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捜索

 

 その日は念のために交代で見張りを立てつつ、夜を過ごした。全員がスウェン家の中に入ってしまうと、さすがに窮屈さを感じたが、ライカは特に暗い表情をすることはなかった。


 だが、寝る際には、彼は少し寂しそうな顔をしたため、リアンが一緒に寝ようかと気遣うように提案すると、ライカは小さくはにかみながら、頷いていた。


 昨日までは隣にいた大切な人がいなくなるということが、どれほど恐ろしいことなのか、アイリスは知っている。いや、アイリスだけではなく、この場に居る者全てが理解していることだろう。

 同じ痛みを知っているからこそ、ライカに優しくしたいと思ってしまうのかもしれない。


 次の日、起床してみれば、スウェン家の厨房を借りて、クロイドが全員分の朝食を作り始めていた。

 彼は昨晩、ライカの部屋で眠ったらしく、クロイドとリアンがライカを挟むようにしながら、三人で寝たと教えてくれた。


 ライカはかなり疲れていたようで、布団に入るなり、一度も目覚めることなくぐっすりと眠っているとのことだ。


 荒事に慣れているアイリス達でさえ、気を張る状況が続いていたので、ライカも小さい身体の中に色々と溜め込んだまま、我慢していたのかもしれない。結局、皆が起床してから、一番最後にリアンと共に起きたらしい。


 先日、リアンが寝坊しそうになった際にはイトが布団をひっくり返して起こしていたが、今日はライカが一緒に寝ていたため、荒業は行われなかったようだ。



 クロイドによって作られた朝食を食べ終わってから、今日はどのように動くかという話し合いになった。


 迷える森の中にある巨石を調べる班とクリキ・カールの家を調べる班に分かれて調査をした方が効率は良いだろうという提案が出されたため、二手に分かれることになった。


 クリキ・カール家を調べる班はアイリスとクロイド、ライカとジェイドだ。ジェイドは巨石の方にも行きたがっていたが、それは次の機会の調査に回すらしい。


 勝手な想像だが、顔見知りだったクリキ・カールに対して何か思うところがあるため、そちらの調査を優先しようと思ったのでは、とアイリスは密かに考えていた。


 そして一度、巨石が佇んでいる場所まで行ったことがあるイトとリアンが他の団員達を連れて、案内してくれるそうだ。

 数日前に森の中へと入ったため、剣で草を刈った道に沿って行けば、巨石までは迷わず辿り着けるはずだ。


 一日で巨石の調査を終わらせて、スウェン家へと帰ってくるつもりのようで、班が決められた後は、イト達はすぐに準備を整えてから森の中へと出発していた。



 ライカによって案内されたクリキ・カールの家は診療所の裏手に建てられていた。建築年数は三十年程の一階建ての家である。


 しかし、鍵など持っていないのに、中に入れるだろうかと思えば、この島の家々には鍵が付いた扉はほとんどないとライカが説明してくれた。


 防犯意識が低い、というよりも島の誰もが顔見知りで、お互いに信頼関係があるからこそ、施錠するための鍵は必要なかったらしい。

 そのため、クリキ・カールの家にはすんなりと入ることが出来た。


「……家主がいないのに、中に入るのは少しだけ罪悪感があるわね」


「そうだな」


 アイリスは家の中をぐるりと見渡していく。扉を開けた先は調理場と食事をするための大きな台、そして椅子が置かれていた。思っていたよりもセプスは綺麗にこの家を使っていたらしい。


 ……意外と整頓する性格だったようね。


 床にも窓の縁にも埃は溜まってはいないため、小まめに掃除していたことが窺えるが、それでも今更セプスの好感度が上がるわけではなかった。


「さて……。それじゃあ、手分けしてこの家の中を捜索するか。島に関するものが見つかり次第、この大きな台の上に集めておいてくれ」


「分かりました」


 ジェイドの号令のもと、アイリス達はそれぞれ動き始めた。家の中はスウェン家の構図とほとんど似たようなものだ。


 調理場がある部屋の他に私室が三つ、トイレや風呂場もあったが、それらとは別に恐らく書斎だと思われる部屋が通路の一番奥にあった。

 もし、クリキ・カールが郷土誌を編纂していたならば、書斎でやっていたかもしれないと思い、アイリスは部屋へと足を踏み入れた。


 書斎は壁の端から端まで本棚が置かれており、その中にはぎっしりと分厚い本が詰め込まれていた。


 この場所はセプスも使っていたと思われるため、彼の実験に関する証拠も隠されているかもしれないと思ったアイリスは本棚の一番上に置かれている本を手に取っては、中身を確認していくことにした。


「……どれも医学に関するものばかりね」


 本の中身を確認しても、それらは全て「普通の本」のようだ。


 実験に関することを記録していた書類が、本の中に隠されていたように、この場所にも何か隠されているかもしれないと思ったが、やはり思うようには見つからないらしい。


 アイリスは他にも、本棚だけではなく机の中を隅々と調べていく。


 だが、見つけたいと思っているものは見つけることが出来ず、念のためにと床を足で叩いてみたが、返ってくる音は特徴のないもので、診療所の地下のように穴は掘られていないらしい。


「うーん……」


 もし、自分がこの部屋に大事なものを隠すならば、どこに隠すだろうかということを考えてみる。


 動かせるような棚はないため、隠し扉らしきものはないようだ。

 どこかに魔法によって細工されているかもしれないと思い、念のために魔力探知結晶を取り出してから、周囲を調べてみたが、結晶が反応することはなかった。


 アイリスが一人で唸っていると、部屋の入口の扉からひょっこりとライカが顔を出した。


「アイリスさん、何か見つかりましたか?」


「ううん……。書斎なら、何かあると思ったけれど、置いてあるのは全て医療関係の本ばかりね」


「そうですか……。僕は寝室の方を調べてみたのですが、特にめぼしいものは見つからなかったので、こちらをお手伝いします」


「ありがとう、ライカ」


 二人で探せば何か見つかるかもしれないと思い、アイリスは再び手を動かし始めた。


 本という本を手に取っては捲り、中身に何か挟まれていないか調べていく。机の引き出しの奥を覗き込みつつ、手で直接触れながら探してみるも何かが見つかることはなかった。

  

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