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寝床

 

 アイリス達は島の北東の範囲を二手に分かれて、何かエディクが残した痕跡がないか捜してみたが、何も見つからず、夕方に近い時間となったため、捜索は切り上げることにした。


 一旦、巨石があった場所まで戻り、四人分の荷物を置いていた場所で準備を整えてから、再び北西に位置している川を目指して歩き始める。


 夏場であるため、夕方の時間となっても明るかったのは助かったが、あと一時間程歩くのが遅れていたならば、薄暗い獣道を歩かなければならかっただろう。

 捜索しつつも川が流れている場所まで黙々と歩いたおかげで、まだ空が明るい時間に無事に川辺に辿り着くことが出来た。


「はぁー……。お腹空いたなぁ……」


 川が流れている場所から3メートル程、離れた場所が開けていたため、アイリス達はそこに腰を下ろしていた。

 四人とも体力はあると言っても、さすがに一日中歩きっぱなしであるため、誰しも疲れ切っているようだ。


「とりあえず、夕飯にするか」


「賛成っ! もう、お腹空いて動けない……」


 クロイドの提案に全力で賛成しつつも、体力の全てを使い切ってしまったのか、リアンはその場に寝転がってしまう。


「リアン、疲れているのは分かりますが……」


「わ、分かっているよ……」


 イトから冷めた視線を送られたリアンはすぐに飛び起きてから、夕飯の準備を始めようとしていたクロイドの手伝いをするべく、動き始める。

 どうやら役割の分担について話す前から、各々の役割は決まっているらしい。


「鍋や食器は誰の荷物に入れていたかな……」


「ああ、それなら俺の荷物に……」


 クロイドとリアンが夕飯の準備を始める一方で、アイリスとイトは寝る場所の準備を始めることにした。


「さて、アイリスさん」


「何かしら」


 荷物をその場に下ろしたイトは至極、真面目な表情のままアイリスの方へと振り返る。


「アイリスさんは野外で寝たことはありますか」


「……無いわね。イトは野外で寝たことはあるの?」


「教団に入団する前は父と国中を旅していたので、その時に何度か。……しかし、男女四人で寝るとなると、それなりに広い場所と身体の下に敷く布団の代わりとなる物が必要となりますね。今は寒い時期ではないので、急激に冷え込むことはないと思いますが……」


 そう答えつつ、イトは自身の荷物から薄い布を二枚、取り出す。アイリスも自らの荷物から薄い布を二枚取り出した。

 合計四枚の布が手元にあるわけだが、これらの布をイトはどのように使うつもりなのだろうか。


「いざとなれば、魔法を身体にかけて、暑さや寒さを凌ぐという手もあります。ですが、寝るための寝床が石ばかりだと背中が痛くて眠れませんよね。座りながら寝れば、身体を痛めますし」


 野外で一夜を過ごすことに慣れているのか、イトはてきぱきと作業をしながら説明を始める。

 普段は言葉が少ない彼女だが、こういう時は饒舌になるらしい。声の高さは変らないが、イトの話し方は先生が生徒に向けて授業を行っている時のような声色だった。


「そういうわけで、私達がやるべきことは、寝る場所の確保です」


「具体的にどうすればいいのかしら」


「まず、川沿いから少し離れた場所……出来るなら、焚火がある場所の近くがいいでしょう。焚火があると動物が寄り付きにくいですから」


 クロイド達の方を見ると、彼らは川岸に落ちている少し大きな石を使って、調理をするための即席の竈を作っているようだ。二人とも手馴れたように石を重ねて組んでいる。


「……竈の辺りは石ばかりなので、寝床には最適ではありませんね。少し、土があるところに移動しましょう」


 イトは黒い瞳を細めつつ、寝床に最適な場所を探し始める。そして、良さそうな場所が見つかったのか、立ち止まるとアイリスの方へと振り返った。


「アイリスさん、この場所にしましょう。石も少ないですし、足で踏む限りは柔らかい場所となっています」


 イトが指定したのはクロイド達が作っている竈からそれ程、遠くはない場所だった。石よりも地面が多いその場所は確かに寝床としては、石ばかりの場所よりも寝やすそうだ。


「ここに刈った草や拾った落ち葉を敷き詰めて、最後に布を上に敷けば即席の寝床が完成です」


「なるほど……」


 過去の経験がイトにとって便利な知識となっているらしい。アイリスが頷きつつ、感心するような視線をイトへと向けていると、彼女は途端に気まずそうに眉を中央へと寄せる。


「ですが、一つだけ問題があるんです」


「あら、何かしら」


「……寝る時、男女が一緒の場所ということですよ……。野外なので仕切りなんてもちろん無いですし」


 低く、悔しがるように呟かれるイトの言葉に、アイリスはそういうことかと頷き返す。確かに、未婚の男女が同じ場所で寝るのは少し抵抗があるのだろう。


「私は特に気にしないわよ。もう慣れたし……」


「慣れたんですか」


 意外だと思ったのか、イトの瞳が少しだけ大きく見開かれる。アイリスは肩を小さく竦めながら、頷き返した。


「出張の任務がたまにあるのだけれど、クロイドと一緒の部屋で何度か寝たことはあるわ。仕事上、仕方ないと思ってしまえば、いつの間にか慣れていたわね」


 クロイドと相棒を組まされた当初は未婚の男女が同じ部屋で寝るなど、有り得ないと喚いていたのだが、出張の任務があるたびに同じ部屋だった場合が多かったので、いつの間にか感覚が慣れてしまったらしい。

 慣れというものは本当に何気ないようで恐ろしいものだ。


「……大人ですね」


 イトが何か意味を含めたような言葉をぽつりと呟いたため、アイリスは咄嗟に反応する。


「なっ……。ちょっと、変なことを想像していないっ? 違うわよ! 普通に同じ部屋だっただけで、別に一緒のベッドで寝たわけじゃないわ!」


「そうですか。ですが、お二人の仲が良いのは確かなようなので……。……今夜、寝る際はクロイドさんと同じ寝床で寝ますか? 布一枚でもそれなりに広いので、二人が一緒に横になれると思いますよ」


「寝ないわよ! そこは男女別にして頂戴っ!」


 イトが真顔でそう言って来るため、本気か冗談か分からなくなってしまいそうだ。しかし、こちらのやり取りをクロイド達に聞かれてしまっては恥ずかしいので、アイリスは声を抑え気味に反論する。


「では、気が変わったら言って下さい。いつでも、寝る場所をクロイドさんと換わりますので」


「換わらなくて良いわよ! 変な気遣いを回さないでっ」


 真面目な顔のままでイトが、少々不満そうに言うので、アイリスは頭を右手で抱えつつ、全力で断るしかなかった。

   

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