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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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精霊との会話

 

 気合を入れなおすように、ぐっと表情を引き締めてから、リアンは背中に背負っている剣を鞘ごと両手に抱えなおした。


「と、とにかく、『黄昏の半月』に宿っている精霊達に、教団内に他の精霊の気配が感知出来ないか、聞いてみますね」


「ああ、宜しく頼む」


「では、始めます」


 一度、ふぅっと深い息を吐いてから、リアンは剣の柄と鞘を撫でるように触れる。


 暫くの間、無言の状態となっていたが、何となく周囲から感じられる「気配」がほんの少しだけ動いたようにも感じられて、クロイドは自分達の周りを見渡した。

 もちろん、自分の目に映る光景は何一つ変わっていなかったが。


 すると、目をぱっちり開いてから、彼は突然、空中に向かって話しかけ始めたのである。


「──うん、ごめんね。急に呼び出しちゃって。でも、四人の中で一番、早耳なのは『アリア』だと思って。そうそう、君の力を借りたくてさ」


「……」


 何もない空間に向けて、独り言のように喋っているリアンだが、その口調はまるで友達と接しているような様子にしか見えない。

 剣に宿っている精霊達とはかなり親しい仲なのが見ただけで分かった。


「……これが」


 ミレットが興味津々と言った様子でリアンを凝視している。彼女もこのような状況下でなければ、精霊について、リアンから色々と聞き出したいのだろう。


「ふむふむ、名前も付けているのね……。なるほど……」


 ミレットはリアンをじっと見つめながら、凄い勢いで手帳に何かを書き込んでいた。


 一方でイトの方は、リアンが精霊と会話することに慣れているのか、特に深く気にする様子も見られず、淡泊にも受け取れる表情でリアンを眺めていた。

 余程、この光景に慣れているのだろう。


「──えっとね、アリアの力を使って、周囲に他の精霊の気配が感じられないか試せないかな? ……え? 浮気? ち、違うよっ! 別に他の精霊と契約したいとかじゃなくって……。あうっ、そんな目で見ないでっ……」


「……」


 リアンは一体、どのような話を精霊と交わしているのだろうか。気になっているのはクロイドだけではないはずだが、誰も口にすることはなかった。


「だから、教団内に他の精霊の気配を感知してもらうだけでいいのっ。……何でも、その精霊は空間を操ることが出来るみたいで……。え? 知り合いの精霊にそんな奴がいたって? 本当? わぁっ、さすがアリア! 物知り! うん、いい子だぞー!」


 まるで子どもを褒めているような口調だが、その気軽さに冷や汗を流しているのは意外にもブレアだ。


 彼女ならば、精霊と対等に会話することがどれほどのものなのか理解しているのだろう。それゆえに、リアンが気軽に精霊と会話していることを驚かずにはいられないのかもしれない。


「……毎回なんですよね、この気が抜けるような会話」


 ぼそりとイトが呟く。リアンが精霊と会話している姿を見ては、イトは毎回のように気が抜けているらしい。


「うん、それでね。教団内にその精霊がいるなら、探して欲しいんだ。ほら、昨日も話しただろう? 教団の結界の中に俺達は閉じ込められちゃったって話。そうそう、だから、その空間を操れるその精霊に頼んで、外へと通じる通路を繋げてもらいたいなぁって」


 本題となる話を精霊に向けて伝えているようだが、何故かこちら側としては気が抜けてしまいそうになるのは、リアンの朗らかな性質ゆえだろう。彼は周りの強張った空気を和らげる力があるらしい。


「──わぁっ、いいの? ありがとう、アリア! 凄く助かるよ! それじゃあ、さっそくだけれど、宜しくね!」


 リアンは空中に向けて、にこりと嬉しそうに笑ってから、両手剣を背中へと背負いなおした。


「どうだった?」


 ブレアが恐る恐ると言った様子で訊ねるとリアンは頼もしげな表情を浮かべつつ、しっかりとした声で答えた。


「風の精霊曰く、他の精霊の気配が教団内からは感じられるとのことです。なので、彼女の力を使って、探してもらえるようにと頼んでみました。見つけ次第、教えてくれるそうです」


「そうか……」


 リアンの返答を聞いたブレアはどこか安堵するように深い溜息を吐いていた。


「俺もその秘密の通路を操っている精霊と顔を合わせることが出来れば、教団側に手を貸してもらえるようにと頼んでみたいと思います。まぁ、精霊は気ままな性質を持っている子が多いみたいなので、上手くいくかは分かりませんけれど……」


 肩を竦めつつ、リアンは少しだけ不安そうに答える。確かに、彼が契約している精霊との仲はとても良さそうだが、初めて顔を合わせる精霊と絶対的に親しくなれる保証はないだろう。

 それを理解しているのか、ブレアも真剣な表情で頷き返す。


「うむ……。とりあえず例の精霊に頼んで、一つだけでいいから外部に通じている通路を開けて貰えるとこちらとしても大助かりだ。あとは魔法で通路を固定すれば、大丈夫だろう」


 今は空間を操ることが出来る精霊に頼むしかないだろう。クロイド達は早まりそうになる気持ちを抑えつつ、リアンのもとへと風の精霊から連絡が来るのを待っていた。

 

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