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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
悪魔の人形編
283/782

性格


 同乗させてもらった荷馬車が目的地のトゥリパン村に着いたのは夕方だった。荷馬車の運転手の男性にお礼を告げてからアイリス達はトゥリパン村へと足を踏み入れた。


 薄緑色の牧草地が広がり、家々は点々と建っている。それぞれの家の窓から灯りが漏れており、今の時間帯だと家族で夕食を摂っているのかもしれない。


 ミレットに予約してもらった宿屋は村の入口辺りにあり、ラザリーが身を置いている教会から一番遠い場所らしい。


 とりあえず一泊して明日から行動を移すことに決めたアイリス達は夕食を食べたあと、それぞれ宿泊している部屋で休むことにした。


 部屋は二部屋、ミレットによって用意されており、そのうちの一つをアイリスとエリックで使うことになったのだが、どうやら緊張しているようでベッドの上に真っすぐと背を伸ばして腰掛けたままである。


「えっと、エリック……?」


「はひっ!?」


 エリックはぎこちなくアイリスの方へと顔を向けた。


「……まだ、緊張しているの?」


 ここまで来る間に色々と話をしたりしていたので、自分達に対する緊張はすっかり解けたと思っていたが、まだ甘かったようだ。


「すっ……すみません! あの、私……。誰かと一緒の部屋で寝るのが初めてでして……」


「謝ることなんてないわ。教団だと個室だもの。慣れていないのも仕方ないわよね」


 アイリスが小さく苦笑するとエリックは少し緊張が解けたのか、小さい子どものように表情を崩して笑った。


「……アイリス先輩達が優しい人で良かったです」


「え?」


 アイリスが聞き返すとエリックは自身が心の中で思ったことをつい呟いてしまったらしく、自らの口を両手で押さえていた。


「す、すみませんっ……! 私ったら、調子に乗って……」


 慌てて右手を横に振りながらエリックは弁明するように言葉を捲くし立てる。


「あのっ、私……。いつも何をするにしても遅くって……。こんな性格だから、周りの人からあまり受け入れてもらえなくて……」


 両手の人差し指の先を重ねながら、エリックはこちらの様子をちらりと見つつ言葉を続ける。


「でも、アイリス先輩達は……。私がこんな性格でも嫌な顔をしないのが、嬉しかったんです……。あっ、だけど心の中で嫌だなって思っていたら、すみませんっ!」


 失言したわけではないのに、エリックは再び頭を下げる。


「……あなたのことを嫌だなんて思っていないわ」


 アイリスはエリックの真正面にある自分のベッドの上へと腰掛ける。


「自分が不得意だと認識していることでも真剣に取り組んでいるエリックは立派だと思うわ。そう簡単に割り切って出来ることじゃないもの」


 自分も希望の課とは別の課に異動させられた時は落ち込んだものだ。


 だが、エリックは対人関係が苦手でもそれを拒否することなく、彼女なりに努力している。確かに憶病なところはあるが、彼女が紡ぐ話の内容はどれも質が高く感じられた。


「それにハワード家出身なら、色々と大変でしょう? ……私もいまだにローレンス家出身のくせに魔力無し(ウィザウト)か、と嫌味を言われるもの」


 アイリスが苦笑しながらそう話すとエリックは驚いたように目を瞬かせた。


「そんなこと……言う人がいるのですか」


「いるわ。特に魔物討伐課が多かったわね。魔的審査課に所属していた時もそれなりに言われたけれど。……でも今、所属している魔具調査課では一度も言われたことがないわ。皆、良い人ばかりなの」


 魔具調査課では、どこの家出身なのかよりも任務を遂行する実力が備わっているかが大事とされている。

 それに先輩達は皆、性格が良い人ばかりで嫌だと思ったことは何一つなかった。


「あ、そういえばアイリス先輩は魔的審査課にも以前、所属していましたね。……アイリス先輩達みたいな人が周りにいたら、私ももう少ししっかりした人間になっていたのでしょうけれど……」


「あら、今のあなたでも十分なくらいよ? でも、もう少し自分に自信を持った方がいいかもしれないわね」


「自信ですか……」


 エリックは実力が備わっている自覚がないのか、自分自身の両手を不安そうに見つめている。




 すると部屋の扉を突然、数回叩かれたため、アイリスは返事をした。


「少し、いいか」


 クロイドのようだ。アイリスはすぐに立ち上がって、扉を内側から開け放った。


「どうしたの」


「宿屋の主人にここから教会までの道のりを地図として描いてもらったんだ」


 アイリスはクロイドが部屋に入り切ってから、扉を閉める。座っていたエリックも飛ぶように立ち上がった。


 クロイドが見せて来た紙切れには細い道と点々とした家々、そして一番端に教会と書かれた場所が記載されていた。


「ここから30分くらいの距離らしい。一本道だから道には迷わないだろうって」


「調べてくれたの……。ありがとう、クロイド」


 描かれた地図は簡素だが、とても分かりやすく描かれている。これならばすぐに道を覚えられそうだ。


「……遠回しにラザリーのことも聞いてきた。この村内ではかなり有名になっているようだな」


「有名って……どういうこと?」


 クロイドは少し考えて、言葉を選んでからラザリーについて聞いてきたことを話し始める。


「一ヵ月程前にラザリーと思われる人物がこの村に訪れたらしい。それから村のはずれの教会で暮らしているんだが……」


 自らの手に持つ地図が描かれた紙切れに視線を落としつつクロイドは言葉を続ける。


「何でも、死んだ人間と話しをさせてくれるらしいんだ」


「え……」


 エリックが思わず声に出してしまった言葉を飲み込もうと両手で口を押えていた。


「だが、宿屋の主人はあまり興味がなかったらしいから、噂を聞いただけで実際にその現場を見たわけではないと言っていた」


「……死んだ人間と交信するということは、降霊を行なっているということでしょうか」


 ひょいっとアイリスの陰からエリックが顔を出して地図を覗き込む。


「魔法の存在を知っている人間からすれば、そのように受け取れるな」


 確かにラザリーは降霊も出来るはずだ。

 そして、その霊を声一つで操ることも。


 もし、教会に身を置いているのがラザリー本人だとして、彼女がこの村で何を行なおうとしているのかは分からないが、一般人に降霊を見せるのは規則に反することだ。


 やはり、彼女を止めなければならないことは確実だろう。


「……明日、情報収集を終え次第、ラザリーと思われる対象と接触するわよ」


 アイリスの抑揚のない言葉に二人は真剣な表情で頷き返した。



   


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