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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
昏き慟哭編
624/782

半壊

 

 改めて、セリフィアが半壊させた屋敷を目にして、その威力がいかに凄まじかったのか理解してしまった。


 あの攻撃をまともに受けていれば、この身体は上下どころか、全ての部位がもがれてしまっていたかもしれない。そう思える程に、残された爪痕は生々しいものだった。



 黒筆司(こくひつし)であるウェルクエントはこの屋敷を借り物だと言っていたが、その修繕費は恐らくアイリス達では想像も出来ない額になるのだろう。

 その辺りに関してもアイリス達の知らないところで話し合いが行われることになるに違いない。


 ちらりと視線を向ければ、屋敷の二階の一部は部屋として機能しない程に壊されており、屋根も飛んでいる部分もあった。

 どうか、飛ばされた瓦礫によって、人的被害が出ていないことを祈るしかない。


 屋敷周辺には一般人が近づかないように結界が張ってあるとのことだが、この騒ぎを聞きつけないで欲しいと誰もが思っていることだろう。


 建物の破片が芝生の上に落ちているのを横目で眺めつつ、アイリスとクロイドが屋敷の敷地内へ戻ってくると、こちらの姿が認識出来たのか、慌てたように走ってきたのはブレアだった。


 彼女の背後では瓦礫と化した建物の中で、遺体となっている者達を捜索している団員の姿が見えた。


「アイリス!」


「ブレアさん……」


 アイリスはあの時、ブレアの腕を振りほどいてしまったことに申し訳なさを感じており、少しだけ身体を縮めてから頭を真っすぐに下げた。

 上司の命令を無視したのだから、罰があるかもしれない。


「ブレアさん。あの時、命令を無視してしまって、申し訳ありませんでした」


 アイリスが緊張気味に謝罪すると、頭上からどこか気が抜けたような溜息が漏れ聞こえた。


「そんなことはいいんだ。……それよりも、怪我はしていないか?」


 ブレアはアイリスの両肩を強く掴み、上から下までじっくりと見下ろしていく。


「特に怪我などはしていません。ただ……セリフィア・ローレンスには転移魔法陣で逃げられました」


「人間なのに転移魔法陣まで使えるのか……。向こうのローレンス家は厄介な魔法を知っているようだな……。だが、お前に怪我がなくて良かったよ」


 そう言って、ブレアは気遣うようにアイリスの肩をぽんぽんっと軽く叩いていく。


 きっとブレアもアイリスが、セリフィアの件でどことなく気落ちしていると気付いているに違いない。それ故に、これ以上の詮索をしない気遣いが窺えた。


「あの、ブレアさん。屋敷内で何が起きたのか、詳しく説明してもらってもいいですか」


「ああ」


 クロイドは外で警備していたので、話し合いの場でどのようなやり取りがあったのかを詳しくは知らないのだろう。

 ブレアは屋敷へと戻る足を進めつつ、クロイドに説明し始めた。


「教団と組織はお互いに警戒し合っていたが、それでも話し合いは始めることは出来たんだ。だが、話し合いの途中でエレディテル・ローレンス……いや、彼に扮していたセリフィア・ローレンスが、イグノラント側とブリティオン側に即死する威力の攻撃を仕掛けて来たんだよ」


「……」


 セリフィアの最初の攻撃はどうやら即死する威力を持った魔法だったらしい。


 水宮堂で購入した腕輪やエリオスから渡された魔符、そして事前に教団側に結界が張られていなかったならば、こちら側にも負傷者が出ていただろう。改めてそう思うとぞっとする話だ。


 ……それでも、セリフィアからは明確な殺意が漏れていなかったわ。


 ただ単に殺意を隠すことが上手いのか、それとも──殺意自体を持っていない殺戮行為だったのか、一体どちらなのだろうか。

 どちらにしても、セリフィアが人を殺す行為に随分と長けているようにも感じた。


「それは……セリフィアは最初から組織と教団の人間を殺すつもりで、話し合いの場に来ていたということでしょうか」


「恐らくはな。……死んだ組織の人間も突然の奇襲に反応しきれていないようだった。防御魔法はその身にかけていたのだろうが、セリフィアの魔力の方が強かったんだろう。……あいつの殺し方はあまりにも的確だった。よほど、腕が慣れているようにしか思えなかったな」


「……」


 ブレアの冷めた言葉にアイリスはごくり、と唾を飲み込んだ。


 確かにあれ程の魔力を有している人間を見るのは初めてだった。ブレアやエリオスも教団内では上位に入る程の魔力の持ち主だが、セリフィアは同等かそれ以上のようにも感じた。


 それは簡単に言うならば、脅威と言うべき存在なのだろう。


 魔法を使う際には普通は魔具と呪文、そして動作といったものが必要となる。

 特に魔具は魔力を具現化させるための媒体であり、呪文や動作は魔法を発動させるための引き金とされている。


 だが、セリフィアは呪文を唱えることも魔具を持つこともないまま、殺気をこちらに覚らせないまま一瞬にして攻撃を仕掛けてきていた。

 恐らく、確実に相手を殺すためなのだろうと考えられる。


「……ブリティオン側では内部抗争でも起きているんですかね」


 クロイドは顔を顰めたまま、呆れたように溜息を吐いた。


「もしかすると、そうなのかもしれないな。だが、こちらまで勝手に巻き込まないで欲しいものだよ。何とか咄嗟の攻撃に対応出来たとは言え、一歩でも間違えればこちらが負傷していたんだからな」


 愚痴のように呟きつつ、ブレアは半壊した屋敷をどこか遠い目をしながら見つめていた。

 

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