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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
裏の教団編
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学園の噂

 

 休み時間、クロイドに軽く学園内を案内した後で昼食を摂るために、アイリス達は人があまり通らない中庭へと訪れていた。

 中庭の目立たない端の方に布を敷いて、三人は向き合って座る。


 嘆きの夜明け団の食堂で作ってもらった昼食をお互いに布の上へと広げながら、今まさにサンドウィッチを口の中へと頬張ろうとしていた時だった。


「はぁ? 幽霊?」


 ミレットが座って最初に口にした言葉に、アイリスは思わず疑いを込めた瞳で聞き返す。


「そうなのよ。今、この学園で幽霊が度々、目撃されているらしいの」


「幽霊……。死んだ人の魂か」


「どうせ、暇な学生が作り上げた話じゃないの?」


 呆れたと言わんばかりにアイリスは大きく口を開けて、サンドウィッチを頬張る。クロイドも小さく頷きながら同じものを食べ始めた。


「いや、ただのおふざけならいいんだけどさ。結構、たくさんの人が見ているらしいのよ、同じ霊を。中年の男性らしいわ。しかも、普段は冗談を口にしないような真面目な子が見たって言うから、信憑性が高いのよねぇ」


 いかにも怖いと言うようにミレットは自分の身体を抱きしめる。その表情はかなり強張っていた。


「教団で魔物に関することを扱っているのに、幽霊は駄目なのねぇ」


「だって、幽霊って見えるかどうか分からないじゃない! 私は見える確かな情報しか信じないの!」


 アイリスの言葉に対して、ミレットは決して怖いとは言わずに反論してくる。本当に幽霊が怖いらしい。


「うーん……。私は死んだ人でも、見えるなら会いたいけどなぁ」


 一人、小さく呟くアイリスに、隣に座っているクロイドが何か言いたげな視線を向けてくる。

 その視線に気づいたアイリスははっとして、無理矢理に苦笑するような笑顔を作ってみせた。


「それで祓魔課と魔的審査課の人が動いているって話なのよ」


「え? 学生の噂程度の話に教団が動くの?」


 たかが学生の間で飛び交う話に教団が動かなければならない理由が分からない。放って置けばいつの間にか消えていそうな噂のような気もするが。


「だから今、隠密に調べているのよ。学園の噂の詳細を調べている祓魔課の奴が怪しくてね」


「祓魔課って言っても内部は二つの専門に分かれているんだろう?」


 まだ教団に入団したばかりで、ひと月も経っていないクロイドが何かを思い出すように考えながら訊ねて来る。


「そうそう。悪魔専門と心霊専門の二つね」


「今回はその心霊専門の方の一人、スティル・パトルが主体となって調査しているらしいわ」


「スティル・パトル……」


 知らない名前だ。


「まぁ、特に何の変哲も無い団員の一人なんだけれど……。彼が躍起になって学園内に彷徨っている幽霊の行方を追っているらしいわ」


「悪霊じゃなければ被害は出ないんだろう? 何でわざわざ……」


 不審そうにクロイドは眉を寄せて難しい顔をする。確かに彼の言うとおりだ。

 目立った被害も出ていないし、悪霊でもない霊に対しての熱心過ぎる対応に疑問しか沸かない。


「この話にはまだ続きがあってね」


 周りには自分達以外に誰もいないにも関わらず、ミレットは声量を抑えながら言葉を続ける。


「幽霊が出たって噂と同時期に学園内で魔力反応が出たのよ」


 眉を中央に寄せたまま言葉を続けるミレットの話に対して、アイリスとクロイドはお互いに顔を見合わせた。


「それって……。魔力反応が噂の幽霊に関係しているって事か?」


「まだ、そうとは言い切れないけれど、私はそんな気がするのよね」


 ミレットの勘はよく当たる。その勘に何度か助けてもらったこともある程だ。


 ふと、視線を感じたアイリスは顔を上げて周りを見渡す。

 だが、壁に囲まれたこの中庭は校舎の窓からしか見ることが出来ない場所だ。いくつかある窓には人影はない。勘違いだったのだろうか。


「魔力反応が出た以上、魔具が関わっている可能性もあるし……。もしかすると、あんた達二人にも任務の依頼が行くかもしれないわ。十分に気をつけてね」


 ミレットの言葉にアイリス達は曖昧な表情のまま頷くしかなかった。


 

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