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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
706/782

似ているところ

 

 元々、自分のことを王子として接する気はなかったのか、ユグランスはすぐに先程と同様に気さくな表情を浮かべ始める。


「──まぁ、この話はとりあえず置いといて。……改めて歓迎しよう、クロイド・ソルモンド。ヴィオストル家へとようこそ。私がヴィオストル家の当主、ユグランス・ヴィオストルだ」


 そう言って、ユグランスはクロイドへと右手を差し出して来る。その手を取りつつ、クロイドは自分の名前を流れるように告げた。


「初めまして、ユグランス・ヴィオストル侯爵。教団の魔具調査課に所属しています、クロイド・ソルモンドです」


 ユグランスの右手は想像していたよりも大きく、硬かった。もしかすると剣を握る手なのかもしれない。


「ははっ、そのような呼び方をされると何だか、堅苦しく感じるな。気軽に名前で呼んで欲しい。私も君のことはクロイドと呼ばせてもらおう」


「分かりました。お気遣い頂き、ありがとうございます」


 そっと手を離すとユグランスは、にやりと楽しげな表情を浮かべてからクロイドを右肘で軽く小突いてくる。


「それで、君はアイリス・ローレンスの恋人だと聞いているが?」


 やはり、その質問が来るのかとクロイドは内心、咄嗟に身構えていた。


「……はい、お付き合いさせてもらっています」


 すると、ユグランスは胸を仰け反らせてから、はっきりとした声で言い切った。


「我が姪はやらん! 嫁に欲しければ、私を倒してみせろ!」


「……」


 まるでエリオスと最初に会った際の光景がそのまま再生されているような感覚に陥ってしまう。

 クロイドは無言のまま、すっと拳を前へと構えつつ、首を傾げる。


「……とりあえず、力比べでもした方がいいのでしょうか」


 そして、エリオスに確認するように問いかけたが、彼は無表情のままで笑っていた。


「いや、しなくてもいいだろう。……伯父さんも、冗談はそれくらいにしておいてくれ。でなければ、クロイドが本気になりかけている」


「む……。やはり、冗談にしては度が過ぎたか?」


「クロイドは生真面目だからな。俺が冗談でからかおうとしても、いつも本気で受け取るし」


「いえ、それはエリオスさんの冗談が分かりにくいだけですよ」


 ユグランスの言った言葉が冗談だと分かったクロイドは構えていた拳をゆっくりと下した。


 しかし、エリオスと言い、ユグランスと言い、ヴィオストル家の人間は冗談が好きな一家なのだろうか。

 顔だけでなく、性格も似ているようだが、エリオスよりもユグランスの方は感情が表情に出るため、まだ分かりやすいくらいだ。


「はは、すまないな、クロイド」


「いえ……」


 色々とやりづらい気分だが、エリオスと同様に悪気がないのは分かっているため、首を横に振っておくことにした。


「とりあえず、詳しい話は座ってからにしようか」


 そう言って、ユグランスは応接間の方へと案内してくれた。

 応接間も落ち着いた雰囲気の内装になっており、三人がソファに座った機会を見計らっていたように、どこにいたのか使用人の一人が三人分のお茶を運んできてくれた。


 使用人が応接間の外へと出て行ったのを確認してから、エリオスは顔をユグランスの方へと向きなおす。


「伯母さんとフィクスはいないのか?」


 エリオスは屋敷内の物音に耳を傾けるような仕草をしながら、ユグランスへと確認する。恐らく、ユグランスの妻とその息子のことだろう。


「ああ、二人は避暑地の別荘に居るよ。使用人も数人程、そちらに移っているから屋敷内が静かなのさ」


 どうやらヴィオストル家は避暑地に別荘を持っているらしい。ユグランスの返事にエリオスはどこか納得するように頷き返す。


「そうか。ならば、暫くは戻ってこないんだな。その方がロディアートから離れていて、安全かもしれないが……」


「ふむ……。先程、手紙を受け取ったがブリティオン王国のローレンス家に属する悪魔が魔物を市街に放つ、という話か? 」


「市街だけではない。王宮と教団にも同時に、だ」


「何とも面倒なことを計画しおって……」


 ユグランスは顔を顰めながら、長い台の上へと置かれたティーカップを手に取り、紅茶を口へと含める。

 クロイドも同じように紅茶を口へと含んだが、良い茶葉を使っているのか、とても香りが良いものだった。


「だが、王宮には王宮魔法使いが常駐していて、教団からの支援を受け入れようとはしないだろうからな」


「そこでヴィオストル家の出番ということか。まぁ、そのための橋渡し役の存在だからな。このヴィオストル家の名を上手く使うといい、エリオス」


「すまない。だが、助かるよ」


「王宮魔法使いも少しは寛容になってくれれば良いんだが、妙に頭が固い奴が多いからなぁ」


 どこか呆れるような口調でユグランスはふぅっと息を吐く。教団に籍を置いている彼も王宮魔法使いとの間には隔たりのようなものがあるのかもしれない。

 

 

いつも「真紅の破壊者と黒の咎人」を読んで下さり、ありがとうございます。

年末で忙しいため、次の更新は12月31日に予定させて頂きたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

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