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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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通信用魔具

 

「それじゃあ、さっそくヴィルに通信してみますね。多分、今の時間帯なら、起きていると思うので」


 ミレットの顔はかなり顰められていたが、状況が状況なので文句を言っていられないと分かっているのだろう。

 赤茶色の雫の耳飾りを左耳につけてから、意識を集中するためなのか瞼を閉じた。


 見えない空圧のようなものがミレットから感じられ、一瞬だけだがクロイドの肌を撫でるように通り過ぎていく。


 ……ミレットの魔力が耳飾りへと流れている。


 耳飾りに魔力を流すことで、対となっているヴィルの耳飾りに連絡が行くような仕組みになっているのだろう。


 どうか、この魔具が外部と連絡が取ることが出来ますようにとクロイドが静かに祈っていた時だ。

 ミレットがぱっと目を開けてから、顔を上へと向ける。


「ヴィルっ! 聞こえるなら、返事をしなさいよ! でないと、今後は一切、水宮堂で買い物しないからね!」


 その呼びかけ方は一体どうなのだろうかと思ったが、ミレットが言葉を発してから数秒後、赤茶色の雫は突如として光り始める。


「──わっ。ちょっと突然、耳元で叫ばないでよ! うるさい!」


 ミレットは突如、誰かに向かって叱り始める。その口調は自分達に対するものではなく、明らかにヴィルと接している時の口調だと気付いた。


 どうやら、耳飾りの魔具による通信は可能だったようだ。そのことに安堵したのか、隣に立っているブレアからは深い溜息が漏れていた。


「うるさいってば! もう少し静かに喋れないの!?」


 耳飾り越しに通信しているようだが、ミレットだけにしかヴィルの声は聞こえていないようだ。


「別に私はあんたになんか用はないけれど、ブレアさんが聞きたいことがあるのよ。……え? ああ、あんたも教団の結界に異常が起きていること、知っていたのね。そうよ、それに関すること」


 いつも耳が早いヴィルだが、教団内で問題が起きていることをすでに知っているらしい。もしかすると、彼独自の情報収集の経路を持っているのかもしれない。


「私だけじゃなくて、周囲に音声が聞こえるように出来ない?」


 ミレットは耳飾りの向こう側にいるヴィルに色々と促しているようだ。するとミレットは突然、耳飾りを外してから、自分の右手の掌の上へと載せる。


『──あー……。聞こえているかな?』


 耳飾りの向こう側からはヴィルの声がはっきりと聞こえた。恐らく、彼が周囲に音声が聞こえるようにと耳飾りに何かしらの細工を施したのだろう。

 本当に器用な人だなとクロイドは密かに感心していた。


「ヴィル。すまないな、突然呼び出して」


 ブレアが耳飾りに向けて声を発すると、向こう側からはどこか苦笑するような声が漏れ聞こえて来た。


『お気になさらず。魔具調査課所属ではなくなってしまいましたが、これでも団員の一人ですからね。教団が大変なことになっているならば、いくらでも手をお貸し致しますよ。俺も外部から教団内部に入れないか、調べていたところだったので。……それで俺に話って一体、何でしょうか』


「実はな、お前が入団した当初の話を聞いたんだが……」


 ブレアはヴィルに向けて、先程ナシル達から聞いた話を淡々と話した。

 暫くしてから、ヴィルは「ふむ……」とどこか思案するように呟き、言葉を返してくる。


『ありましたねぇ、ロディアート時計台まで続いている不思議な通路を通ったこと。数年も前のことなのに、ナシル達もよく覚えていたなぁ』


 彼はどこか感心するように呟いてから、言葉を続けた。思い出すように呟かれるのは、記憶の端に置いていた情報を引き出しつつ喋っているからだろう。

 それでもヴィルは淀むことなく、彼自身が以前、体験したことを語ってくれた。


『確かにあの日以来、通ったはずの通路──木製の扉と同じものを見かけることはありませんでしたね。あの時はそれ程、詳しく調べるようなことをしませんでしたが……。そうか、あれが総帥さえも存在を知らない「秘密の通路」というやつだったのか……』


 どうやら本人も自覚していなかったようで、まるで他人事のように唸っていた。


「もし、その通路に関することを覚えているならば、詳しく話してくれないか。……教団の外部へと繋がる通路を見つけなければ、全団員の魔力を使って、結界を無理矢理に破壊しなければならなくなるんだ」


『うわっ、それは大変ですね。まぁ、結界を解除するにはそれなりに時間と労力、技術が必要となってきますからね。力業でこじ開けた方が早いかもしれませんが、そうなると魔力不足に陥る団員が一気に増えそうですねぇ』


「そうだ。それを考慮しているからこそ、外部へと繋がる通路を見つけなければならないんだ。……一応、普段は他の団員達には隠されている通路が通れるか確認したようだが、結界の異常がその通路にまで影響していて通ることは出来なかったらしい」


『なるほど。……まぁ、俺が覚えている限りで良ければお話しましょう』


 先程よりも低めの真面目な声色で、ヴィルは静かに話を切り出してきた。

 


 おかげさまで、「真紅の破壊者と黒の咎人」が200万字突破致しました。

 とても長いお話なのに、いつも読んで下さりありがとうございます。励みになっています。

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