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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
安らぎの暇編
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お土産


 その日の夕食はキロルお薦めの酒場で食べることになったため、全員で荷馬車に乗って町まで行くこととなった。


 未成年でも入られるのかと聞けば、そこは料理が美味しいらしく、お酒を頼まなければ入ってもいい酒場らしい。


 夕方にその店の中で待ち合わせをすることとなり、それまでの間アイリスはユアン達と一緒にお土産を見て回ることにした。


 キロルと男性陣は荷馬車を預けられる場所に置いてから、食料を買いにいくらしい。ブレアの方はというと昼間から一人でお酒を飲んで回る予定らしく、颯爽と荷馬車から降りては町中へと消えて行っていた。


「どれにしようか迷うわね~」


 このエラブル町では紅葉で有名であるためなのか、お土産のものはほとんど紅葉の形があしらわれている商品で溢れていた。


 ユアンはずっとどれにするか迷っているのかこの雑貨店に来店してから一時間程、時間が経っていた。


 女子の買い物というのは時間がかかるものだ。そういう自分も色んな商品が気になり過ぎて、あちらこちらを見ていた。


「誰へのお土産に悩んでいるんだ?」


 ナシルが商品棚からひょいっと顔だけ出してユアンに尋ねる。


「修道課のクラリスです。この紅葉型のクッキーの詰め合わせもいいかなぁと思ったんですけど、ハンカチとかカップも可愛いし……」


「あぁ、クラリスか。それなら小物の方が良いんじゃないか?」


 何となくユアンとナシルのやり取りを聞きつつもアイリスは手元の買い物かごに入れたお土産の数を数えていく。


「えっと、ミレットに、兄さん……。クラリスさん、ヴィルさんの分とリンター孤児院の皆の分……」


 エラブル町に行くとミレットに伝えた時、かなり羨ましがっていたことを思い出してアイリスは一人小さく苦笑した。

 従兄弟であるエリオスと医務室のクラリス、そして水宮堂のヴィルにはいつもお世話になっているので、日頃のお礼も兼ねたお土産を渡すことにした。


 そして買い物かごを大きく占めているのがリンター孤児院へのお土産として買っている紅葉型のクッキーの詰め合わせだ。

 以前、クッキーをお土産に持って行ったら子ども達に大好評だったので、おそらく今度も喜んでくれるだろう。


 とりあえず、このくらいで良いだろうかと視線を移すと紅葉色の小さな缶が目に入って来た。


 この地方で作られている紅茶が入っているものだ。何も装飾がされていないので素朴に見えるが何となく気になってしまったのだ。


「…………」


 アイリスはそれを手に取ってみる。


 ……そうだわ。


 ふと思いついたのが、教団の総帥であるイリシオスだった。

 イリシオスは教団の敷地から外に出ることはない。それは不老不死の身を守るためでもあり、彼女自身が持っている魔法の知識を守るためだと以前ブレアが説明してくれた。


 自分はまだイリシオスと深く話したことはないが、ローレンス家が代々お世話になっていることは知っている。


 お土産一つで今までの礼を返すというつもりはないが、イリシオスについお土産を渡したくなったのだ。


 ……ブレアさんにお願いしたら、お土産を届けてくれるかしら。


 イリシオスは普段、教団の塔の最上階に住んでいるらしいがその場所を訪れることの出来る人は限られているという。

 ブレアは行き来しているようなので彼女に頼めば持って行ってくれるかもしれない。


 ただ、受け取ってくれるかどうかは別として。


「…………」


 アイリスは少し思案し、そして紅葉色の缶を買い物かごの中へと入れることにした。


「そういえば、アイリスちゃんはクロイド君にお土産を買わなくていいの?」


 クラリスへのお土産はまだ決まっていないのか右手にハンカチ、左手の紅葉色の万年筆を持ったままユアンがこちらへと振り返る。


「……あ、忘れていました」


 クロイドは一緒に旅行先へと来ているのでつい忘れていた。


「男子に選ぶお土産は女子よりも悩むよなぁ」


 ナシルの苦笑にロサリアが軽く頷く。


「やはり食べ物が一番だと思う」


 ロサリアは買い物かごに紅葉型のクッキーの詰め合わせが入った四角い缶を数箱入れているようだ。


「……ロサリア、まさかそれ一人で食べるつもりじゃないだろうな」


「味見したら、美味しかったから。大丈夫、魔具調査課用のお茶請けも買っています」


 ロサリアはよほどクッキーの味が気に入ったらしい。全員分のお土産をまとめたらそれなりの荷物になると思うので歩きではなく荷馬車で来て本当に良かったと思う。


「それならロサリア先輩お薦めのクッキーにしますね」

 

 アイリスは苦笑しながら、二人分くらいの量が入ったクッキーの缶を手に取った。クッキーなら一緒にお茶をする時に気軽に食べてもらえそうだ。


「……ユアン先輩はレイク先輩にお土産は買わないんですか」


 何気なく聞いてみただけなのだが、ユアンは思いっきり顔を顰めた。


「しない、しない。そういう柄じゃないし」


 空いている右手を全力で横に振っているあたり、本当にレイクへお土産を買う気はないらしい。


「何というか有難がってくれるなら渡した甲斐もあるんだけれど、レイク相手だとねぇ。……その気にさえならなくって」


 それは信頼によるものから来ているのか、それとも本当にお土産を渡すのが面倒だと思っているのかどちらなのかは判断つかない。


「まぁ、私もミカにはお土産なんて買ったことはないな。水宮堂のヴィルになら何度かあるけど」


「え、ヴィルさんですか」


 そういえばナシルとミカ、ヴィルの三人は元々同期だったと聞いているがそれなりに仲が良いのだろうか。


「お土産を渡して、あの店で買いたい魔具をちょっとだけ値段下げてもらったりするんだよ」


 にやりとナシルは口の端を上げて笑う。どうやら値段を下げるための交渉の材料としてヴィルにお土産を渡しているらしい。


「私もどちらかといえば渡すよりも貰いたい派」


 いつの間に会計を済ませたのか紙製の買い物袋にお土産を詰め込んだものを両手に抱えているロサリアがぼそりと呟く。


「美味しいものだと、なお嬉しい」


「ロサリア先輩、食べるのもお好きですもんねぇ」


「随分と大荷物になったな……。一度、荷馬車を預けているところで買ったものも預かってもらうか」


「そうですね」


 窓越しに店の外の景色を見るがまだ日は高い。夕方にキロルが指定した酒場に集合することになっているが、まだ時間には余裕があるようだ。


 恐らく、今頃クロイド達も食料を買い込んでいるのだろう。


 また今度、クロイドが朝食を作る当番の際には自分も一緒に手伝うつもりだ。クロイドに料理を教えて欲しいと頼んだところ、快く頷いてくれたので彼から色々と教わって上達していきたいと思う。


 ……喜んでくれるかしら。


 日頃のお礼というわけではない。小さなお土産だが、それでもやはり喜んだ顔は見たいものだ。

 アイリスは他の三人に見えないように隠しながら笑みを零していた。


    

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