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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
塔の茶会編
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初めての魔法

 

 アイリス達が屋上へと移動すると、エリックはあの後すぐに自室へと必要なものを取りに戻ってくれたようで、すぐに合流することが出来た。


「お待たせしました。こちらが魔力を制御しながら操作するための練習が出来る魔具です」


 そう言って、アイリス達に見せてくれたのは、四十センチ程の白い羽根だった。まるで大きな梟の羽根のようにも見える。


「どうやって扱うの?」


「えっと、ですね……。まず、この羽根を両手に載せて、魔力を注ぐことを想像するんです。自分の身体の中に宿っている熱いものを羽根に流していきながら……」


 エリックは試しにお手本を見せてくれるつもりなのか、両手に羽根を載せてから意識をたった一つに集中させていく。


 すると、それまで動くことのなかった羽根はまるで自分の意思を宿したように、ふわりと浮き上がり、やがてエリックの手元から離れていく。


 ゆらゆらと動きながらも上昇していく羽根は安定して魔力を注がれているからこそ、突発的な動きをしないのだろうとすぐに察した。


「この魔具を使えば、魔法の呪文を唱えることなく、魔力を出力し、制御するという練習に繋がります。魔力を注ぎ過ぎると羽根は一気に上昇して飛んで行ってしまいますし、逆に注ぎ込む魔力が少ないと掌から動くことはありません。一定の魔力を注入することを保てば、空中で羽根を一時停止させることも可能です」


「なるほど……。この魔具ならば、確かに目に見えて分かりやすいな」


 クロイドが感心しながらそう答えるとエリックは少しだけはにかみながら、嬉しそうに頷き返した。

 魔力を注入することを止めたのか、羽根は再びエリックの両手の上に戻ってきた。


「えへへ……。実はこの羽根の魔具、私が作ったんです」


「え……」


 まるで初めて料理をしてみたと言わんばかりの軽さで、エリックはそう告げた。


「他の兄弟や親戚に比べると私はあまり魔法が上手くなかったので、それならばまずは安定して魔力を出力させて、操作出来るようになれば上達するんじゃないかと思いまして。……この羽根は普通の羽根のように見えますが、私が作った魔法陣が刻まれているんですよ」


 エリックはいつも通りの表情でそう告げるが、アイリス達は驚きを隠せずにいた。

 この歳で人に教わらずに自分の力だけで魔具を作ったことがある人間はそれほど多くはいないだろう。

 

 エリックは何でもなさそうに言っているが、彼女の極めたいと思う向上心には深く感心するばかりだ。


「凄いわ、エリック……。あなた、魔具まで作れるのね……」


「才能があるんだな」


 二人が称賛の言葉を呟くと、エリックは気恥ずかしさからなのか、少しだけ肩を竦めてから、笑みを零した。


「一応、魔具としての申請は通っているんですけれど、私専用の魔具なので今まで誰にも見せたことはなかったんです。だから、今日は初お披露目ですね。そして、誰かに使ってもらうのも初めてです」


 照れながらも、エリックは羽根の魔具をライカへと手渡した。


 ライカの両手は獣の手となっているが、エリックは特に詳細を訊ねることも、表情を変化させることもなかった。

 アドルファス・ハワードから何かを聞かされているのか、それともただ単にライカを気遣ってくれているのか──。


 エリックの人柄ならば、ライカのことを詳しく知らなくても、静かに気遣ってくれているのかもしれない。彼女はそういう人だ。


「それでは、ライカ君。さっそくですが、やってみましょうか」


「は、はい……」


「難しいことは考えなくていいですよ。羽根を手に載せて、ライカ君が持っている魔力をゆっくりとこの羽根に注ぐ、ということを想像してみて下さい」


「想像だけで、いいんですか?」


「想像力は実現するための大きな力になりますからね。それに魔法のほとんどは使い手の想像力によって具現化されたものばかりですよ」


 教師と生徒のように、エリックはライカへと優しく指導している。年下相手ならば、彼女も落ち着いて話すことが出来るのかもしれない。


「羽根が浮くことを想像して、ゆっくりと魔力を注ぎ込むんです。……アイリス先輩、ライカ君には実際に、何か魔法を使ってもらったことはありますか?」


「いいえ、まだよ」


「では、今が初めてということですね。初めて魔法を使う時は誰だって緊張しますからね。魔力の出力の加減が分からずに最大限になってしまうこともありますので、お気をつけ下さい。突発的な魔法は、魔力酔いしやすくなりますので」


「はい」


 エリックの言葉を真剣に聞きつつも、ライカはさっそく羽根の魔具を使って、浮上させることが出来るか、試し始めてみた。


「……」


 しかし、遠慮しているのか、それとも緊張によって上手く魔力を注入出来ていないのか、掌の上にある羽根はふよふよと左右に動くだけである。


「うぅ……」


「あわわ……。慌てないでください、ライカ君。大丈夫ですよ、私も初めてこの魔具で練習した時は同じように魔力の注入が上手くいかなくて、羽根が右往左往していましたから」


 ゆっくりと魔力を注入することに慣れて行きましょうね、とエリックはまるでライカの姉のように微笑んだ。


 エリックは確かハワード家では末っ子だと聞いているが、子ども好きなのか、意外と年下を相手にするのが上手いようだ。


「安心してください。ほら、羽根がふよふよと動いていることはライカ君の想像力が具現化しようとしている証拠です。あとはもう一度、両手に集中してみましょう」


「両手に、集中……」


 アイリスとクロイドはライカの邪魔にならないように黙って控えておくことにした。


 エリックの教え方はとても丁寧で、相手の気持ちに沿って行われている。二人を眺めていると何だか穏やかな気分になってくるくらいだ。

 

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