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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
昏き慟哭編
604/782

前日準備

 

 黒筆司(こくひつし)であるウェルクエント・リブロ・ラクーザの手配によって、イグノラントの「嘆きの夜明け団」とブリティオンの「永遠の黄昏」による二組織の話し合いが、イグノラント側の領土で行われることが決定した。


 教団の総帥であり、不老不死であるイリシオスの参加については異を唱える者もいたが、彼女の強い意思によって参加することが決まった。


 教団側の参加者は総帥のイリシオスと黒杖司(こくじょうし)のアレクシア・ケイン・ハワード。課長からは魔具調査課のブレア・ラミナ・スティアートと魔物討伐課のティグス・グラディウス。


 そして同じく話し合いの場に参加する護衛として、魔物討伐課からセリル・リッツ、魔的審査課からはエリオス・ヴィオストルとアーシー・トルフィードが参加している。


 セリル・リッツは以前、アイリス達が一週間程、お世話になったキロル・リッツの息子らしい。

 一年程前に魔物討伐課だったアイリスは彼と同じチームではなかった上に手合わせもしたことはなかったので、今回の顔合わせがほぼ初対面だ。


 また、魔的審査課から従兄弟のエリオスが参加することにも驚いていた。彼は特別魔法監察官なので、その腕を見込まれたようだ。

 アーシー・トルフィードも同じく特別魔法監察官だ。エリオスと同い年で、話は合う方らしい。


 そして、アイリスはブレア推薦による参加となっている。もちろん、参加することを知っているのは上層部でも一部だ。


 魔力無し(ウィザウト)である自分が魔法使いだらけの話し合いの場において、咄嗟の戦闘時には足手まといになりかねないと意見する者が出ることを見越しているからだ。

 そのため、参加する者達だけしか、アイリスが同席することを知らないでいた。


 話し合いの場には参加出来ないが、その場所までの道中に同行する護衛もアイリス達の他に数人程、選ばれているらしく、その中にはクロイドだけでなく、魔物討伐課のイトやリアンといったアイリスが見知った人物も選ばれており、少しだけ安堵したのは秘密である。


 ちなみに、話し合いに参加することは魔具調査課の先輩達にも秘密にしているため、先輩達やライカには泊りがけの任務で数日ほど不在にすると伝えている。


 課長であるブレアの不在時にはナシルが課長代理として任務の通達や確認、処理などを行うようだ。

 ライカのことは先輩達が任せて欲しいと胸を叩きながら笑顔で言っていたので、大丈夫だろう。


 ライカは少しだけ寂しそうな顔をしたが、いってらっしゃいと笑って送り出してくれたため、頭を何度も撫でてしまった。



 当日に至るまで、参加する者達による話し合いが数度ほど行われ、イリシオスに対する安全確認などを行ってから、秘密裏に教団を出発することになった。


 今回の両組織の話し合いの場所として決まったのは、海をまたいだ国であるブリティオンに一番近い港がある町、「ジャサント」に隣接する森に佇んでいる屋敷だ。


 この屋敷は持ち主が不在だったため、黒筆司のウェルクエントが手を尽くして、一時的に借りることが出来たらしい。

 この場所ならば人目もないため、魔法使い達の話し合いの場には最適だろう。


 ジャサントまでの道のりはロディアートの駅から最寄り駅まで汽車に乗って向かうようだ。途中からは馬車を利用しての移動になるだろう。


 しかし、参加する全員が固まっての移動ではなく、目的地となる最寄り駅までは別々の移動になるらしい。

 それは恐らく、移動中に襲撃されることを考慮しているからだと思われる。


 そのため、イリシオスの姿も他者から見えないように隠され、そして替え玉も用意されているとのことだが、その替え玉役にはなんとイトが選ばれていた。

 その理由は彼女が魔物討伐課内で腕が立つ上に、かなりの小柄であるからだ。


 本人はそういう役目を求められるならば仕方がないと言って了承していたようだ。それでもロディアートからジャサントまでの道のりにおいての替え玉となっている。


 アイリス達はそんな彼女を護衛しつつ、人目を憚って夜遅くにジャサントまで夜汽車に乗って行くつもりだ。


 現地に到着するのは早朝だろう。話し合いが行われるのは昼過ぎからだと聞いているので、問題がなければ移動する時間としてはちょうどいいくらいだ。




 イグノラントとブリティオンの話し合いが行われる前日。アイリスは教団の寮の自室で着替えていた。


「……よし」


 アイリスは編み込んだ髪を赤いリボンで一つにまとめて結い上げる。

 着ている服が団服なのは、この話し合いの場が正式なものだからだ。それでも今回は短いスカートではなく、動きやすいようにズボンを履いていた。


 腰に長剣と短剣を下げて、ヴィルの水宮堂から新たに購入した魔法にも物理にも、敵だと認識したものからの攻撃を防いでくれる「雨宿りの腕輪」という透明な石に美しい細工が施された腕輪を装着する。


 そして、最後にクロイドから貰った黒い石が付いた首飾りを首にかけてから、全身を覆うようにローブを羽織った。

 まるで戦支度でもしている気分なのに、心は随分と落ち着いていた。


 持っている物に忘れ物がないかを確認してから、アイリスは自室を出た。部屋の扉に鍵をかけて、ゆっくりと廊下を歩き出す。


 夜の時間帯である寮内で、誰かと鉢合わせすることはなかった。今の時間、任務に行っている者かすでに就寝している者しかいないだろう。


 他の団員達の目に留まらないようにアイリスは静かに、そして素早く廊下を移動する。


 向かうのはクロイドやイト達との待ち合わせ場所に指定している教団の大門の前だ。その足取りは決して軽いものでも重いものでもない。

 ただ、この両肩には責任という一言では言い表せないものが背負われている。


 それでも、宵のように沈んだ瞳のまま、アイリスは真っすぐと前だけを見つめていた。

 

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