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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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始まりの地点

 

 ミレットがイリシオスへと「秘密の通路」を確保した件について伝達した後は、対応がかなり早く行われた。


 まず、イリシオスによって、全団員達に向けた放送が行われたのである。


 外部へとイリシオスの声が漏れないように細心の注意を施しながら、話されたその内容は「教団外部と通じる打開策を見つけたため、結界を破壊することを撤回する」というものだった。


 その放送を聞いた者達は最初こそは半信半疑だったが、すぐにこの情報が本物で確実性があると分かるやいなや、歓喜の声が広がっていったという。

 やはり、全団員達の魔力を使って結界を破壊することに不安を覚える者も多く居たのだろう。


 夜に備えて魔力を温存しておかなければならないので、喜ぶ者達に安堵を与えられたことにイリシオスもほっとしていたようだ。



 人員の多くは教団の外、つまり街中に出現すると思われる魔物に対応するための対策を練ることになるのだろう。

 魔物が一般人を襲うような状況を作り上げてはならないからだ。


 また、街中で一晩中、魔物の討伐を行っていた団員達や教団の外に家を持っている者達とも合流するようだ。


 特に魔物を討伐していた彼らは一晩中、動き回っていたため、安全な場所での十分な休息が必要だろう。

 今の時間帯は朝であるため、暫く身体を休めてから、夜に備えることになりそうだ。



 一方でリアンが空間を操る精霊と契約して、通路を別の場所へと繋げたことは当事者とイリシオス付近の団員だけにしか情報が渡らないようにと配慮していた。


 表向きにはイリシオスが知る「古代魔法」を用いて、ブレアの手により「通路」は繋げられたと説明することにしたらしい。簡単に言えば、ブレアはリアンのための防波堤となったのだ。


 ブレアは自分の身を守れるし、それなりに立場も確固たるものとなっているため、彼女を害してまで、「通路の繋げ方」を知ろうとする者はいないだろうとのことだ。

 リアンの今後の安全性を考えるならば、ブレアが表に立った方が良いだろう。


 精霊に魔力を多く譲渡したことによる魔力不足で倒れた後、医務室に運ばれたリアンだったが無事に目を覚ましたらしい。

 その際に、通路のことに関して表向きにはブレアが通路を繋げたことにしてもいいかと訊ねれば、彼は快く了承してくれたとのことだ。


 それでも最も活躍したのはリアンであるため、教団内部が落ち着いた後には、こっそりとだが彼に対して大きな褒章が与えられるとブレアが言っていた。



 大きな問題が一つだけ片付いたがそれでも団員達の多くが疑問に思ったのは何故、訓練場に通路が繋がれたのかということだった。


 その理由をブレアは人の出入りが多くても、他者から見て、特に不審がられない場所を選んだと適当に説明していた。


 どうして、ブレアが通路を繋げる役を任されたのかと不満を呟く輩も居たようだが、そこはブレアらしい鮮やかな手腕で言いくるめていた。


 ──文句がある奴はこの通路を通らなくても良い。ただ、自分自身が動かなかったことで、目の前で起きると思われる損失だけを考えておけ。


 その言葉を言ってしまえば、不満を告げていた口は静かに閉じられていた。


 現状ではこの通路だけが外部へと通じることが出来る唯一の通路だ。もし、使うことが出来なくなれば別の方法を探さなければならなくなるだろう。

 それならば、自尊心や競争心などを胸の奥に潜めて、渋々と通路を使わせてもらった方が格段に効率は良いと自覚したに違いない。


 繋がれた通路の入り口となる扉を試しに団員達が行き来していたようだが、ちゃんと教会址へと繋がっているようで、やっと外へと出ることが出来た団員達は安堵の表情を浮かべていた。



 早朝からそのような感じで慌ただしかったクロイド達だが、一息つくように情報課の部屋で、食堂で作って貰ったサンドウィッチを朝食として食べていた。

 食べながらも、手と頭を動かすことを忘れてはいない。


 今の自分達には僅かな時間さえも惜しいのだ。

 時計を見れば今は朝の八時半。余裕があると呼べる時間など、存在していない。


「ふぅ……。これでやっと始まりの地点に立ったということね」


 情報操作が得意なミレットは外部へと通じる通路が繋がったことと、その通路を繋げたのは誰なのか、という二点を団員達へと素早く伝達させていた。

 団員達の目がリアンへ向かないようにと配慮したのである。


「街中に配置する団員の人数や人選については各部課の課長達が考えるらしいわ。主に魔物討伐課と魔的審査課が担うらしいけれど」


「そうか、それならばあとは……」


 クロイドが返事を返そうとした時だった。聞き慣れた低い声が自分達に向けて、発せられたのである。


「──あとは王宮側を説得させるんだろう」


 思わずはっと顔を上げて、そのまま視線を向けた方向に立っていたのは魔的審査課に所属しているアイリスの従兄弟──エリオス・ヴィオストルだった。

 彼は腕を組み、エメラルドを彷彿とさせる凪のような瞳をこちらへと向けていた。

 

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