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食卓


 その日、リッカによる部屋の掃除が終わったのは一時間後のことだった。


 それから、夕飯の準備をリッカが続けて行おうとしていたが、いくらこちらがお客だとしても、突然お邪魔してしまった身であるため、料理くらいはさせて欲しいとクロイドが自ら申し出ていたのは意外だった。


 リッカは首を横に振って断ろうとしていたが、一緒にいたライカが島の外の人が作る料理も食べてみたいと言い出したため、弟の要望に根負けしたリッカが押し切られる形となった。


 結局、その日の夕飯はクロイドと、なんとリアンも手伝う事になったのには驚きだ。リアンは元々、孤児院で生活していたため、生活面で必要なことを身に着けており、簡単な料理くらいなら作れるらしい。


 一方で、料理が出来ないアイリスと食事は腹に収まればそれでいいと思っているらしいイトは、リッカに掃除してもらった部屋へと自分達の荷物を運び入れることにした。



「……島内に宿がないと聞いた時はどうなるかと思ったけれど、親切な人が見つかって良かったわ」


 持参してきた荷物を鞄の中から取り出しては整理しつつ、アイリスはぽつりと呟く。


「そうですね。電気もガスも通っていないとのことですが、夜目に慣れている我々からすれば、さほど困ったことはないでしょう。あ、でも……汗を流す場合はどうするんでしょうね?」


 アイリスはイトと同じ部屋を借りることになった。スウェン家には、それぞれリッカとライカの部屋とは別に彼らの両親が使っていた部屋があったため、アイリス達はその部屋に泊めてもらうことになったのだ。


 ちなみにクロイドとリアンはライカが使っている部屋を使わせてもらうため、ライカはリッカと一緒に寝ることになるらしい。


「シャワーはないって、リッカが言っていたわ。井戸水を家の裏に設置している大鍋で沸かしてから、浴室の浴槽に移して、お湯を張って使うみたいよ」


「……ああ、お風呂ですか。お湯に浸かるのは久しぶりですね。教団に居る時はいつもシャワーなので」


 今、家の裏ではライカが大鍋と薪を使って、大量のお湯を沸かしているらしい。

 手伝おうかと訊ねたが、これは僕の仕事だからとライカに速攻で断られてしまったため、アイリス達はすることが無いまま、手持ち無沙汰の状態が続いていた。


 借りている部屋は電気が通っていないため、もちろん灯りはない。窓から差し込む光だけが頼りだが、それでも十分過ぎる程に室内が明るく思えるのはこの季節故だろう。

 夏場は日が長いため、夕方でも外が明るい状態が続いているのだ。


 荷物の整理を終えて、次に何か手伝うことややるべきことはあるだろうかと考えていると部屋の扉が数回叩かれ、すっと内側へと開かれる。部屋の中へ入って来たのはリッカだった。


「失礼します。……アイリスさん、イトさん。夕飯の準備が出来たので、呼びに来ました」


 わざわざ食事の準備が出来たことを伝えに来てくれたらしく、リッカが扉を開けた瞬間に部屋の向こうからふわりと美味しいそうな匂いが流れて来た。


 アイリスとイトは顏を見合わせて立ち上がり、リッカの後ろを歩きながら、調理場がある部屋を目指す。


「……良い匂い」


 廊下を歩きつつ、ぼそりとイトが呟いた言葉が聞こえたのか、同意するようにリッカが笑みを浮かべながら頷いた。


「凄いですね、クロイドさん達。料理の手際が良過ぎて、私が手伝う隙がありませんでした」


「リッカさん達に、家に泊めてもらうお礼がしたかったのよ、きっと。それにクロイドは料理好きだから……」


「リッカ、と呼んで下さって構いませんよ? ……ふふっ。でも、そうだったのですね。島の外の方が作る料理は初めて見ましたが、凄く美味しそうでした。私も今後のために色んな料理を教えてもらおうかな」


 落ち着いている時のリッカは本当に歳下なのかと思えるほど、大人びて見えた。この家には二人の姉弟以外に家族はいないようだが、恐らく何か事情があることは察していた。

 だからだろうか、リッカがしっかりし過ぎているように思えるのだ。


 調理場がある部屋に入ると、美味しそうな匂いが更に濃くなった。

 視界に入って来た料理を見て、アイリスは思わずよだれが出そうになったのを押し留める。


 大き目の台の上に置かれているのは、フライパン一つで作られた料理らしく、その中には魚介類などの様々な材料が入っているようだ。

 だが、一度も見たことも食べたこともない料理であるため、どのような名前なのかは分からない。


「お、来た、来た」


 クロイドと一緒に料理を作ったリアンが、アイリス達が部屋に入って来るや否や、にこりと楽しそうに笑った。


「アイリスさん、イトさん。お二人とも、こちらの席にどうぞ」


 すでに入浴するためのお湯を沸かし終わったのか、その場にはライカも戻ってきていた。


 ライカがどうぞと言って席に座るように勧めて来たが、確かこの部屋には椅子が四脚しかなかったはずではと見渡すと、いつのまにか二脚追加で増えていた。


 先程、ライカの部屋へとクロイド達の荷物を置きに行った際に、ライカが使っていると思われる机と椅子が見えたが恐らく、そこから一脚持って来たのだろう。もう一脚追加された椅子も、もしかすると元々はリッカの部屋にあるものなのかもしれない。


「この台の上にある料理、全部クロイドさんとリアンさんだけで作ったんですよ。材料だって、他の島人からの頂き物と家に残っていた余り物しかなかったのに、本当に凄いです」


「いやぁ、献立を決めたのはクロイドだよ。俺は少し手伝っただけだし」


 リッカが捲くし立てるように褒めると、こそばゆく感じたのか、リアンは少しだけ頬を赤らめつつ、嬉しそうに頭を掻いていた。


「俺も魚介類を使う料理は久しぶりだから、作っていて楽しかった」


 クロイドは洗った手を持参していた前掛けで拭いつつ、満足そうに頷いている。

 台の上には数種類の料理が盛られた皿と初めて見る料理が載っているフライパンが置かれており、まるでパーティーのような豪勢さだ。


 座って、料理を食べるのはいつだろうかと待っているライカは目を輝かせながら、並べられている料理を見ている。


 アイリスもつい、お腹の虫が鳴きそうになったのを全力で抑えながら席に着くことにした。


     


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