懲罰ものだよな。……まぁ、俺達のやっていることも犯罪に片足どころか両足突っ込んでいるけど」


「でも、その間、王宮から王子様がいなくなるんでしょ? そこはどうするつもりなの?」


「それは……」


 アイリスが言葉を濁してクロイドの方を見る。

 先程よりは少しだけ顔色が良くなっているがそれでも、青白いのは変わらないクロイドが軽く頷いてから答えた。


「俺が彼のふりをします。顔立ちが似ているので、髪色を変えれば姿がそっくりみたいですから。それに明日は風邪を引いて寝ているということにして、部屋に籠るつもりらしいので」


「まぁ……。そんないい加減な変わり身のやり方でいいのかしら……。やるなら、もっと徹底的にやらないと、王宮の人に見つかりかねないわよ」


 ユアンが王子に対して、少々非難めいた声を上げる。


 だが、クロイドは自分がアルティウス王子の双子の兄だとは二人には伝えなかった。

 恐らく、クロイドの出自を知っているのは自分とブレア、そして以前のクロイドに関わった者達だけだろう。


「こちらで勝手に王子と手を組んだことは謝ります。もし、それで非常事態が起きた場合は俺が責任を取ります。だから……どうか、お二人の力を貸してください」


 クロイドがユアン達に真っすぐ頭を下げる。先輩二人は顔を見合わせて、どこか意外そうなものを見る表情をしていた。


「なに、謝ってるんだよ」


 クロイドよりも背が低いレイクが、突然クロイドの頭を手で思いっ切りに撫で回し始める。


「そうそう。元はと言えば私達の不手際であなた達を巻き込んでしまったんだから。むしろ、奇跡狩りが滞りなく終わるなら、どんな手段でもいいのよ」


 呆気らかんと二人は表情を崩して、笑っている。どうやら、自分達がアルティウスと勝手に取引したことに対して、不快に思ってはいないようだ。


「それに頼られるって感じが先輩っぽくて良いからな。ここは大船に乗ったつもりで任せてくれよ」


「あんたの場合は大船っていうより、小型船だけれどね~」


「何だと!?」


 再び言い合いを始める二人をクロイドはどこか安堵したような表情で見ていた。まだ、何も始まっていないが、肩の荷が一つ下りたと言ったところだろう。


「……大丈夫よ」


「え?」


 アイリスは耳打ちするように、クロイドにそっと声をかける。


「明日、アルティウス王子の視察が終わったら、大急ぎであなたを迎えに行くわ。もちろん、魔具と一緒にね。……だから、少しだけでいいから、待っていてくれる?」


「……」


 ふっと、クロイドが柔らかく笑った気配がした。


「……俺の相棒は頼もしいな」


 それでも穏やかに笑っているはずなのに、どこかぎこちないように見えたのは気のせいではないだろう。


「……ねぇ、クロイド。私が……」


 小さく言葉を呟き、しかし、その続きとなる言葉を心の奥で必死に押し留める。


「何だ?」


「……ううん。何でもないわ」



 ──小さい頃のあなたを守れたら、あなたの心を守れたらいいのに。



 その言葉を飲み込んだ。

 クロイドが薄く笑う表情が、痛いことを我慢する子どものように泣きそうな表情になっているとアイリスは指摘出来ずにいた。

  

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