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プロローグ

 

 その日は11歳の誕生日だった。いつもと変わらない日常がその日で変わってしまうなど、夢にも思っていなかったのに、それは突然襲ってきたのだ。





「ん……」


 強い雨が窓を叩く音がうるさくて、目が覚めてしまった。


 ふと、誰かに見られている気がして、ゆっくりと身体を起こすが、部屋には自分以外はもちろんいない。


「……っ?」


 それなのに、急に見えない「何か」が怖くなって、ベッドから飛び降りた。 


 棚の上に置いていた、父から誕生日の贈り物として貰った懐中時計を見てみる。まだ、夜の十時半過ぎだ。


 自分の誕生日パーティーではしゃぎ過ぎてしまい、疲れた自分は早めに寝ていたが、両親はまだ起きているかもしれない。


 そう思い、扉の取っ手に手をかけて、数センチだけ扉を開きかけた時だ。ばちっと何かが壊れた音がするも、扉には何の変化もない。


「……?」


 気のせいかと首を傾げつつ、そのまま部屋から出て、階段を下りていると、今度は一階の部屋からどさり、と少し高いところから重い物が落ちたような音がした。


「ひっ……」


  灯りが点いていないので、暗くてよく見えないため、思わず驚いた声を上げてしまう。


 だが、誰かが居る気配がするのだ。自分の身体は震えていると分かっているのに、その音がした部屋へと近づいていく。


 普段の自分なら、怖いものに自ら進んで向かったりなどしないというのに。


 けれど、今日は違った。何となく誰かに呼ばれている様な気がしたのだ。


「……――ッ」


 今、一瞬だが誰かが何かを呟いたような声が聞こえた。


 いや、きっと風の音だ。今日はいつもより風が強いと母が言っていた。自分の心にそう思い込ませ、壁を伝うようにしながら進んでいく。


 だが、この変な匂いは一体なんだろう。鼻の奥まで匂いが強く鋭く伝わってくる。本当に嫌な匂いだ。



 そして、とうとう音がしたと思われる部屋の扉の前に立ち止まる。


 耳を澄ませば、部屋の中で何かが接触している音がした。音がしたのに、誰か居ると分かっているのに、何故かその扉を開ける事が出来ない。


 いっその事、うるさい雨の音を我慢して、部屋に戻ろうか。目を瞑っていれば、時間は勝手に過ぎてくれる。


 それでも扉の取っ手に手をかけた。これは好奇心か、それとも――恐怖心からか。


 取っ手を捻り、ゆっくりと開けていくが嫌な匂いが一層深まるだけで、真っ暗で何も見えない。


「だっ……だれか、いるの……?」


 小さな声で何も見えない空間に問いかけた。すると、ぴちゃりと水が滴る音と共に、知っている声が微かに響く。



「……く、……るな……っ……」


 父の声だ。

 しかし、何故かいつもとは違って言葉は掠れており、とても息苦しそうに聞えてしまう。


「……お、おとうさん? そこにいるの?」


 声がした方へ近づこうとした瞬間、家の近くに落ちたと思われる雷の光が窓から入って来てきたことで、その部屋の全てが分かった。何が起きたのかも。


 見えたのは、色黒く染まった絨毯の上に同じ色で染まった服を着ている母と幼い弟と妹の姿だった。


 それぞれの身体の部分があらぬ方向へと向いては千切れている。普通では起こりえない光景がそこには存在していた。


「……っ!?」


 息を飲んで、その場に立ち尽くす。


 これは夢だ。悪い夢を見ているに違いない。だって、さっきまで、あんなに幸せな時間を過ごしていたのだ。


 だが、その希望は不気味な静寂に響く、父の一言で消えてしまった。


「……ァ……ス…、にげ……ろっ……! ぐほっ……!」


 暗闇の中から父が訴えてかけてくる声さえも、何ものかがそれを阻んだ事で聞こえなくなってしまう。


 父と自分の間に何かが居る。そして、それは自分の方を向いているのだ。


 ……金色だ。金色の目をしている。身長は大人と同じくらいの高さだが、恐らくこれは「人間」ではない。


 恐らく、母に読み聞かせてもらった本などに出てくる「魔物」と呼ばれる類の生き物だ。


 しかし、それを迎え撃つ術を知らないため、金色の目を見つめながら動けずに居た。




 再び、雷が落ちて辺り一面が白く光った瞬間に見えたのは、黒い獣。


 そして、恐怖に満ちた自分を見て笑っている犬にも似た不気味な顔だった。


 

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