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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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再び、王宮へ

 

 クロイド達を乗せたヴィオストル家の馬車は王宮の門で、検査を受けてから敷地内へと入っていく。

 事前に王宮側に謁見の申し込みをしていたことから、検査には大きな時間をかけずに敷地内に入ることが出来た。


 馬車の中で、三人はどのように国王に対して話しを進めていくかを緻密に練っていた。

 一歩、間違えれば団員だけでなく、市民も王宮の人間にも被害が出てしまう可能性があるため、慎重にいかなければならない。


 だからこそ、抱き始めていた緊張感を簡単に拭うことなど出来なかった。

 やがて馬車の速度は緩んでいき、ゆっくりと動きを止める。


「着いたようだな」


 三人の中では一番、落ち着いているユグランスがふっと息を短く吐きながら呟く。


「それでは、我々の戦場へと向かおうか。しかし、華々しい三人が登場すれば、王宮で勤める女性達は卒倒してしまうかもしれないな」


 クロイドとエリオスが緊張していることを察しているのか、ユグランスはそう言ってから、片目を軽く閉じた。

 どんな時も冷静さを忘れていない彼は、恐らくこちらと踏んできた場数が違うのだろう。


 クロイドとエリオスは自分達を気遣ってくれるユグランスに向けて、小さく笑みを返す。


 まだ、始まってはいない。

 今から始まることは、今後を動かすための大事な歯車となり得るものだ。


「……女性の相手は苦手だから、出来るだけ鉢合わせはしたくないな」


 わざとらしい溜息を吐きながら、エリオスはユグランスへと言葉を返す。


「何だ、まだ自分の相手を見つけていないのか」


「任務で忙しくて、そんな暇はないな。まぁ、いい人がいれば、そのうちヴィオストル家の皆には紹介するさ」


「ふむ、それならば楽しみにしておこう」


 まるで親と息子のような会話を二人が繰り広げていると、外から馬車の扉がゆっくりと開かれる。恐らく、馬車を運転してくれていた御者が開けてくれたのだろう。


 ヴィオストル家の当主であるユグランスが最初に降りて、それに続くようにエリオス、クロイドの順番で降りていく。


 ユグランスは馬車を運転していた御者に向けて、馬車を待機させておく場所を指定してから、王宮に入る手続きをするための関門のような場所へと進んでいく。クロイド達もその後ろに付いていった。


 名前を記録している役人から、ユグランスと同様に名前を書くようにと書類を渡されたため、『クロイド・ソルモンド』と名前を書き記した。

 表向きにはユグランスの供ということになっているらしい。


 役人から発行された証明書として、銅板の手形を首から下げる。帰る際にはこの関門となっている場所で手形を返却しなければならないもので、今は一時的に身分を保証するものとなっていた。


 それぞれが手続きを終わらせて、さっそく王宮の中へと入ろうとしたが、周囲には自分達の他に誰もいない。

 クロイドが首を捻っていると、ユグランスは迷うことなく歩き始めていた。


「では、陛下が待っている場所まで私が案内しよう」


「え、案内係は……」


 このような場合、勝手に王宮の深い場所に入られないように案内係が付くものだと思っていたが、ユグランスはそんなものはいないと言わんばかりに首を横に振っている。


「余計な詮索を入れられたくはないから、事前に断っている」


 随分と信用されているらしい。もしくは王宮側にどのような用事で訪ねてきているのか、ある程度は話しを通しているが故に、他者を周囲に置きたくはないという配慮が含まれているのだろうか。


 ユグランスは気にすることではないと言った様子で、クロイド達に王宮内に入ろうと促してくる。

 クロイドとエリオスは一度、顔を見合わせてから、少し肩を竦めた後、ユグランスの後ろに付いて行った。


 ユグランスを先頭に、クロイド達は白い壁に覆われている王宮内を歩くが、すれ違う人達から視線を向けられている気がして、何となく気まずさを感じてしまう。


「見られることに慣れてはいないか」


 クロイド達の心を読んだような言葉がユグランスからかけられて、思わずびくりと肩を鳴らしてしまう。


「……好奇の目を向けられて、居心地が良い奴なんて、中々いないだろう」


 エリオスが肩を竦めながら、わざとらしく溜息を吐く。それに同意するようにユグランスは肩を鳴らしながら笑い返してきた。


「そうだな。……だが、王宮は弱みを見せてしまえば一瞬で足元を掬われてしまう場所だ。相手に隙を見せないように、十分気を付けてくれ」


「ああ、分かっている」


「……はい」


 王宮内で蠢くものは以前と比べれば、緩やかになっているだろう。それでも、誰もが思惑や感情を密かに心の中に抱えている。


 だからこそ、相手に惑わされないように、幼少期の頃の自分に対して、国王は厳しかったのだろうと今更ながらに思った。


 かつり、かつりと三人分の革靴によって、廊下には軽やかな音が響いていた。人払いがされているのか、王宮内を掃除している者や役人と顔を合わせることはそれほど多くはなかった。


 たまに警備中の衛兵とすれ違うくらいだが、首から下げている手形のおかげで不審に思われることなく、進むことが出来た。


 王宮内で仕事をしている者達の中には教団や魔法の存在を認知していない者もいるため、そのような者達を今は遠ざけているのかもしれない。



 暫く歩けば、衛兵が並ぶように立っている扉の前へと辿り着いていた。それは以前ならば、何度も見たことがある謁見の間へと続く扉だった。

 

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