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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
昏き慟哭編
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防御魔法

 

「兄さん! ……先に到着していたのね」


 アイリスは剣の柄にかけていた手を下ろしてから、すぐに笑顔を浮かべる。エリオスは扉を大きく開いてから、アイリス達に屋敷の中に入るようにと促した。


「ああ、俺は黒筆司(こくひつし)と一緒に先に現地入りしていたんだ」


「そうだったの。……でも、私達が屋敷に到着したことによく気付いたわね」


 アイリス達が屋敷の扉を開ける前に、エリオスによって開かれたので驚いたくらいだ。


「屋敷を囲っている結界内に誰かが入ったと報告を受けたからな。……ここまで来るのに気を張って、疲れているだろう。暫くの間、屋敷内で休んでいるといい」


 屋敷の中へと案内されたアイリス達はとある部屋の一室へと通された。


 室内には年代物の長椅子と長い台が置かれているだけで、他には何もない殺風景な部屋である。絨毯は以前から敷かれているもののようで、色あせてはいるが破れてはいなかった。


 恐らく、前の屋敷の持ち主が置きっぱなしで放置していた家具をそのまま手入れして使うことにしたのだろう。


 するとエリオスはふっと、クロイド達の方へと視線を向ける。


「クロイド。アイリスのことをいつも見てくれて、ありがとう。俺としてはクロイドがアイリスの傍に居てくれるだけで、気が楽だ」


「いえ、自分がそうしたいと思って、今回は付いて来たので」


「だが、クロイドのおかげでアイリスは救われている部分が多くあるだろう。感謝している」


 そう言って、エリオスはふっと笑みを浮かべる。その笑顔をほんの一瞬でも女性に見せれば、顔を赤らめて卒倒してしまうだろう。

 次にエリオスはイトとリアンへと視線を向けた。


「俺は魔的審査課のエリオス・ヴィオストル。君達は魔物討伐課のユキ・イトウとリアン・モルゲンだったな。二人もここまで無事に着いて良かったよ。特にイト……だったか。君には替え玉役という面倒な役を押し付けてしまって済まない」


 エリオスの言葉にイトは軽く首を横に振り返した。


「いえ。自分に出来る役目を受けただけですので。……他にも替え玉役の方がいるとのことですが、そちらは大丈夫でしょうか」


「今のところ、誰かが襲撃されたという連絡は来ていないようだ。イリシオス総帥の警備もしっかりと整えられているから、心配はいらないと思う」


「そうですか……」


 アイリス達が安堵の溜息を吐いていると、屋敷の階段を下りて来る音が聞こえたため、部屋の入口の方へと視線を向けてみる。


 すると、同じように団服を着たウェルクエント・リブロ・ラクーザが室内へと入ってきた。


「やあ、こんにちは。皆さん、ご無事で何よりです」


「今日は無理を言って、話し合いの場に参加させて頂くことになり、申し訳ありません」


「ああ、堅苦しいのは止めましょう。それにアイリスさん達の実力を買って、護衛として参加して頂いているのですから、こちらとしてはありがたい限りですよ。あと、せっかく同い年なんですから、気楽に喋って下さい」


 そう言われても、彼は教団の上層部の一人であるため、軽々しく話しかけて良い人物ではない。アイリス達は上手い事、答えることが出来ずに曖昧な表情を浮かべて押し黙った。


 アイリス達の考えていることが分かっているのか、ウェルクエントは困ったように眉を下げて、それからイトの方へと視線を向けた。


「確かお名前はイトさん、でしたね。今回は替え玉役を引き受けて下さり、ありがとうございました。さっそく、幻影魔法を解かせてもらいますね」


「はい、宜しくお願いします」


 ウェルクエントはイトの前に立つとローブの下から、魔具である羽根ペンを取り出して、解除の呪文を唱えて行く。


 イリシオスの姿をしていたイトの身体は一瞬だけ光を帯びると、すぐにその光は収束していき、やがていつもと同じイトの姿がそこには現れた。


「長い時間、幻影魔法をかけていましたが、身体に違和感などはありませんか?」


 ウェルクエントは羽根ペンをローブの下へと戻しながらイトへと訊ねる。

 イトは自分の姿が元に戻ったことを確認しつつ、首を横に振った。


「いいえ、特には」


「それならば良かったです。……念のためにと思って、替え玉を頼んでおきましたが、思っていたよりもブリティオン側には動く気配はなかったようですね。イリシオス総帥達の方も特に奇襲を受けることなく、順調にこちらへ向かっていると報告を受けているようですし」


 ウェルクエントの言葉にアイリスは思わず二度目となる安堵の溜息を吐いた。どうやら、イリシオスも無事らしい。


「エリオスさん、四人に防御魔法がかけられた魔符を」


「ああ、そうだな」


 エリオスはローブの下から魔力が込められた魔符を四枚分、取り出してからアイリス達へと配った。


「兄さん、これは?」


「あらゆる防御の魔法が込められた魔符だ。身体のどこでもいいから、張っておいてくれ。……いざという時には、この魔符によって防御壁が展開して、お前達の身体を守ってくれるだろう」


「……ありがとう、兄さん」


 アイリスは魔符を握り潰さないように注意しながら、胸元へと寄せた。


「特にアイリスは話し合いの場に出席するからな。用心しておくことに、越したことは無い」


「ええ」


「他の三人には屋敷周辺を警備してもらうことになるだろう。その際には、十分に周囲を警戒するようにしてくれ」


「はい」


 伝える話は終わったのか、エリオスとウェルクエントはお互いに頷きあっている。


「それでは、もうしばらくここで休んでいて下さい。あとで呼びにきますので」


「今のうちに、魔具に不備がないかを確認しておくといい。それじゃあ、また後で」


 二人はそう告げると部屋から出て行き、そして二階に向かっているのか階段を上っていったようだ。


 再び、四人となったアイリス達はとりあえず、エリオスからもらった魔符を身体のどこかに張ることにした。


「それにしても、かなり強力な魔法がかけられているようだな、この魔符は」


 クロイドがエリオスからもらった魔符を眺めながら、感服するように呟いた。


 魔力を感じ取れないアイリスは、魔符にどのような力が込められているのかは分からないが、それでも魔符に託された思いは確かに感じ取ってはいた。


「出来るならば戦闘には入りたくはないですね。国は違っても、同じ人間ではあるので」


「そうだよなぁ。でも、甘い事は言っていられないと思うし、気を引き締めて警備をしないとな」


 リアンは気合が入っているのか、意気込みつつも胸の辺りに魔符を思いっ切りに張り付けていた。瞬間、リアンによって張られた魔符は溶け込むように姿を消していく。


「何だか、身体が温まった気がするね。これも防御魔法の効果かな?」


「そうかもしれないわね。……でも、この魔符の魔法が展開されるような状況にならないことを祈るわ」


「そうだな……」


 アイリスの言葉に他の三人も微妙な表情を浮かべながら頷き返す。

 「嘆きの夜明け団」と「永遠の黄昏」の話し合いが始まるまで、残り数時間程が迫ってきていた。

 

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