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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
知湖の取引編
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会議開始

 

「──揃っているようだな」


 黒杖司(こくじょうし)であるアレクシア・ケイン・ハワードの声によって、その場は一瞬にして静寂へと導かれる。

 アイリス達は背を伸ばしてから、声がした方へと視線を動かした。


「イリシオス総帥は今回、会議の場には出席されない。そのため私が総帥代理の任を任されている。……また、ベルド・スティアートも欠席である」


 ベルドの名を口にした瞬間、アレクシアの表情が曇った気がした。

 恐らく、黒杖司という役職に就いているにも関わらず、長らく会議に出ていないベルドに対して何かしらの感情を持っているのだろう。


 それでも、総帥の代理を任されている彼女はすぐに表情を引き締め直していた。


「議長は私、アレクシア・ケイン・ハワードが務める。書記はウェルクエント・リブロ・ラクーザに担ってもらう」


「快く受けさせて頂きます」


 アレクシアに名前を呼ばれたウェルクエントは恭しく、右手を胸の辺りに添えてから他の課長達に向けて軽く一礼する。


 この場に出席している課長達の中で一番、年若いのはブレアだが、黒筆司であるウェルクエントは上層部の中で最も若いといってもいいだろう。

 それでも彼は黒筆司という役職に長らく就いているような貫禄を醸し出していた。


「そして、今回の緊急会議には議題に関することについて詳しい証言を聞くために四人の証人を呼んでいる。彼らは正式な手続きを以て、この場に出席しているので、そのことを心得ておくように」


 言い含められるように呟かれた言葉に対して、どこか嫌悪を浮かべる課長もいた。やはり、自分達が証人としてこの場に居ることは快く思われていないのだろう。


 ……それでも、ちゃんと伝えなくちゃ。


 オスクリダ島で何が起きて、自分達はどのような行動を起こしたのか。そして、ライカの今後を決めるためにも、しっかりと自分の意見を言わなければならないだろう。


 アイリスは周囲に気付かれないように両拳を握りしめつつ、両足に力を入れていた。


「それでは、会議を始めたいと思う。まず、先日の会議で報告を受けていた現在、行方不明になっているエディク・サラマンについてだが、彼がこれから話す件に関わっていることが判明した」


「エディク・サラマンは見つかったのですか?」


 課長の一人が声を上げてからアレクシアへと訊ねるが、彼女はすでにオスクリダ島で起きたことについての報告をある程度、聞いているのかすぐに首を振って答えた。


「いいや。……この件については順を追って話そう。まず、エディク・サラマンの行方を追って、残っていた手掛かりからオスクリダ島へと向かったのが魔具調査課のチーム『(アルバ)』だ。そして、魔物討伐課の定期巡回の時期も丁度、被ったことでチーム『(ネーヴェ)』も同時に向かうことになったと聞いている」


 アレクシアの発言に課長達の視線が一気にアイリス達へと向けられる。


 課長達から向けられる視線に含まれる感情は多種だ。アイリス達のことを怪訝な瞳で見ているものもいれば、どこか同情的な視線を向けて来る者もいる。


 ……注目されるって、あまりいい気分ではないわね。


 それでもアイリスは弱みを見せないようにと毅然とした表情を保つことにした。


「彼らはエディク・サラマンの行方をオスクリダ島内で捜していたところ、駐在している医師が以前はクリキ・カールだったのに対して、現在はセプス・アヴァールという人間に代わっていたことに気付いた」


「なっ……!?」


「何者ですか、そのセプス・アヴァールという者は……。そのような団員、教団に登録していましたか?」


「え? それならばクリキ・カールは一体どこへ……」


 課長達の中にはクリキ・カールを知っている者が多く居るようで、動揺のようなものが空間に広がり始める。


「静粛に。……皆が気付いているように、このオスクリダ島の後任の医師となったセプス・アヴァールという人間は教団出身者ではない。……そうだろう、アイリス・ローレンス」


 唐突に自身の名前をアレクシアに呼ばれたアイリスは思わず、心臓が喉から飛び出てしまいそうになっていたが、それをぐっと抑えてから、肯定の意味で頭を縦に振った。


「はい」


「もし、良ければ君達の言葉で説明をしてくれないか。セプス・アヴァールがどのような人間であるのか、そしてオスクリダ島内で何をしていたのか──。一番に身を以って理解しているのは君達しかいないからな」


「……宜しいのですか」


 まさか全てを投げるように、話を振ってくるとは思っていなかったため、汗が噴き出てしまいそうだった。


 だが、アレクシアからは威圧するような気配は感じられず、むしろ労わるような感情が込められた視線をこちらへと向けているように思えた。


 黒杖司であるアレクシアのことは厳格で冷淡な人だと捉えがちだが、彼女が気遣うように視線を向けてくる感情の中には、どこか母性のようなものも感じ取れた。


「ああ。……これより、証人によるオスクリダ島の件についての状況説明を始める。説明中は課長であっても、私の発言許可がない者は意見を発しないように。……それでは、始めてくれ」


 どうやら、他から口出しされないようにとアレクシアはこの場を整えてくれたようだ。


 アイリスは他の三人に目配せする。クロイドだけでなく、イトとリアンも説明するための準備はすでに出来ているようだ。


 ……大丈夫。ちゃんと、出来る。


 自分は一人でこの場に立っているわけではない。頼もしい仲間がすぐ傍に居てくれる。


 たとえ、これから話す内容が再び自分の胸を強く締め付けるものだとしても、立ったままでいなければ、言葉を武器にして戦うことは出来ないのだ。


「……では、この場を任せてもらったのでこれより先は私達から、オスクリダ島で何が起きたのか、そしてこの件に巻き込まれたエディク・サラマンさんの行方について説明させて頂きます」


 緊張で胸が潰れてしまいそうだ。向けられる視線は弓矢のようで、物理的な衝撃などないはずなのに、ひしひしと痛みらしきものを感じていた。

 

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