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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
知湖の取引編
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電話

 

 ジェイドはしばらく、面白そうに笑ったあとは、再び真面目な表情へと戻った。


「よしっ、分かった。それならば、会議の際に魔物討伐課の課長が魔具調査課の味方になるように、俺からも頼んでみるさ」


「いいのか?」


「ああ。……俺も本心を言えば、ライカの後見人になってやりたいと思っている。だが、魔物討伐課に所属していると、ここよりも人の目と声が多く感じられるからな。ライカが身を置くにはあの課はあまりにも偏った奴が多すぎる。……もちろん、全員が全員、そういうわけではないが」


 ジェイドの言う通り、ライカが魔物討伐課に所属することになれば、彼のことを快く思わない者が多く出ることは確かだろう。

 そのことを危惧して、ジェイドはライカの後見人になることを諦めているらしい。


「だから、魔具調査課がライカのことを守ると聞いて、俺は安心しているんだよ」


 ジェイドはにっと歯を見せながら、満足気に笑みを浮かべる。


「他にも、ライカが魔具調査課に所属することに賛同してくれそうな課長達に俺から話を通しておくよ」


「それは……こちらにはありがたい話だが、いいのか?」


「もちろんだ。……呪術課と修道課、あとは……情報課も引き込めるといいんだが……」


「情報課か……。まぁ、あそこの課長は比較的に穏やかだが、未知の情報にはすぐに飛びつく性質(たち)だからな……」


 ブレアとジェイドはお互いに腕を組みつつ、小さく唸りながらも、魔具調査課がライカの後ろ盾であることに賛同してくれそうな課について言葉を交わしている。


 ……さすがに私達は会議に参加出来る権限は持っていないもの。ブレアさんとジェイドさんに任せるしかないわ。


 恐らく、これから行われる会議は普通の課長会議ではないのだろう。


 重要な事柄を議題にする際には、全ての課の課長達と上層部である「総帥(そうすい)」、「黒杖司(こくじょうし)」、「黒筆司(こくひつし)」が参加すると聞いている。

 そこに参加するとなると、課長代理の役目を受けた者しか入れないのだろうと考えていた。


「──それじゃあ、一時間後にいつもの会議室で」


「分かった。……お前にも敵を作らせることになるだろうが、根回しは頼んだぞ」


「そんなの、今更だろう?」


 ブレアの気に掛けるような言葉に対して、ジェイドはまるで悪戯をする前の子どものような表情を浮かべつつ鼻で笑っていた。この二人はどうやら普段から気楽な間柄のようだ。


 するとジェイドは、ソファの上に座ったままのアイリス達の方へと視線を向けてくる。


「アイリス達もライカのことを頼んだぞ。……ああ、イトとリアンも後でライカの様子を見に来ると言っていた。俺達はライカの後見人になることは出来ないが、それでもあいつのためなら、力を貸す。遠慮なく、頼ってくれ」


「ジェイドさん……。ありがとうございます」


 アイリスとクロイドはソファから立ち上がり、ジェイドに頭を下げる。ジェイドは苦笑しつつも、どこか頼れる兄貴分のような表情で右手をひらひらと振ってから課長室から出て行った。


 隣室からは、ライカと会話をしているのかジェイドの明るい声がこちらまで響いてくる。


 ライカとは親と子ほどに年が離れている二人だが、それでもジェイドの中では目をかけたい存在として成り立っているに違いない。


「……さて、会議に備えないとな」


 ブレアは目を細めながら深い溜息を吐く。

 ただでさえ、通常の課長会議が嫌いであるブレアだが、これから行われる会議はそれ以上に重苦しいものになるのだろうとアイリスでさえ予想はついていた。


 アイリスとクロイドも報告を終えたので、そろそろ課長室から出ようかと目配せした時だった。

 課長机の上に置かれている電話が音を鳴らし、震え始めたのである。


 魔具調査課にも一応、電話線は引かれているのだが、その電話が鳴り響くことは稀である。


 面倒な仕事を押し付けられることを嫌っているブレアと先輩達が他の課からの電話が来ないように、わざと電話線を抜いているのではと思えるほど、魔具調査課の電話の音が鳴ることは滅多にないのだ。


 ブレアは一瞬だけ、顔を顰めてから電話を取った。


「──こちら、魔具調査課だ」


 電話から漏れる言葉は何を紡いでいるのかは分からない。

 それでも、ブレアの表情が更に歪められていくことから、彼女にとって望んではいないことが耳に入っているのだろうと察せられた。


「だが、それは……。……分かった。本人達には伝えるだけ、伝えてみるがそちらの要望通りになるとは限らないことを了承しておいてくれ。……ああ、分かっている」


 どこか素っ気なく引き離すようにも聞こえる声色でブレアは電話の相手に返事を返していた。


 話が終わったのか、ブレアは電話を切ってから、深い溜息を一つ吐いて、課長室を出ようとしていたアイリス達に視線を向けて来る。


「アイリス、クロイド」


「……はい、何でしょうか」


 何を告げられるのだろうかとアイリスとクロイドは同時に身構える。恐らく、先程の電話で話していた内容は自分達に関することだったのだろう。


「……この後に行われる会議に、お前達も参加して欲しいとの連絡が来た」


「え……」


「ですが、その会議には……」


 アイリスとクロイドは困惑の色を表情に浮かべながら首を傾げる。この会議には課長とそれ以上の役目を持っている者しか参加出来ないはずだ。


 アイリス達が言いたいことが分かったのか、ブレアは苦いものを噛んでいるような顔で電話をじっと見つめている。


「オスクリダ島で起きたことについて、会議の際に現場を実際に見て来た証人として話して欲しいらしい。彼の一存で、出席させることは可能だと言っていた」


「あの、一体誰が……」


 ブレアでさえも、跳ね返す程の力を持っていない電話越しの相手とは一体誰だったのだろうか。恐る恐るアイリスが訊ねてみると彼女は溜息を盛大に吐きながら答えた。


「電話をかけて来たのは……ウェルクエント・リブロ・ラクーザ。──黒筆司(こくひつし)だ」


 黒筆司(こくひつし)──それは教団に関する全ての情報を記録し、管理する者。


 その役目を担っている者の頭の中には、常人では理解出来ない程に細やかに分類された情報の引き出しが並んでいるのだという。

 そして、扱いが禁忌とされる情報や魔法でさえも、密かに管理しているらしい。


 そんな者が何故、自分達に会議に参加するようにと命じて来たのか、アイリス達にはその意図が掴めていなかった。

  

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