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認識する存在

 

「……リッカ、ライカ。二人に聞いて欲しいことがあるんだ」


「はい……?」


 クロイドは一度、深呼吸をする。しかし、二人に伝える言葉を迷っているのか、少し間を空けてから話し始めた。


「多分、二人にとっては馴染みがないものだと思うし、むしろ信じる事が出来ないものかもしれない。俺達が今から話すことについてどう受け止めるかは二人次第だ。……それでも、聞いてくれるか?」


 今から、クロイドが話すことは普通とは違うことなのだろうとリッカはすぐに察したようで、軽く頷き返した。ライカは少し不安そうに首を傾げていたが、リッカが頷いたため、同じように頷き返す。


 二人が了承の意味で頷いたことを確認してから、アイリス達は自分達が二人に隠してきたことを話し始めた。


「……魔法というものが本当に存在していたとして、二人は信じるかしら?」


「えっ?」


 アイリスにそう訊ねられたリッカ達は同時に戸惑いを含めた言葉を聞き返した。


「魔法って……あの、物語などで登場する不思議な力の……魔法のことですか?」


「魔法使いとかの、魔法?」


 戸惑いつつも、認識があっているだろうかとリッカとライカは首を傾げながら、自身が持つ認識で答えてくれる。


「ああ、その魔法だ。……俺達は、魔法が使えるんだ」


 クロイドがそう返すとリッカ達はぽかりと口を開き、目を丸くしていた。恐らく、何を言っているのかと思っているに違いない。


「……言葉よりも、見せる方が理解しやすいかもしれないな」


 そう言って、クロイドは彼の魔具である「黒き魔手(ましゅ)」を取り出し、両手に装着した。どうやらリッカ達に直接、魔法を見せるつもりらしい。

 彼のことなので、魔力を制御しつつ、魔法を扱うことは容易いだろう。


 クロイドは誰もいない廊下に向けて、静かに右手をかざす。リッカ達は何をするのだろうかとクロイドが手をかざす先をじっと見つめていた。


「──風薙ぎの翼(ヴィントホーゼ・アラ)


 静かに呟かれた呪文と共に、クロイドの手先から瞬時に出現したのは小さな竜巻だった。竜巻はふっと廊下を一メートル程、風を起こしながら進むと、空気中に溶けるように穏やかに消えていく。


 竜巻によって生じた風はアイリス達まで届いており、撫でるような風がそれぞれの髪をなびかせていった。


「……これが魔法だ」


 クロイドは無表情のままで、リッカ達の方へと振り返る。スウェン姉弟は目を見開き、そして動けずにいた。

 しかし、先に我に返ったのはリッカだった。彼女は驚いた表情のまま、アイリス達を見渡していく。


「え、あの……」


 どう言葉を発すればいいのか分からない程に驚いているのだろう。


 だが、ここでリッカ達から拒絶の言葉や反応を受けることだってあり得るため、アイリス達は内心、肝を冷やしていた。魔法や魔物を受け入れられない一般人が多く居るのは分かっている。

 アイリス達もそれを理解しているため、無理に魔法の存在を受け入れてもらおうとは思っていなかった。


 しかし、上手く返事が出来ないリッカの代わりに答えたのはライカだった。


「すっごーいっ! 今のが魔法なんですか!? あの、物語の中に出て来る、魔法使いが使う魔法と同じなんですか!?」


 ライカは子どもらしい純粋な瞳をきらきらと輝かせつつ、開口一番にそう言ったのである。


「魔法って、本当にあるんだ! 凄いっ、凄いね、姉さん! 姉さんも今の、クロイドさんの手から小さい竜巻がぶわって発生していたの、見たよね!? ねっ!」


「え、ええ……」


 ライカが言葉を捲くし立てつつ、リッカへと迫ったため、返事を考えていた彼女はライカに圧倒されるように少し後ろへと身体を仰け反らせていた。


「……怖くは、ないか?」


 クロイドが少しだけ不安そうな表情でリッカ達へと問いかけると、ライカは思いっきり首を横に振った。


「怖くないです! だって、こんなに凄いのに……!」


 興奮気味に拳を握りしめた両手を上下に振っているライカを宥めようとリッカが彼の肩をぽんぽんっと叩き始める。


「ライカ、ライカ、落ち着いて……。まだ、皆さんのお話は終わっていないわ」


「あっ……」


 そうだったと言わんばかりにライカはしゅんと項垂れて、どこか申し訳なさそうに肩を竦めていた。

 リッカも驚いてはいるものの、彼女からは特に拒絶するような反応は感じられず、どうやらこの姉弟は魔法の存在を受け入れてくれたらしい。


「……それじゃあ、魔法の存在を知ったところで、本題に入りたいと思う」


 クロイドは両手に装着していた魔具を外して、話を戻した。


「俺達はとある組織に属していて、魔法や魔具と呼ばれる道具を使って、一般の人の目につかないようにしながら、密かに活動しているんだ」


「凄い……。物語の主人公みたいですね!」


 またもやライカが興奮気味にそう言ったため、隣に座っているリッカによって、肩をぽんと軽く叩かれていた。


「活動内容はそれぞれだが、その中に『魔物討伐』という活動がある」


「まもの?」


 リッカが首を傾げたため、今度はアイリスが説明することにした。


「普通の動物とは違う生き物なの。魔力と呼ばれる、魔法を使う上で必要な力を持っていて、夜を好んで生きているわ。姿は様々で獣の姿だけでなく、道具の姿をしていたり、人の姿に似たものもいるの」


「魔物の中には狂暴な奴もいるから、それを討伐するのが俺達の役目なんだ」


 アイリスの言葉に付け足すようにリアンが続きを説明してくれる。


「人を……襲うのですか?」


 少しだけ遠慮がちに聞いてくるリッカに対して、アイリスは頷き返す。


「でも、この島には本来はいない生き物なので、それほど怯えなくていいと思います。……今まで秘密にしていましたが、私達は魔物がこの島に生息していないか、見回りに来たんです」


 イトが静かに慰めるような声でリッカへと言葉を返した。


「この魔物の存在を踏まえて、リッカが言っていた獣についてだが……俺達は君が見た獣らしきものは魔物ではないかと思っているんだ」


「……」


「魔物の中には肉を好んで食べるものもいる。そして、魔物によっては人に服従し、仕えるものもいるらしい」


 だからこそ、獣はセプスを襲わずに彼の意に従うように黒毛の獣を襲っていたのだろうというのがクロイドの見解らしい。


 確かに彼の言葉には納得出来るものがある。だが、まだ何かが引っかかっているような気がしてならなかった。

    


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