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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
塔の茶会編
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昇降機

 

「アイリス、クロイド。これが昇降機(しょうこうき)だ」


「これが……」


「この中に入ってくれ。そして、扉から離れた位置に立って欲しい。動き始めると揺れることもあるから、怖いようならば壁に手を当てているといいぞ」


 まるで人を運ぶための箱のような形をしている昇降機に三人は入っていく。


 内心、アイリスは初めての昇降機に緊張してしまっていたが、隣に立っているクロイドもどこか強張っているような表情をしていたので、逆に安堵してしまったくらいだ。

 彼も初めてのものには緊張する性質(たち)らしい。


 昇降機の中に入ると、扉の横に位置する壁の内側には水晶玉が埋め込まれるように設置されていた。恐らくこの水晶玉が先程、ブレアが言っていた魔具なのだろう。


 ブレアはその水晶玉に右手を添えてから、自身の魔力を注入し始める。すると、水晶玉は淡く光り出し、それまで開けっ放しにされていた昇降機の扉がゆっくりと閉まっていった。


「──十階へ」


 ブレアが呟いた言葉に従うように、動かなかった昇降機が一度、がたんと揺れてから、次第に上昇し始める。


「きゃ……」


「うわっ……」


 初めて味わう浮遊感にアイリスとクロイドは少しだけ、身体の体勢を崩してしまいそうになった。


 だが、ブレアは昇降機に乗り慣れているようで、余裕の表情を浮かべたまま、水晶玉に魔力を注入し続ける。


 ……この昇降機も全体的に見れば、魔具の一種ということよね。


 アイリスが一人だった場合には、絶対に乗ることは出来ない代物である。そう何度も乗る機会はないため、今のうちに堪能しておこうなんてことを考えていた。


 昇降機は塔の室内に設置されているため、外の景色を見ることは出来ない。そのため今、自分達がどのくらいの高さまで昇ってきているのかは分からなかった。


 だが、次第に昇降機が上昇する速度が落ちていき、ゆっくりと停止した。閉じられていた扉はまるで自分の意思を持っているように開いていく。


「さぁ、着いたぞ。あとは最上階まで少し、階段を上るからな」


 先に昇降機から降りたブレアにアイリス達も続いていく。


 だが、降りた瞬間にクロイドは何かを感じ取ったのだろう。しきりに周囲を警戒するように見渡していた。


「どうしたの、クロイド」


「いや、さすがは教団一、強固だと言われている場所だと思って。……そこら中に誰かの魔力の気配が満ちているみたいだ」


 敏感に感じ取っているクロイドに対して、ブレアは苦笑しながら言葉を返した。


「クロイドの言う通り、この場所はかなり複雑な魔法が組み込まれているからな。まあ、じきに慣れるさ。それじゃあ、私の後に付いて来てくれ」


 そう言って、ブレアはどんどん進んで行くため、アイリス達は少しだけ小走りで付いて行った。



・・・・・・・・・・



「あの扉の向こう側がイリシオス先生の部屋だ」


 階段を数階分ほど上った場所は少し開けた空間となっており、その先には一度見ただけでは覚えることの出来ない模様が彫刻として彫られた金属製の扉が立っていた。


 ……まるで、魔除けの模様みたい。


 複雑すぎる模様を眺めていると、遠慮することなくブレアがその部屋の扉を数回、叩いた。


 すると部屋の中からはすぐに返事が返って来たため、ブレアは扉の取っ手を回しつつ、ゆっくりと開いていく。


 緊張しながら、扉が開く瞬間を待っていると部屋の中からは鈴のように軽やかで明るい声が降って来た。


「おおっ、よく来たのぅ。待っておったぞ」


 そこには以前、見た際と何も変わっていないイリシオスの姿があった。

 肩よりも少し長い金髪と青い瞳を持つ少女こそ、千年という時間を生きる不老不死であり、教団を統べる総帥だ。


 先日、会った際には腰までの短いローブを羽織っていたが、今は室内に居るためか、ローブは椅子の上へとかけられていた。


 ワンピースのようにも見える服は、一昔前の女性が着ていたような服装だ。質素とも言うべき素材で作られており、そこに華美や贅沢な印象は感じられなかった。

 恐らくイリシオスはこの部屋で慎ましやかに過ごしているのだろうと察せられる。


 イリシオスはよほど、自分達が訪ねるのを楽しみにしていたのか、ほわっとした表情で笑みを浮かべている。

 こうやって見ていると、年下の少女にしか見えないので、本当に不思議な気分である。


「先生、お連れしました」


「うむ。いやぁ、突然誘って悪かったのぅ。遠慮せずに入ってくれ」


 椅子に座っていたイリシオスはすぐに立ち上がり、室内の真ん中に置かれている長い台の上に、次々とカップとティーポット、そしてお茶菓子などを用意し始める。


 どうやら、自分達がいつでも訪ねて来てもいいように、最初から用意されていたようだ。


「いいえ……。あの、今日はお招き下さり、ありがとうございます」


「ふぉっふぉっふぉ。そんなに硬くならなくても良いぞ。気楽にしなさい」


 そう言って、イリシオスはソファに座るようにとアイリス達に手招きする。ここは素直に応じて、席に座った方がいいだろうとアイリスとクロイドは隣に並ぶようにソファへと腰かけた。


「それじゃあ、私は魔具調査課に戻るよ。一時間後くらいに迎えに来るから、ゆっくりしているといい」


「ここまで案内して頂き、ありがとうございました」


 ブレアはこちらに軽く手を振ってから、イリシオスに向けて一礼すると、すぐに扉の向こう側へと引っ込んだ。

 室内にアイリス、クロイド、そしてイリシオスの三人だけが残される。

 

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