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土埋もれたもの


 朝食の後片付けを終えてから、荷物を整理し、準備を全て整えてからアイリス達は、一晩を過ごした場所を出発した。


 アイリス達は川岸のこちら側と向こう側の二手に分かれて、川に沿って下ることにした。

 朝の森の中は静けさと瑞々しさで満たされており、自分達が地面と小石の上を踏みしめていく音しか聞こえない。それでも、それぞれが気を張っているのは確かに感じ取れる。


「クロイド、何か感じることはない?」


 前方を歩くクロイドに声をかけると彼は首を少しだけこちらへと向けてから返事を返す。


「今のところは何も感じないな」


「そう……」


「進んでいくたびに景色も移り変わっていくから、迷っている感覚もないし……。やはり、迷える森はただの言い伝えだったということだろうか」


「うーん……。そこが分からない部分なのよね」


 会話をしつつもアイリスは歩く速度を落とさず、川沿いに何か痕跡が残っていないか、見渡していく。


「川沿いの道だって、最後まで歩いていけば必ず終着点に着くでしょうし」


 森の中を歩いて、迷わずに帰れば家で待っているリッカとライカを安心させることが出来るのは確実だろう。あの姉弟が笑顔で出迎えてくれる姿を想像し、アイリスは口元が緩みそうになったのを抑えた。

 今はエディクを捜索するための任務中だ。気を和らげてはいけない。


「二人ともー。そっちの川岸、何か見つかったか?」


 川の向こう岸を歩いているリアンが声を張りつつ、訊ねて来る。あの様子だと、ただの確認であって、二人が何か見つけたわけではないのだろう。


「いや、何も。……あと数キロ程、歩けば集落に着くようだ」


 クロイドは持参してきた地図を広げながら、リアンへと答える。


「あと数キロ……」


 集落へと向かう足取りだけが進んでいく。


 目を凝らしても、必死に周囲を見渡しても何も見つからない。何も見つけられない。焦りが心の中を激しく掻き立てていく。

 焦燥による息苦しさを実感しそうになった時だった。


「──何だ、あの場所」


 ぽつりとクロイドが呟いたのだ。アイリスはぱっと顔を上げて、クロイドが視線を向けている方向へと身体の向きを変える。


 目を凝らしてみれば、木々の隙間から光が差し込む場所が瞳に映る。どうやら、木々が立っていない開けた場所があるらしい。


「行ってみるか?」


「そうね、念のために」


 クロイドに返事をしてから、アイリスは川の向こう岸を歩いているリアンとイトに向かって叫ぶ。


「こっちに開けた場所を見つけたわ」


「了解。川を渡るのに時間がかかるから、二人で先に向かっていてくれ」


 リアンの返事を聞いてから、アイリスは先に足を進めるクロイドの後へと付いていく。


 森の中には突然、開けた場所がいくつかあったので、クロイドが見かけた場所もその中の一つなのだろう。

 

 開けた場所には何もない場合が多いため、あまり期待はしていないが、今回見つけた場所は川沿いであることからもしかすると、という小さな希望が生まれていた。


 迷うことなく一直線に進むクロイドの後を追いかけて、茂みをかき分けながらアイリスは開けた場所へと出た。

 その場所の広さは家が二軒ほど入る広さで、空き地のようになっていた。しかし、今までと同じように芝生ではなく、土壌が見えている。


「この場所に誰かが来たことがあるのか? 地面が掘り返されているようにも見えるが……」


 クロイドも同じように思っているらしい。

 だが、この場所は集落に近いとは言っても、まだ距離が遠い場所に位置している。果たして、島人達がこのような場所までやってくるだろうか、という疑問が先に生まれた。


「調べてみましょう」


「ああ」


 アイリス達は荷物を置いてから、土壌が見える開けた場所に何か手掛かりがないかを捜すことにした。その間にリアンとイトも川岸を急いで渡ってきたらしく、再び合流する。

 だが、二人もこの開けた場所を見て、訝しげに思っているらしく、少し首を捻っていた。


「この場所は……」


「土が見えている場所なんて、今までなかったよね? 動物が掘ったのかな?」


 リアンの言う通り、掘り方としては、何かで引っ掻いたようにいくつもの線が地面に広がっていた。


 これまで色んな場所を見回って来たが、島人達は森の中に立ち入らないため、人が踏み入らない場所は草が伸び放題な上に、青々とした芝生が広がっている場所が多く見受けられた。

 そのため、土壌が丸出しの場所はほとんど確認出来ていない。


 ……どうしてこの場所だけ、動物が土を掘り返したような痕があるのかしら。


 動物の生態については専門外であるため、さすがに土を掘り返す行為にどのような意味があるのかは分からない。


「それにしても、暴れ回ったんじゃないかと思えるくらいに、土が盛り返されているなぁ」


「巣穴でも作ろうとしたんですかね?」


 穴が50センチ程の深さで掘られている場所もあれば、山のように土が盛られている場所もある。一体、この場所に何がいたというのか。


 アイリスも土が掘られた場所へと近付いて、周りをよく観察してみる。地面には動物の足跡のようなものがいくつも残っており、足跡の大きさから大型犬くらいの動物が付けたものように思えた。


「……」


 だが一瞬、視界に映った土の色ではないものをアイリスの瞳は見逃さなかった。


 覆いかぶされた土の中に、何か布の端のようなものが見えたため、アイリスはすぐにその場に片足をつけながら、土を両手で掘ってみる。

 アイリスは見えたものを取り出しやすくするため、乾いた土を手で掘り続けた。


「これは……」


 千切れないように気を付けつつ、引っ張ってみると、土の中から出て来たのは一枚の布だった。

 服の形ではなく、正方形の布のようだ。土の中に埋まっていたこともあり、かなり汚れていたため、アイリスは布を手で軽く叩きながら付着していた土を落としてみる。


 土をある程度、叩き落としてみると、どうやら布には柄が入っていたらしく、その柄が薄くだが見えるようになった。


「……え?」


 アイリスは思わず、疑問の声を呟いてしまう。


「どうしたんだ、アイリス。何か見つけたのか?」


 地面に足をつけて、土を掘っていたアイリスを奇妙に思ったのか、クロイドが首を傾げながら近付いて来る。


「ねえ、クロイド……。これって……」


 アイリスはその先の言葉を何と続ければいいのか分からずにいた。


 手元にある薄汚れた一枚の布の柄──いや、模様はかなり複雑なものが描かれており、そしてどこかで見たことがあるものと同じだった。

   

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