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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
塔の茶会編
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封印魔法

 

「ライカ君の意思は分かりました。……では、次の質問です。もし今後、……君と似たように魔力無し(ウィザウト)が魔力を宿した者が増えたとします。その場合、君の身体の中に刻まれている情報を抜き出して、先程言っていた相反魔法を作りたいと思っているのですが、そちらに関しては許可を頂けるでしょうか」


 先日の会議の際に話し合われていたことだ。この件もライカの判断に任せるつもりだが、彼には重すぎる選択かもしれない。

 しかし、ライカはすぐに首を縦に振り返していた。


「この身体が誰かの役に立てるというならば、どうぞ使って下さい。いつでも、僕はこの身体に刻まれている情報を差し出します」


 あまりにも真っすぐに答えるライカに驚いているのかウェルクエントは目を瞬かせてから、ブレアの方へと視線を向ける。


「ブレアさん。彼、本当に十二歳ですか。何だか自分の数年前を見ている気がするのですが」


「馬鹿を言うな。ライカと同い年だった頃のお前は手が付けられないくらいに、毒舌と冷笑が似合う子どもだったぞ。この純粋な瞳を持ったライカと一緒にするな」


「わぁ、辛辣ですね。まあ、あの頃は周りにうるさい大人が居たのでちょっと個人的に得た情報を使って、相手を泣かせていただけですよ」


「ああ、そうだな。相手が地面に額を擦り付けて謝るくらいに追い詰めていたな。あんな邪悪な子どもがお前以外に居てたまるか」


 ぴしゃりと言い放つブレアにウェルクエントはわざとらしく肩を竦めてから、そしてライカへと向きなおった。


「ライカ君、君の協力に感謝します。ですが、今はまだ情報が欲しい時期ではないので、このまま封印を施させて頂きますね」


「は、はい……。宜しくお願いします」


 魔法をかけられることに慣れていないため、ライカは少し緊張気味に声を返した。


「アイリスさん、クロイドさん。少し、ライカ君から離れて頂けますか」


「分かりました」


 アイリスとクロイドはソファから立ち上がって、ブレアの傍まで下がった。ウェルクエントは席を立ってから、ライカの隣へと座り直した。


「どうか、力まずに楽にしていて下さい。痛みが発生するような魔法ではないので。怖いならば、目を閉じていても構いませんよ」


 ウェルクエントの言葉にライカはこくりと頷いてから、目をぎゅっと閉じた。やはり、初めての魔法を受けるのは怖いらしい。


「では、行きます」


 ウェルクエントが外套の下から取り出したのは、黒い羽根ペンと赤黒い液体が入った小瓶だった。


 小瓶の蓋を開けてから、羽根ペンの先端を赤黒いインクに浸して、ウェルクエントは空中に向かって魔法陣を描き始める。


「──綴る言の葉は永久(とわ)なるもの。この血なる結びを持って、未来永劫、侵されることなく、存在す」


 赤黒いインクは空中に浮かんでいる魔法陣に新たな文字を生んで行く。初めて見る魔法にアイリス達の目も釘付けになっていた。


「抱く言の葉は閉じられるもの。この息なる繋ぎを持って、縁無き者、触れることなく、一蹴す」


 ぶわりとその場に熱の塊のような空気が生まれ、ウェルクエントとライカの周りを囲っていく。魔力を感じなくても、大きい何かが動いているのは確かだ。


「──今ここに、秘めたるものを封印せよ」


 ウェルクエントが描いていた魔法陣が完成したのか、赤黒い魔法陣はやがて光を放ち始める。


 羽根ペンをふいっと揺らせば、光を放っていた赤黒い魔法陣は吸い込まれるようにライカの額へと張り付き、見えないものとして溶けていく。


 魔法陣がライカの中に入るように消え去ったことで、封印の魔法は無事に終わったのだろう。にこりとウェルクエントが笑ってから、目を閉じたままのライカの肩を叩いた。


「もう、目を開けても大丈夫ですよ。無事に終わりましたから」


「えっ? 終わったんですか?」


「ええ。これでライカ君を害そうとしている者から手を出されることはありません。情報もしっかりと封印させて頂きましたので、私が死なない限りはこの魔法は持続されるでしょう」


「……ああ、さっきの赤黒い液体はお前の血を混ぜたものだったんだな。そりゃあ、随分と強い封印魔法をかけたものだ」


 ブレアの説明に驚いたのはライカとアイリスだ。クロイドは匂いから、先程の小瓶の液体に血が入っていると気付いていたようだ。


「僕の血と聖水と、とある鉱物を磨り潰して粉末状にしたものを混ぜたんです。より強い魔法を施したい時はやはり、自分の一部を混ぜるに限りますからね」


 ふふっと笑いながら羽根ペンを外套の下へと仕舞い込んだウェルクエントはそう言って、立ち上がった。


「さて、本音を言えばライカ君に色々と訊ねたいことはありますが、ブレアさんの目が怖いので、やることが終わった僕は退出するとしますか」


「今日は素直だな。……よほど、仕事が溜まっているのか」


「お察しの通りですよ。まあ、次第に落ち着くでしょう。……今は何かと忙しい時期ですから」


 そう言って、ウェルクエントはライカに向かって、にっこりと笑った。


「ライカ君。僕も君の後ろ盾の一人なので、何か困ったことがあったら遠慮なく言って下さいね。解決策が見つかるように、お手伝いしますので」


「……ありがとうございます」


 ライカも同じように立ち上がってから、ウェルクエントに向けて深く頭を下げた。


 そんなライカの頭をぽんぽんっと軽く、二回叩いてからウェルクエントは背を向けて、課長室から出て行った。


 足音が遠くなったのを確認してから、最初に溜息を吐いたのはブレアだ。


「これで一安心、と言ったところか。ウェルクエントは気に食わないが、まあ、感謝するとしよう」


 極力、関わりを持たせたがらないブレアは苦笑しつつもウェルクエントの魔法に感謝しているようだ。


「だが、ライカ。お前に直接的に手を出さなくても、攻撃してくる奴らが潜んでいることは頭に入れておいてくれ」


 途端に真面目な表情へと変わったブレアが静かに諭すように呟く。


「言葉という見えない道具を使って、お前を傷付けようとする者もいるだろう」


「……」


「相手が何を言っても、お前はそれを真実として受け取ってはならない。誰が何を言おうとライカ・スウェンは魔具調査課に所属する団員だ。お前に向けられた悪意ある言葉はただの戯言だと思って、耳の穴から耳の穴へと全て抜いてしまえ。……いいな?」


「はい」


「それでも、懲りない奴がいるようなら……なぁ?」


 黒い笑みを浮かべながら笑っているブレアは良からぬことを企んでいる時の表情をしていた。

 どうか、ブレアに目を付けられない者が増えないことを祈るばかりだ。


 闇討ちなんて、そのような卑怯なことはしないブレアだが、相手にとってはいっそのこと気絶したいくらいの恐怖を植え付けさせるような人なのだ。


 もちろん、相手に手を出すわけではない。具体的な内容はあまり知らないが、知らない方がいいこともあるのだろうと魔具調査課内では暗黙の了解となっていた。


 これは確実にライカを守らなければ、とアイリスがクロイドへと目配せすると彼も同じことを考えていたようで、強く頷き返してくれた。同じ上司を持つと思考が似て来るのかもしれない。


 アイリス達は暫くの間、ブレアによる悪意ある人間への対処法を聞きながら、静かに結束力を強めていた。

 

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