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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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盾の家

 

「王宮側にはすでに謁見の申し込みは済ませてある。……恐らく私が国王に謁見の申し込みをすること自体が珍しいから、向こうは何かが起きたことを察したんだろう。普通の謁見ならば、申請が通るまでかなり時間がかかるはずだからな」


「謁見の場には伯父さんも同席してくれるのか?」


「もちろん、そのつもりだ。クロイドはともかく、エリオスは王宮になど入ったことないだろう?」


「王宮に足を踏み入れる機会なんて、ほとんどないからな。まぁ、『ヴィオストル家当主』が同席してくれる方が助かるよ」


 どうやら、謁見の申請は通っているようで、無事に国王に話を通すことが出来そうだ。

 もし無理だったならば、アルティウス王子に面会を申し込むつもりだったが、こちらが思っているよりもヴィオストル家の名前は大きいらしい。


「こちらの要望としては二つだけだ」


 エリオスはぴしっと右手の指を二本立てて、ユグランスへと示した。


「まず昨晩、教団側で何が起きたのかを説明した上で、支援するために王宮側へと団員を派遣したいことを伝えたい。そして、市街に住まう一般人達を守るために夜間の外出を制限する王令を発令して欲しいんだ」


「ふむ。確かに多数の魔物が市街を闊歩することになれば、一般人への被害は広がっていくだけだろう。少し強引な手かもしれないが必要だろうな。……まぁ、交渉に多少、骨が折れそうだが安全確保のためには仕方がないだろう」


 だが、とユグランスは言葉を続ける。


「少しだけ耳に入れたが、教団側の被害はそれ程までに酷いのか?」


 ただの状況確認のつもりなのだろう。それでも、クロイドは一度、言葉に詰まってしまっていた。エリオスはもしかすると、アイリスの現状を伝えていないのかしれない。


 ふっと顔を上げてから、エリオスは教団内で起きたことを言葉にした。


「教団内に突如、魔物が転移魔法を使って出現したことで、かなりの怪我人が出ている。戦闘によって建物にも激しい損傷があり、安全と呼べる場所は己で作った結界魔法の中くらいだ」


「それほどまでに被害が……」


「だが、それだけじゃない。……悪魔の魔法によって、多数の団員が魂を抜き取られた状態となっている」


「何だと? そんな魔法が存在しているというのか?」


 エリオスの言葉に、ユグランスは眉を中央へと寄せる。人間の魂を抜き取る魔法など、普通に考えれば禁魔法に位置するものだ。

 ヴィオストル家の当主であっても、その存在を知らないことはおかしいことではないだろう。


「悪魔曰く、その魔法は古代魔法らしい。そして……アイリスも他の団員と同様に、その魔法に囚われている」


「っ!?」


 そこで初めて、ユグランスは大きな動揺を見せた。まだ彼と出会ったばかりだが、その表情にははっきりとした怒りのようなものが込み上げているのが分かる程に、厳めしいものになっていた。


「アイリス、を……」


 アイリスはヴィオストル家の伯父一家の顔は知っているが、それでも深い関係ではなかったと言っていた。特に親しくしていたのはエリオスとその母の二人だけだったらしい。


 だが、ユグランスにとってアイリスは、自分の弟の忘れ形見だ。そのため、アイリス個人に対して、何かしらの感情を抱いているのだろう。


 しばらく、怒りによって無言の状態だったが、それでも気持ちは落ち着いてきたのか、ユグランスは深い息を吐いてから紅茶を身体の中へと流し込んだ。


「王宮、市民、団員……。三つの人質か」


「そういうことだ。……だが、どれも守り抜くと総帥が決めた以上、俺達はそれを念頭に行動しなければならない」


 エリオスの瞳に宿っているのは強い意思だ。その横顔が、アイリスが何かを決意した時と似ているように感じられて、クロイドは思わず目を細めてしまう。

 しかし、意識を逸らすように再び、正面へと向きなおした。


「誰も諦めていないならば、何があろうとも進むしかないだろう」


 エリオスが呟いた言葉が、クロイドの心の中へとずっしりと圧し掛かっていく。


 何度か挫けてしまいそうになるたびに、思い出すのはアイリスの姿と言葉だ。

 彼女はいつだって、諦めることなく進んでいた。その意思を受け継ぐように、自分も両足に力を入れて立ち続けなければならない。


 クロイドがぐっと両手の拳に力を入れた瞬間を目にしたのか、目の前に座っているユグランスは強張らせていた表情を少しだけ緩めた。

 そして、クロイドに向けていた視線をエリオスへと戻してから返事を返す。


「そうだな。……ならば、私は私に出来ることと、やらねばならぬことをしようではないか。──『(エスクド)』を名乗る家の当主として」


 気付けば、ユグランスの表情は一瞬にして「当主」そのものになっていた。気さくな性格からはかけ離れた威厳に満ち溢れたその表情に、クロイドはいつの間にか唾を飲み込んでいた。


 数百年間、確かに受け継がれていく「名前」の意味とその役割を当主であるユグランスははっきりと理解しているのだろう。ヴィオストル家が「守り、盾となる家」ということを。


 彼から滲み出ている圧のようなものに思わず押されてかけていたクロイドはぐっと腹部に力を入れてから、視線を逸らすことなくユグランスへと向けていた。


 


いつも読んで下さり、ありがとうございます。

今年最後の更新です。年始は忙しいので、次の更新は1月6日を予定しております。


また、活動報告に年末のご挨拶と、年末絵を載せておりますので、興味がある方がいれば、

どうぞご覧くださいませ。


ここまで書き続けられたのも、いつも読んで下さる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

また、来年もどうぞ宜しくお願いいたします。


それでは、良いお年を。

 

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