表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
702/782

暁闇の五家

 

 訓練場から教会址へと繋げられた通路を使って、教団の外へと出たクロイド達はさっそくヴィオストル家に向かうことにした。

 

 貴族の席に名を置きつつも、数代前までは優秀な魔法使いを輩出する家として有名だったらしいが、現在、「ヴィオストル」の名前で教団に所属しているのはエリオスだけとのことだ。


 他のヴィオストル家の人間は教団に籍だけは置いてはいるが、魔法使いとしての活動はほとんどしていないらしい。



 ヴィオストル家へと向かう道すがら、クロイドはアイリスの父、オルキス・ローレンスのことをエリオスから教えてもらっていた。


 オルキスは元々ヴィオストル家の次男だったらしい。

 彼は魔力が高かったことから教団の魔的審査課に所属しており、そして当時、魔物討伐課に所属していたアイリスの母、アルティア・ローレンスと出会い、恋に落ちたのだという。


 しかし、当時はアルティアとオルキスの結婚は避けられるべきことだったらしい。


 それはローレンス家の存在が魔法使いの世界では大きすぎることと、ヴィオストル家側へと貴族の他家から婚約の打診があったことが関係していた。



 ヴィオストル家は今でこそ貴族の家として有名だが、かつては「暁闇(ぎょうあん)五家(ごけ)」と呼ばれている魔法使いの世界では有名な家の一つだった。


暁闇(ぎょうあん)五家(ごけ)」──それは「(ラミナ)」を司る「スティアート家」、「(ポルト)」を司る「ウィリアムズ家」、「(ケイン)」を司る「ハワード家」、「(カデナ)」を司る「エルベート家」、そして「(エスクド)」を司る「ヴィオストル家」の五つの家を意味する。


 この五家には入らないが「書物(リブロ)」を司る「ラクーザ家」や「守護」を意味する「タリズマン家」などもあるらしい。


 自分も王子時代の時には聞いたことがある名前ばかりだが、それでも彼らの名前に意味と役割が込められていると知ったのは教団に入り、アイリスから教団に関する基礎として学んだ時だ。

 何でも、この五家は遥か数百年前に始まった家だと聞いている。


 「嘆きの夜明け団」が創られた当初、エイレーン・ローレンス達を手助けした者達が家を興した際に、エイレーンから意味が込められた名前を送られたのだ。


 それが「刃」、「門」、「杖」、「鎖」、「盾」と言った意味を持つ名前で、これらの家からは有能な魔法使いが数多く輩出されたのだという。

 そんな経緯もあり、やがて嘆きの夜明け団になぞらえて、暁と闇の両方を併せ持つ「暁闇の五家」と呼ばれるようになったらしい。


 そのため、ローレンス家に次いでもっとも家の歴史が長いとアイリスが説明してくれた。



 また、それぞれの家には特化していることがあると聞いている。


 例えば、スティアート家は剣術による武の家で、この家に生まれた者のほとんどが魔物討伐課に所属していたらしい。つまり、対魔物に特化した家なのである。

 現当主であるブレアに話を聞いたところ、次期当主は現当主による指名か、現当主を打ち負かした者に決まる、というのだからはっきりとした「力」によって自身の実力を示す家とのことだ。


 ウィリアムズ家やハワード家は対人に対する魔法が得意で、各家の当主だけにしか伝わっていない秘匿された魔法も存在しているらしい。

 この両家の人間は魔的審査課に所属する人間が多いとのことだ。


 エルベート家は悪魔や霊的関係、結界魔法などが得意とされている。

 確かにエルベート家の末娘であるハルージャも結界魔法を得意としており、エルベート家のほとんどの人間は祓魔課に所属している。


 ヴィオストル家は基本的には「守る」ことに特化しているが、万能型が多いらしい。

 エリオスを見ていたら分かるように、彼は魔具である手袋を使うと同時に状況によっては式魔(しきま)も使用している。式魔を扱うのは難しいようだが、ヴィオストル家は特に長けているとエリオスが言っていた。



 このように家ごとに特色や得意とするものがあり、守っていたのだがヴィオストル家は他の家と少しだけ違っていた。


 イグノラント王国が国として成り立っていくようになれば、国民は自然と増えていく。

 そして、国民がより豊かな生活を送れるようにと国王のもとであらゆる政策を展開していったが、届く範囲には限界があった。それゆえに、政策を滞りなく行わせるために始まったのが貴族制度だった。


 貴族を国の各地に配置し、国の中央にいる国王からの政策を受けたあとはそれを自分が治めている土地で広げていく。それこそが貴族達に課せられた役目であった。


 今でこそ、貴族が土地を支配しているような制度は時代と共に廃止されていったが、当時はそのようにしながら国を豊かにしていったのである。


 それでも、ただ単に身分を与えるのではなく、自身が持つ実力や国へ大きく貢献したことによって与えられた爵位を持つ者達は己に課せられた役割を果たすために「貴族の家」として台頭していくようになる。


 たまに平民相手に横暴な貴族も居たようだが、そこは公正な裁きのもとで罰せられていた。


 

 この「貴族」という枠組みの中に足を入れたのが「ヴィオストル家」だ。

 この時すでに魔法使い達の中では「暁闇の五家」としての家名が有名になっていたが、それに加えるように貴族入りが決まったことは魔法使い達の世界では衝撃を受けた者が多く居たらしい。


 教団に身を置く人間は、陰ながらも国へと貢献してきた者達ばかりだ。

 それでも貴族となってしまえば、表舞台に立つことにより、陰ながらこの国を支えている存在である「嘆きの夜明け団」としての活動が疎かになることを危惧して、貴族を望む家は少なかったのである。


 しかし、ヴィオストル家は王家と教団の関係を濃くするために、王家の人間──つまり、王女をヴィオストル家に妻として迎え入れ、貴族入りすることを選んだのである。


 この時、世襲となっていた王宮魔法使い達と教団の確執は生まれつつあり、王宮魔法使いの顧問だったイリシオスはやがて王宮の出入りを禁じられるようになった、という状況下にあった。


 それ故に国が興されてから二人三脚のように歩んできていたはずの王家と教団の関係は少しずつ希薄になりつつあった。

 そのことを恐れたヴィオストル家は自分の家を使うことで、王家と教団の絆を繋げようとしたのである。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ