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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
知湖の取引編
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粗探し

 

 表情が曇っていくものを見ても、それを晴らすことは出来ない。アイリスは淡々と事実だけを述べるために、こみ上げそうになってくる感情を押し殺すしかなかった。


「オスクリダ島では『神隠し』と呼ばれている事案が頻発していました。それは元々、その島に伝承として残っているもので、いつの間にか島の人が姿を消す、というものです。独自の宗教観が築かれていたこの島では、神様に連れ去られることを良いものとして認識されていたため、神隠しが起きても大事にはなっていなかったのです。行方不明となっていたエディクさんはこの神隠しと島で信仰されている神様について疑問に思い、調査していたようです」


 まるで他人事のように言葉を吐いてしまうのは何故だろうか。説明のためとは言え、言葉を続けるたびに喉の奥から何かが漏れ出てしまいそうだった。


「島内を調査しても、島の人達が神として崇めているものの正体ははっきりとは分かりませんでした。それでも、島の人達の『神様』に対する信仰は生半可なものではなく、想像以上に深い信仰心を持っている方々が多くいました。……ですが、セプス・アヴァールは島の人から信仰されている神様と神隠しを利用することで、島の人達を己の欲望のために実験台として使ったことを上手く隠そうとしていたのです」


「何と卑怯な……」


 ぼそりと呟かれる誰かの独り言は瞬時に空間へと消えていく。


 本当にその言葉の通りだと頷きそうになってしまう。アイリスはそのまま説明を続けようとしたが、そこでとある人物の手が上がった。


「……発言を許可する。アドルファス・ハワード」


 アレクシアは自分の息子であるアドルファスを感情の無い瞳で一瞥してから、発言を許可した。


 ハワード家の親子が揃っているという、少し奇妙な空間となっているがアレクシアは息子を贔屓するような態度は取っていないため、アイリスは少しだけ安堵していた。


 ……ここでハワード課長が発言の許可を求めてきたということは、何かの粗を見つけたということよね。


 目の前に座っているブレアの両拳も少しだけ力が加えられたのか、手の甲には青筋が浮かんでいた。

 隣のクロイドからは、心配するような視線が横目で送られてくるのが分かる。


 アイリス達に視線を向けて来るアドルファスの瞳は、どこか見下しているような感情が含まれて見えた。恐らく、こちらを貶めるための言葉をこれから紡ぐのだろう。


「オスクリダ島の島人達はセプス・アヴァールという魔力無し(ウィザウト)の手によって、魔物へと堕ちたと言っていたが……。現在、島には誰もいないそうだな。そのことを他の者達に知られないように魔物討伐課の副課長の権限によって、オスクリダ島には一般市民は入れないようになっていると聞いているが……」


 そこでアドルファスはすっと目を細める。口元は薄っすらと笑みを浮かべているように見えたのは気のせいではないだろう。

 彼から醸し出ている雰囲気も、何もかもが嫌な空気を纏っているように感じ取れた。


「島に誰もいない理由を教えてもらえないだろうか」


「……」


 彼は恐らく、分かっていてその発言をしているのだろう。


 オスクリダ島には魔的審査課の団員も同行していたため、彼らから報告としてオスクリダ島に関することを聞いていたのかもしれない。

 それでも、わざわざアイリスの口から答えさせようとする時点で、性格の悪さが目立って見えた。


 ……ここで挑発に乗るような態度で答えれば、相手の思うつぼだわ。


 会議であっても、ここに立っている時点で、自分は交渉をしにきているようなものだろう。相手の掌の上で踊らないようにするためには、常に冷静でいなければならない。


「……島の人達は全員が一夜のうちに魔物と化しました」


 アイリスの発言にその場にざわめきが、わっと生まれて行く。誰も思わなかったのだろう、それまで人間として生きていた者達がたった一夜で姿を変えたことなど。


 アイリス達だって、いまだにあの夜の衝撃が現実だったのか、頭では分かっていても心が受け止め切れないでいた。


「ほう? 何故、一夜のうちにそのようなことが? 前日までは島人達は人間だったのだろう?」


「……島の人達はセプス・アヴァールによって元々、体内に魔力を宿すための薬を少量ずつ投与され、身体に馴染ませられていました。……ですが、私達がセプスの正体が普通の医者ではないと疑ったことを覚った彼は、実験結果を早急に集めるために、暴挙に移ったのです」


「では、君達がオスクリダ島に向かったことにより、セプス・アヴァールに島人全員を手にかけるという暴挙を生むための引き金を引かせたということだな」


「──その発言内容は少し違うと思いますが」


 アドルファスに対して声を発したのは、アイリスではなくイトだった。一瞬にして、皆の視線がイトへと集まっていく。


「確かに私達がセプス・アヴァールに接触したことで、彼に何かしらの影響を与えたことは事実でしょう。ですが──」


 イトはアドルファスをじっと睨むように目を細める。もしや、彼女もアドルファスに対して、あまり良い感情を持っていないのかもしれない。


「元々、オスクリダ島に関する任務を受けていたのは我々、魔物討伐課です。魔具調査課のチーム『(アルバ)』はあくまで、エディク・サラマンという方を捜しにオスクリダ島に来ていたため、この件は偶然が重なり合って生まれた事案だと思います」


「っ、イト……」


 アイリスは周囲に聞こえないように小声で名前を呼ぶ。

 イトがまるで、エディク・サラマンの捜索を任された自分達は偶然、オスクリダ島に居合わせただけだと庇うような発言をしていたからだ。


 しかし、イトはアイリスの方に視線を向けることなく、挑むような瞳でアドルファスを見据えていた。

 

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