不明
片手で数が足りる程の数時間しか寝ていないというのにアイリス達は窓を嘴で突く鳩のシャルトルによって起こされた。
「朝から早いわね……。一体どうしたっていうのよ……」
アイリスは目を擦りながら、ベッドから降り、シャルトルが突く窓を開け放した。
机の上へと降り立ったシャルトルの細い脚には小さく折られている紙が結ばれていた。おそらくミレットからの手紙だろう。
シャルトルの脚から手紙を取って、まだ働かない頭のままで手紙を開いてみる。
ゆっくりと手紙を読んでみるとそこには昨晩の強盗団は魔的審査課によって捕らえられた事とブランデル男爵は、今後は教団の監視下に置かれるという理由で逮捕までには至らなかったと書かれていた。
どうやら、ブランデル男爵が購入しようとしていた魔具はこの強盗団によって、どこからか盗まれたものだった、ということまで判明しているらしい。
つまり先日、男爵と取引をしようとしていた違法魔具売買人は強盗団と繋がりがある者だったのだ。
もちろん、違法魔具売買人の方は魔的審査課の地下牢に今も投獄されており、更なる事情聴取を受けているのだという。
そして、名簿に書かれている強盗団が持っていた魔具の販売先もミレットが調べており、後々に連絡するとも記されていた。
だが、その下に付け足すように書かれた言葉にアイリスは目を疑った。
「え? どういう事……」
「どうしたんだ?」
「これを見て」
ベッドから立ち上がるクロイドにアイリスはその手紙を見せる。
アイリスが指で記した部分を見て、クロイドも顔を顰めた。
そこに書かれていたのは回収した魔具の中に一つだけ見当たらない物として報告していた「悪魔の紅い瞳」という魔具についてである。
それは禁魔法の一つとされる「悪魔契約」をするための石であるとミレットによって書かれていた。そこまで調べてくれたのかと感心したが重要なのはそこではない。
その石が強盗団が売買した魔具の中にも回収した魔具の中にもなかったのだ。しかも、保有していた彼らに石の事を問い詰めてもその石がどこにあるのか知らないの一点張りらしい。
「回収し損ねたということは?」
「それはないはずだが……」
クロイドの魔力を感じ取る力は並みのものではないと分かっているので、やはり回収し忘れたということはないだろう。
だがその時、アイリスの脳裏に一つだけ浮かんだものがあった。
「紅い瞳……」
ローラが隠し持っていたあの石のような物は確かに紅だった。
あれがもし魔具で、自分達の探している「悪魔の紅い瞳」ならば――。
アイリスは自分の荷物から白い紙を取り出してミレット宛に急いで返事を書き上げていく。
「おい、一体どうしたんだ……」
「嫌な予感がするのよ。……あくまで予想だけれど」
書き上げた紙を細く折り、すぐにシャルトルの足へと括り付けてから、空へ向かって飛ばした。窓を閉め直し、アイリスはクロイドの方へと振り返る。
「……クロイド」
「何だ」
アイリスは真剣な表情のまま、鞄に手を入れて次にクロイドに貸そうと思っていた本の中から一冊の本を取り出す。
黒地の表紙に金色の文字で題名が書かれた古い本だ。
「これを今日中に読んでおいて」
「……」
アイリスに渡された本の表紙を見たクロイドは一瞬だけ眉を寄せたが、納得するように深く頷き返した。