転入生
クラス担任の先生による朝の挨拶が終わり、授業が始まる前の準備の時間に移り変わると、はっ我に返ったアイリスはミレットに凄い形相で詰め寄った。
「どうして、クロイドがここへ来るって教えてくれなかったのっ?」
「いやぁ、言わない方が面白いと思って」
悪気は全くないと言わんばかりにミレットは右手を横に振っている。彼女のことなので、自分を驚かせるために、あえて言わなかったのだろう。
目の前に座っているクロイドも少し後ろを振り向きつつ、小さめに苦笑する。
「確かにさっきのアイリスの顔は面白かったな」
ミレットに同意するようなクロイドの言葉にアイリスは頬を膨らませる。
「もうっ、二人して私をからかって……」
だが、親友のミレットだけでなく、相棒であるクロイドも自分の近くに居てくれるなら、心強いことこの上ないだろう。それと同時に安堵と少しだけ、くすぐったい感じも胸の奥で沸き立っている。
「……ブレアさんに学校は行ける時に行っておいた方がいいって言われてな」
「あー、やっぱり……」
「でも、クロイドって凄いのよ。転入試験ってそれなりに難しいはずなのに高得点で合格して、特待生の席を貰っちゃったらしいわ」
何でも調べてくるミレットはブレアから聞いていたわけではなく、自分でクロイドがこの学園に転入してくると知っていたらしい。
「あら、そうなの? さすがって言いたいところだけれど、やっぱりクロイドが努力していたからよ。良かったわね、おめでとう」
アイリスがふっと笑みを見せるとそれにつられるように、クロイドも口元を緩ませてから頷き返す。
だが、そこでクロイドの顔が少々不安げなものへと変わった。アイリスとミレットだけに聞こえるように周りを警戒しながら、小声で呟いて来る。
「……あのさ、何だか周りから視線を感じるんだが」
「あー……。クロイドが転入生だからってのもあるけど、ねぇ……?」
ミレットが歯切れ悪く口を閉じて周りを見渡す。アイリスもこっそりと自分達の周りに視線を向けた。
気付けば、教室の中にいるほとんどの女子の視線がクロイドへと集まってきていた。
無理もない。黒髪で黒目は珍しいし、それなりに端正な顔立ちで背も高い。
女子としては気にもなるのだろう。自分はよく分からないが。
「転入早々、人気者ですなぁ~」
からかう口調でミレットはそう言うが少し笑顔が引きつっている。女子の視線が痛かったのか、すぐにこちらへと視線を戻した。
クロイドは分からないといった顔で首を傾げる。今まで田舎の教会に預けられていた彼だ。こういう人目が多い場に来るのは初めてなのかもしれない。
「あ、そうだわ。休み時間の時にこの学園内を軽く案内してあげる。ねえ、ミレットも一緒に行きましょうよ」
アイリスの提案に対して、同意するようにクロイドも頷く。この学園は小中高一貫校であるため、かなり校舎が広い上に教室も多いので、場所を覚えるのが大変なのだ。
だが、ミレットはアイリス達には聞こえないような声でぼそりと呟いた。
「うーん、これは何かひと悶着ありそうな予感ねぇ……」




