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分かれた家

 

 クロイド達と合流してから、それほど時間は経っていないが、やはり時間の流れを感じさせない場所を長らく走っていることもあり、正確な時間までは分からなかった。


「……ねえ、聞いてもいいかな」


 前方を迷うことなく走りつつも、リアンが声を張りながら背後を走るアイリスへと訊ねて来る。


「今、会話に出ていたけれどブリティオンのローレンス家って……一体、どういう家なの? アイリスの名前も確かローレンスって名前だったけれど……関わりがある家なの?」


 嫌味などではなく、純粋な疑問なのだろう。別に、秘密にしているわけではないが、この状況下ではお互いに情報を共有しておいた方がいいだろうとアイリスは話すことにした。


「ブリティオンのローレンス家は私の……イグノラントのローレンス家と元々は同じ一族だったの」


 アイリスは足がもつれることがないように注意しながら進みつつ、ローレンス家に関する話を続けた。


「だけど、数百年前に盛んに行われていた魔女狩りが原因で一族はばらばらになって……。異端審問官から逃げるために海を渡ったのがブリティオンのローレンス家よ。だから、私の家とは血筋を辿れば元は一つだけれど、家の方針としては全くの別物なの」


 教団の祖の一人であるエイレーンの時代よりも少し前の時代のことだ。一つだった一族は分かれて、それぞれ別の生活を送るようになったのだ。

 だが今更、別々に分かれた家を一つにする気など更々ないため、出来るならば関わりたくはないが、向こうからの接触が多いのが現状である。


「ブリティオンのローレンス家は何と言うか……。こちらの理解を越えるようなことをやっているみたいで……。本当のところ、私も彼らのことをよく分かってはいないの」


 正直に言えば、説明が難しいというのが本音だ。ブリティオンのローレンス家では何かこちらにとって都合が悪いことを進めている気がしてならないのだが、それはあくまでも憶測に過ぎないからだ。


 以前、自分達と対峙した混沌を望む者(ハオスペランサ)はこれから楽しいことが始まると言っていたが、お互いの価値観が完全にずれているので、彼にとって楽しいことがこちらにとって楽しいはずがないだろう。もちろん、その価値観を合致させたいとも思っていないが。


「つまり、直接的に関わってはいないけれど、お互いにちょっと知り合いみたいな感じってこと?」


 何とも雑なリアンの解釈にアイリスは思わず頷きそうになったが、本当にその理解でいいのだろうかと思ってしまう。

 だが、ブリティオンのローレンス家とは仲が良いわけではないため、入れるとすれば知り合いの部類だろう。


「うーん……。まぁ、気が遠くなる程に遠い親戚みたいな感じかしら。私もブリティオンのローレンス家を知ったのはつい最近だったから、それほど親しいわけじゃないのよ」


「なるほど」


 アイリスの答えに納得してくれたらしく、リアンはそれ以上を訊ねては来なかった。


 だが、話しているうちに道の前方に石で作られた階段が視界に入って来る。


「あの階段を上れば、診療所の中に通じているよ」


 リアンはイトを抱えているにも関わらず、まるで重さを感じていないように軽々と石の階段を駆け上がっていく。その後ろにライカが続き、アイリスも足を踏み外さないように注意しながら上り切った。


 階段を上がった先に通じていたのは診療所の床だった。つまり、この通路は床下に隠されていたものだったらしい。

 見渡せば、出入り口となる場所の周辺が何故か、焼け焦げている上に、所々が瓦礫と化しており、大風によって荒らされた跡のようになっていた。


「……もしかして、クロイドが壊したの?」


「ただ、壊したわけじゃない。魔法で床下の通路が隠されていたから、無理矢理にこじ開けただけだ」


 石の階段を上りつつ、クロイドが床下から少し気まずげに視線を逸らしつつ答える。慎重な性格をしている彼にしては、中々大胆な荒業を使ったらしい。


「まだ、さっき張った結界は破られていないようだが、この出入り口にも結界を張っておくか。……──透き通る盾(クラルティ・ミューレ)


 クロイドは右手を大きく広がっている穴に向けてかざしつつ、すぐさま結界を張る。これで暫くは時間を稼げるだろう。


「……でも、どこに逃げればいいんだろう」


 イトを抱えたまま、リアンが少しだけ不安そうに呟く。


「……魔物討伐課に……連絡は取りましたが、この島に辿り着くまで時間はかかりそうですからね」


 そう答えたのはリアンに抱えられているイトだ。まだ、立てるほど体調が良くなっているわけではないらしいが、それでも顔色は先程よりは良いように見えた。


「それまで、何とか……私達だけで、セプス・アヴァールと魔物を……」


 そこでイトは小さく咳き込んでから、黙り込む。もしかすると、言葉の先を口にすることに詰まってしまったのかもしれない。

 だが、ふとアイリスは顔を上げて、周りを見渡した。


「……確か、セプス・アヴァールは実験に関することを記録していると言っていたわ。この部屋のどこかに記録書があるかもしれない……」


 アイリスはすぐに動き出し、薬品棚や本棚に手を付けては実験の記録書らしいものを探し始める。


「俺も手伝おう」


「俺も!」


 リアンは一度、イトを診察用のベッドの上に寝かせてから、隣の待合室へと向かった。

 魔物は迫っているだろうが、それでもセプスの所業を裏付けるための決定的な証拠は彼を裁くためには必要だろう。


 ……人を……裁くのは法だもの。


 自分ではない。例え、セプスを許すことが出来なくても、彼を裁くのは自分ではないのだ。

 悔しさと怒りを抑えきれないアイリスはクロイド達に覚られないように唇を強く噛んでいた。

   

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