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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
愚者の旅立ち編
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既視感

 

「……とりあえず、これらの情報を上層部と他の課にも共有してこよう。ナシル、その間に課長代理を頼む。ミカは魔具調査課周辺に魔物が近づかないように警戒しておいてくれ。ライカはこの場所で待機しておいて欲しい。そして、アイリスとクロイドは魔物討伐に専念してくれるか」


 ブレアは一つ、息を吐いてから、その場にいる全員を見渡していく。


 厳しさは含まれているが、そこに焦りの表情は浮かんでいないように思えた。他人にも自分にも厳しいブレアのことだ。感情を覚られないように隠しているのだろう。


「分かりました」


「了解です」


 誰もが了承の意味で頷き返す。それをブレアは安堵したような表情で受け取っていた。


「それでは、行ってくる。くれぐれも気を付けるように。いいな?」


「はい」


 ブレアは少し時間がかかるだろうと告げてから、早足に魔具調査課を出て行った。


「……さて、それじゃあブレア課長に言われた通りにそれぞれの役目を全うしようか」


 ナシルはぱんっと手を叩いてからアイリス達に動くように促してくる。


 普段は陽気なナシルだが、このような状況下ではブレアの代わりとして、頼り甲斐のある表情を浮かべつつ、その場に居る者達に指示を促していた。


「ライカはミカの手伝いをしてくれるかい? 他者の魔力を察知する能力はミカよりもライカの方が長けているだろうから」


「分かりました」


 役目を任せられたライカは小さく意気込むように答える。それから、ふっとアイリス達の方へと振り返って、顔を見上げてきた。


「……アイリス姉さん達もどうか、気をつけて下さい」


「ええ。ライカも先輩達の言うことをよく聞いて、十分に気を付けてね」


「はい」


 アイリスはライカの頭をぽんぽんっと優しく撫でるように触れてから、クロイドと共に魔具調査課を出た。


 廊下を行き交う団員は先程よりも増えているが、誰もがしっかりと魔具を装備しているようだ。


 少しは事態が収まったかと思ったが、魔物が転移魔法陣を使って、教団の敷地内に出現する状況はあまり変わっていないらしい。


「……とにかく、根本的な問題を解決した方がいいかもしれないな」


「……教団内のどこかに居るハオスの姿を探す、と言うこと?」


「ああ。……だが、ハオスのことだ。教団側に魔力反応を察知されないように細工しているだろうな」


「つまり、当てがない状況ということね……」


 アイリスは口元に手を添えつつ、少しだけ考える。


「それならば、ハオスが行きそうな場所を探してみるのはどうかしら。彼が何かしらの目的を持って、教団を襲撃しているならば、理由があるはずよ」


「ハオスが持っている理由、か……」


 アイリスとクロイドは廊下を移動しつつも、ハオスが以前、口にしていた言動などを思い出そうと試みる。


「……確か、ハオスは人間の魂を集めて、魔物に与えると言っていたな」


「そうね。そして、狂暴な魔物を作り上げるつもりだと話していたわ。……恐らく、教団内で暴れている魔物はハオスに手綱が握られている魔物達でしょうね」


「ふむ……。ならば、ハオスは最初から教団を襲う手駒として魔物を収集しては囲っていたということだろう。だが、これほど大掛かりなことをして、何が望みなんだ……?」


 口にしても、分からないことだらけだ。

 だが、確実にブリティオンのローレンス家は何かを企んで、こちらに接触していることだけは分かっていた。


「……欲しいものがあるのかしら」


「え?」


「魔物を囮にして、こちらの目を欺こうとしているのは、自分の目的を覚らせないためなのでしょう。それならば、そうまでして何か欲しいものが教団内にあるのかもしれないわ」


「……」


 アイリスの意見にクロイドは眉を深く寄せつつ、悩ましい表情を浮かべる。


「ブリティオンのローレンス家が欲しいもの……」


「最初は……血統だと思ったの。私に流れているイグノラントのローレンス家の血。でも、それが目的ならば、無理矢理にでも私を攫うことくらい出来たはずでしょう? 相手は教団の魔法使いを一蹴出来るほどの力を持っているというのに、わざわざ手間がかかるようなことをすると思う?」


「それは確かに、そうだが……」


 言いよどむクロイドも薄々、そのように思っていたらしい。


「それに教団を直接的に襲う、ということは教団の中に欲しいものがあるからだと思うの。……知識とか技術とか、未知の魔法とか……」


 その中に、一瞬だけ総帥であるイリシオスの姿が思い浮かんだ。教団を襲う理由として、最もとされている理由は不老不死である彼女だろう。


 イリシオスの中には千年分の知識や技術、経験、そして魔法が刻まれている。

 教団が彼女を守り続けるのは、その身を他者に悪用されないためだ。


 それ故に、ハオスの真の目的がイリシオスではないかとアイリスは思っていた。


「だが、ハオスがイリシオス総帥に接触しようと思っているならば、今頃、塔を覆っている結界に攻撃しているんじゃないか?」


「そうよね。でも、現時点ではそのような報告は入ってきていないみたいだし……」


 教団を覆う結界よりも、塔を覆っている結界の方が強固だと聞いている。単純な火力任せの攻撃では破ることは出来ないのだろう。


「とりあえず、塔周辺の魔物を討伐しに行きましょうか。ハオスが出現するか分からないけれど、見回ればどこかで遭遇する可能性もあるし」


「そうだな」


 アイリス達は頷き合ってから、建物内の廊下を小走りで駆け抜けていく。


 ……あ、れ?


 だが、一瞬だけ今、自分が見ている光景をどこかで見たような気がして、アイリスは妙な既視感を抱いた。


 しかし、あまりにも一瞬だったので、気のせいだろうとすぐに首を振り、走ることに集中する。


 思い出せないことを気持ち悪く感じるが、それでも今は優先すべきことがあるため、何かに既視感を抱いたことは置いておいた方がいいだろう。


 それでも、よく分からない不安がこの身を侵食していく気がしてならなかった。


 前方を駆けるクロイドの背中を眺めつつ、アイリスは左手で胸の辺りをぎゅっと掴んでは何かを抑え込んでいた。

 

いつも「真紅の破壊者と黒の咎人」を読んで下さり、ありがとうございます。

本日、このお話が連載三周年を迎えまして、伊月のTwitterのアカウントの方では三周年記念として予告風動画を掲載しています。

興味がある方はどうぞご覧下さいませ。また、活動報告の方も更新しております。

これからもどうぞ、宜しくお願い致します。

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