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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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連絡の取り方

 

「……とりあえず、ヴィルに連絡出来れば、その通路について詳しく話を聞くことが出来るかもしれないな」


 何とか気を持ち直したのかブレアは深い息を吐いてから、顔を上げる。


「でも、電話線も切られているし、伝達用の魔具は結界の外に出られないし……」


「ヴィルも滅多なことがない限り、教団には足を運ばないからなぁ……」


 ナシルの呆れたような呟きにいち早く反応したのはクロイドだ。


「……いえ、もしかするとヴィルさんと連絡が取れるかもしれない可能性が一つだけあります」


「えっ?」


 その場に居る皆の視線がクロイドの方へと集まってくる。クロイドは少し居心地の悪さを感じつつも持ち出した話の続きを話すことにした。


「……情報課のミレット・ケミロンのことを知っていますか」


 すると、クロイドの言いたいことが分かったのか、ブレアは「くっ」と低く笑い声を上げた。


「なるほどな。確かにヴィルならば、ミレットに個人的に連絡が取れる魔具を渡している可能性はあるな。よく、自作の魔具をミレットに贈っていると聞いたことがある」


「そういうことです。なので、ミレットに聞いてみれば、ヴィルさんと連絡を取る方法が分かるかもしれません」


 ミレットにとっては迷惑かもしれないが、今は彼女だけが頼りだ。

 そして、ヴィルが作った魔具がどうか、教団を囲っている結界の外と通信できる手段として使えるものであることを祈るしかない。


 小さな期待だが、可能性があるならば全てやるべきだ。少しだけ遠回りをして、最善の方法が見つかるならば、その方が良いに決まっている。


「それじゃあ、ミレットのもとへと行くか。だが、魔具調査課を空にしておくわけにはいかないから、交代しながら食堂で朝食でも食べて来い。食堂周辺は魔物によって破壊された形跡はないと報告を受けているから、何もなければ通常通りに調理員達が食事を提供してくれるはずだ」


 ブレアはナシル達に向けて、朝食を食べてくるようにと促す。

 自分も後で軽食くらいは食べておいた方が良いだろう。でなければ、力を使いたい時に踏ん張れなくなってしまう。


「うーん、それじゃあ俺とライカで先に朝食を食べてくるから、ナシルは魔具調査課で留守番しておいてくれる?」


 ミカはライカにフード付きのローブをすっぽりと被せながら、ナシルへと告げる。


「分かった。……だが、朝になったからと言って、油断はするなよ? 強力な魔物は昼間でさえ出現するらしいからな」


「分かっているよ。念のために魔具も持って行くし。……それじゃあ、ライカ。俺と一緒に朝食を食べに行こうか」


「えっ、あ、はい……」


 ミカの手によって魔具調査課の外へと出る準備が整えられたライカははっとしたように首を縦に振り返す。だが、視線はゆっくりとクロイドの方へと向けられていた。


「……」


 魔力を宿した影響で青い瞳となってしまったライカの目元は少しだけ赤くなっていた。


 ……泣いたのか。


 その涙はどのような理由で流したのかをクロイドはすぐに察してしまう。

 

 先輩達からはアイリスに関することは言及されてはいない。それは恐らく、クロイドのことを気遣ってくれているのか、あえて話には触れようとしてこなかった。


 そして、目の前にいるライカもアイリスの今の状態のことを伝え聞いているのかもしれない。だからこそ、彼は悲しくて涙を流し、そして今は気丈に振舞っているのだろう。


「……ライカ、気を付けろよ」


 クロイドはフードを被ったライカの頭にぽんっと手を置いてから優しく撫でる。

 フードの下では息を短く飲み込んだ音が聞こえたが、ライカはすぐに強く頷き返した。


「……クロイド兄さんも、気を付けて」


 それだけ告げて、ライカはミカの後を追って魔具調査課から出て行った。彼らを見送ってから、クロイドはブレアの方へと振り返る。


「これから情報課の方に向かうんですよね? 俺も付き添います」


 身体や頭を動かしていないと、脳裏に目を閉じたままのアイリスの姿が浮かんできてしまう。

 そんなクロイドの気持ちを察してくれているのか、ブレアはすぐに首を縦に振り返してくれた。


「それじゃあ、私とクロイドは情報課の方に行ってくるから。何かあったら、連絡を寄越してくれ」


「了解です」


 課長代理としてナシルをその場に残してから、クロイドはブレアとともに魔具調査課を出た。


 夜が明けた教団の建物内は昨晩と比べると少しだけ静かだ。だが、これから始まることに皆が備えているのだろう。


 ……まるで嵐の前の静けさのようだ。


 時間が間に合うならば、結界を壊さずに外部へと通じる通路を見つけなければならない。クロイドは唇をきゅっと結び直してから、ブレアの後を付いて行った。

  

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