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精霊剣

 

「よしっ。とりあえず、これで二体とも討伐完了かな? ……うん、周囲には他に魔力反応は感じられないみたいだ」


「そうだな。……それと、浄化までしておかないとな」


 魔物を討伐した後は炎系の魔法で浄化という名の焼却処分を行わなければならない決まりになっている。


 死体となったものを全て灰にして自然に還さなければ、放置しておくと自ら再生して生き返ってしまう魔物もいるからだ。

 また、死体の気配を辿って、他の魔物が集まって来る可能性もあるため、浄化することは魔物討伐課ではかなり重要な行いとされていた。


 リアンも二体の魔物を無事に討伐することが出来て安堵しているようだ。

 彼は血が付着した両手剣の刃を手持ちの古い布で軽く拭ってから、自身が仕留めた犬型の魔物に向けて、刃先を向ける。


 そういえば、リアンが魔法を使うのは初めて見るな、とクロイドが覗き込むように見ていた時だ。


「──『フォン』!」


 リアンが小さく叫ぶと、一瞬にして彼が持つ両手剣の刃を覆うように薄い炎が生き物のように纏っていく。


 だが、彼の魔力が両手剣に注がれたような気配はなく、叫んだ言葉は呪文などではなかった。あまりにも突然すぎるリアンの奇妙な力にクロイドは目を瞬かせた。


 呆けたクロイドの様子に気付いたリアンはこちらを振り返ると、小さく苦笑しながら頷き返す。


「えっと……。この剣は『黄昏れの半月』という名前でね。魔具は魔具だけれど、普通の魔具じゃなくって精霊剣(せいれいけん)なんだ」


「精霊剣?」


 初めて聞く言葉にクロイドが首を傾げるとリアンは剣を一度、鞘へと収め直してから、よく見えるようにと目の前へ差し出してくる。

 柄と鞘には四つの紋章がそれぞれ刻まれていたが、クロイドにはその紋章がどのような事を意味しているのかは分からなかった。


「魔力いらずの剣で、精霊の力が使えるんだよ。この剣の中に四大元素となる火、水、風、土の精霊が宿っていてね。こうやって名前を呼んで、手助けして欲しいってお願いすると力を貸してくれるんだ。でも、たまに機嫌が悪い時とかは無視されちゃうし、勝手に出掛けている時もあるから、割と自由な精霊達なんだけれどね」


 何でもなさそうにそう言って、リアンは両手剣を再び鞘から抜き取り、軽く横に薙いでから風を起こす。

 再び発生した炎をその身に纏った剣からは、炎の刃が勢いよく飛び出して、胴体が二つに分かれた犬型の魔物へと直撃した。


 精霊が生み出したと思われる炎によって包まれた犬型の魔物はそのまま、眩しくも熱く燃え続ける炎によって浄化され、やがて塵のように消えていく。

 そして、役目を終えたと言わんばかりに両手剣を覆っていた炎は鎮火されるように消えていった。


「今の炎は、火の精霊サラマンダーの力だよ。俺はフォンって呼んでいるけれどね。友達の一人なんだ」


「……精霊が見えるのか」


 クロイドが驚いた様子で呟くと、リアンは笑顔でこくりと頷き返した。


 「精霊」と呼ばれるものがこの世に存在していることは知っていたが、それは普通の「目」では目視することが出来ないと言われていた。


 精霊はそれぞれの元素となる力を持っており、自在にその力を操ることが出来るらしいが、力が強いためその力を欲する人間に狙われることが多くあるのだという。

 そのため、姿を自ら具現化させて人前に現れることはほとんどなく、ただ「そこにいる」ものとして存在しており、人間には干渉しないと聞いていた。


「精霊達がこの剣を使っても良いよって、言ってくれたから俺は使っているんだけれど……。やっぱり、精霊の力が使える剣は珍しいよね……。うーん……俺にとっては普通のことだけれど、精霊が見えるなんて、少し変かな?」


 リアンがどこか申し訳なさそうに肩を竦めたため、クロイドは急いで手を横に振り返した。


「確かに珍しいと思うが、少し驚いただけだ。そういう力を持っている人間は稀だろうが、リアン以外にいるかもしれないし」


 クロイドが素直にそう答えるとリアンの表情は昼間の太陽のようにぱぁっと明るく輝いた。


「クロイドがそういう考え方を持ってくれていて、良かった~! イトや上司には話しているけれど、それでも理解者は多い方が嬉しいからね! あとでアイリスにも話そうっと」


 にこにことリアンは嬉しそうに笑っているが、やはり他人が見えないものを見えてしまうことはそれなりに苦労が多かったのかもしれない。


 自分も魔力という周りが持っていない力を持って生まれてきてしまったため、リアンが抱いていた気持ちが何となく分かる気がした。


「ほら、魔物が再生する前に浄化しないと」


「あ……ああ、そうだな」


 リアンに急かされたクロイドはすぐに両手を鳥型の魔物へとかざしてから、周囲を巻き込まないように力を抑えつつ、呪文を唱える。


「──冷酷な業火クルエルド・ブレンネン


 手袋の指先から炎が出現し、塊となって鳥型の魔物へと直撃してから、鮮やかな色で包み込んでいく。魔力を調整しつつ、クロイドは魔物の身体を塵へと変えていった。


 全てを塵へと還してから、クロイドは手を軽く叩く。これで魔物の討伐は完了と言ったところだろう。


「……やはり、この周辺には他に魔力反応はないみたいだ」


 意識を集中させて、周囲に魔力を感じられるか感覚を研ぎ澄ませてみたが、自分達以外の魔力は少しも感じられなかった。


「これから、どうしようか。念のために集落がある方向に戻って、見回りしてみる?」


「……いや、一度スウェン家に戻ろう。俺達が無事だと知らせた方が、リッカとライカも安心するだろうし」


「そうだね。それじゃあ、来た道を戻るか。えーっと、確かこっちの方向から来たはず……」


 クロイドの提案にリアンも納得しつつ、再び歩いてきた道を辿るためにこちらに背を向けて歩き出す。


 リアンの後ろを追うようにクロイドも歩き始めたが、それでも何故か胸騒ぎは治まってはいなかった。むしろ、それどころか心臓が脈打つ速さが更に激しくなった気がする。


 ……スウェン家にいた時、確かに魔力反応は複数感じられた。二体分の気配ではなかったはずだ。それなのに、この周辺ではもう何も感じ取れない。


 嫌な予感がして、たまらなかった。少しでも早く、スウェン家に戻らなければと心の底で何かが自分を駆り立てている気がしてならないのだ。


「……急ごう」


 急かす気持ちを抑えつつもクロイドは心の思うままに、いつの間にか小走りで茂みの中を駆け出していた。

   

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