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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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繋がる場所

 

 ブレアによって開かれた扉の奥に見えたのは「暗闇」だった。

 何も見えない、何も分からない、そんな空間だ。


「……」


 ごくり、とブレアの喉が低く鳴った。これから、未知なる空間に足を運ぼうとしているのだ。怖いもの知らずに見えるブレアでも、少しだけ気後れしているようだ。


「……念のために防御魔法もかけておくか」


 ぼそりと呟くようにブレアは自身の身体に防御魔法をかけていく。経験上、防御魔法を即座にかけることに慣れているのだろう。


「ブレアさん、お気を付けて」


「ああ」


 短く返事を返してから、ブレアは暗闇とも呼べる空間へと足を進めていく。

 すっと、まるで真っ黒の沼に沈むようにブレアの身体は扉の中へと消えていった。


「っ!?」


 この世界とは違う別空間へと入っていたようにも見えて、その場に残されたクロイドとミレットの額には汗が流れる。

 果たして、ブレアは無事だろうか。この扉をまたいだとして、再び戻って来ることは出来るのだろうか。そんな不安が押し寄せてくる。


 暫くの間、無言が続いたがそれ程、長い時間ではなかっただろう。


 ひょいっと顔を出すように、扉の向こう側からブレアが戻ってきたため、クロイド達は一斉に安堵の溜息を吐きだした。

 そんなクロイド達の様子を見て、ブレアは苦笑を零す。


「お前達が心配するようなことは何も無かったぞ。……まぁ、自分の目で見た方が早いかもしれないな」


 こっちに来いと言わんばかりにブレアはクロイド達を手招きする。

 クロイドとミレットはお互いに顔を見合わせてから、ブレアの誘いに乗るように扉の中へと足を進めた。


 扉の内側に入ってみれば、それまで感じていた感覚とは別の心地をすぐに感じ取ってしまう。


 空気が変わったと言えばいいのか、何かしらの塊の中に足を突っ込んでいると言えばいいのか。どちらにしても、この心地が今まで感じたことのない未知なるものだということははっきりと分かる。


「……真っ暗だな」


「ええ。けれど、進む道が見えないのにどこに進めばいいのか分かるって、何だか不思議な感覚だわ」


 この状況をどうにか表現しようと思っているようだが、それでも上手く言葉が出て来なかったようで、ミレットは唸るようにそう呟いた。


 クロイド達はブレアの後ろを歩く。ほんの数十秒歩いた先には、入口の扉と同じ形の扉が目の前へと現れた。

 その扉をブレアは躊躇うことなく思いっきりに開く。


「っ……」


 今まで暗闇の空間に目が慣れてしまっていたため、急激に今よりも明るいものを視界に映せば、自然と瞳を閉じてしまうものだ。


 やがて、扉の向こう側から入ってきていた明るさに目が慣れて来たクロイドとミレットはゆっくりと瞼を開けていく。


「ここは……」


 扉の向こう側に広がっていたのは、今は廃墟のような状態となっている教会址だった。

 見覚えがある教会址の檀上の壁となる部分に通路は繋げられていたようだ。


 壇上の下に広がっている広間には埃だけでなく、木片やガラスの破片が落ちており、先日の騒動が起きた後からは誰かが入ってきているような気配はなかった。


「本当に別の場所へと通路を繋げてしまうなんて……」


 ミレットが口をぽかりと開けたまま、教会址をぐるりと見渡している。何度見ても、セントリア学園の敷地内にある雑木林に佇んでいる教会址で間違いない。


「さて、これで外へと通じる通路は無事に確保出来たわけだが……。ミレット、すぐにイリシオス総帥へと伝達してくれ。──通路を確保したと」


「わ、分かりました!」


 ミレットはすぐに入ってきた扉の方へと戻っていく。伝達魔法を使って、情報課に居るイリシオスへと連絡するのだろう。


「はぁ……。何とか間に合って良かったよ……」


 ブレアは教会址へと続く扉を閉めてから、訓練場へと繋がっている扉に向かって歩き始める。

 その後ろを追うようにクロイドも歩き始めた。


「本当にぎりぎりでしたね」


「ああ。……だが、これで団員達の魔力を消費せずに済む。協力してくれたヴィルやリアン、空間を操る精霊には感謝しないとな」


 訓練場へと続く扉を開けば、先程と同じ空間がそこには広がっているだけだ。


 空間と空間を繋げてしまうこの技術の高度さを他の団員達が無視をしないわけがない。

 それ程までに空間を繋げるということは「異質」であり、「有り得ない」ことの部類に入るものだと思われる。


 この扉について、一体どのように公表するつもりなのだろうかと密かに思ったが、ブレアとイリシオスならばリアンを巻き込まないように公表するだろう。

 精霊と会話することが出来るリアンを悪用されるわけにはいかないので、そのあたりは何かしらの表向きの理由を考えているはずだ。


 元の場所へと戻ってきたことに安堵したクロイドは再び、深い息を吐き出した。


「さすがに緊張したか?」


「それは、まぁ……。未知なる体験なので」


「私もだ」


 ブレアがくっ、と低く笑う姿は悪戯が成功した少年のように見えた。


「まさか生きているうちに精霊と接するどころか、精霊が形成したものを直接、体験出来るとはな……」


 だが、ブレアが苦笑していたのは一瞬で、次の瞬間には精悍な顔つきへと変わっていた。


「まだ始まったばかりだ。今日一日、やり抜くぞ」


 それは剣士というよりも、幾千の戦場を超えて来たような戦士のような顔つきだった。


 今夜の夜十二時に悪魔「混沌を望む者(ハオスペランサ)」は交渉の答えを聞くために再び教団へとやってくる。


 その前に、やるべきことは全て──準備しておかなければならない。


 もう、誰も犠牲にしないために。

 誰も、奪わせないために。


「──はい」


 まだ自分にとっては遠い背中を見つめつつ、クロイドはブレアの部下として、静かに返事を返した。

 

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