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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
花の意志編
223/782

打ち切り


 クロイドに突如、腕を掴まれたアイリスは驚きつつも振り返った。そこには薄暗い中でも分かる程に青白い顔をしたクロイドがいた。ブレアに何か言われていたことが関係しているのだろうか。


「……どうしたの、クロイド?」


 アイリスはクロイドの手を取って、顔色を下から窺うように見た。包むように掴んだ彼の手はひんやりと冷たいものになっていた。


「……らしい」


「え?」


「マーレさんを襲った魔物の特徴が分かったらしい」


 それはひどく早口に聞えた。言葉は震えていないが、それでも抑えきれない何かを堪えているようにも見える。


「魔物はまだ捕まっていないが、それなりの情報を掴んだとブレアさんが教えてくれた」


「……どんな魔物だったの」


「契約魔には契約紋が付いているだろう。その紋の模様が鳥の羽が二つ横に並んだような形をしていたらしい。魔物の姿は細長く、手先まで鱗に覆われていて、背中に翼のようなものが付いていた、と……」


「……ちょっと待って。それって――」


 その特徴だけを聞くと、まるで竜のようではないか。しかし、現代の世に残っている竜は人が立ち入れないような高い崖や森の奥地に住んでいると聞いている。

 現在は竜の乱獲は禁止されているため、魔具として使われている竜の鱗や爪などはかなり希少価値が高く、違法魔法使い達の間で裏取引されていると聞いたことがある。


「竜が……誰かの契約魔になって襲っていたということ? でも、そんなこと……」


「見た目だとそう見えたらしい。魔物が逃げる際には、空を飛んで逃げたとマーレさんの仲間が証言していたから、その情報に間違いはないと思う。ただ……やはり何故人を襲ったのかが分からないらしいんだ」


「……確かに、契約紋で鳥のような形をしたものは見た事ないし、教団で使われているものとは違うわね」


 そうなると、やはり違法魔法使いによって召喚された契約魔か、もしくは自分達の知らない何かが裏で動いているのか──。考えても、やはり答えは出なかった。


「この魔物の捜索はもうじき打ち切られる。それよりも、魔物討伐課が行っている夜の見回りの人数の方を増やすとブレアさんが言っていた」


「打ち切るって……それじゃあ……」


 それではマーレの仇は取れなくなってしまうではないかとアイリスは口に出そうとした言葉を飲み込んだ。

 恐らく、クロイドも同じように思っているのだ。でも彼はそれを口にすることはせずに、ただ我慢するように拳をぎゅっと握りしめていた。


「でも、この情報さえあれば大丈夫だ」


 その独り言のようにも聞こえた呟きは、決意のようにも聞こえた。


「俺は魔物討伐課じゃないから、表立って動くことは出来ないけれど、マーレさんを襲った魔物を探すことは出来る。……そうだろう?」


 穏やかにそう告げた彼の言葉の意味をアイリスは理解していた。表立っては動けないが、それでも仇である魔物を自分の手で探し続けることは誰かに止められることはない。だから、いつか探し出して見せると彼は決意しているのだ。


「……それなら一人より二人の方が、効率がいいわよ」


 アイリスは握りしめた手に力を入れる。


「手伝ってくれるのか?」


「もちろん。だって、私はあなたの相棒だもの」


 困っているなら何度だって助けるし、手を伸ばし続けてみせるつもりだ。


「……ありがとう」


 やっと穏やかな笑みを見せたクロイドにアイリスも微笑みを返した。

 大丈夫だ。自分達なら、何度立ち止まってもきっと再び歩き出せる。根拠も理屈もないが、何故かそう思えるのだ。


「さて早く扉の鍵を閉めて、食堂に行きましょう? あまり夜遅くになり過ぎると調理員の人に迷惑がかかってしまうし」


「そうだな」


 アイリスはクロイドから手を離して、教会の内側の扉の鍵を閉めに行く。教会内は広いが、夜遅いだけに醸し出す雰囲気が昼間のものとは別に見えてしまう。怖いわけではないが、何となく不思議な感じだ。


「アイリス」


 再び名前を呼ばれたアイリスは待ってくれていたクロイドの方へと少し早足で戻った。


「何かしら」


 隣を歩きつつ、クロイドは少し考え込むような仕草をしてからアイリスの方に視線だけ動かした。


「今日は途中でセリフィアの邪魔が入ったが、また今度遊びに行く時は外で夕飯を食べないか? 本当は今日行く予定の店があったんだ」


「あら、そうだったの。それじゃあ、また次の機会を楽しみにしておくわ」


 そういえば、セリフィアと会ってからクロイドの機嫌が悪そうに見えたのは、デートの邪魔をされたと思っていたからだろうか。

 そう思うとクロイドの不機嫌さが可愛く思えてきてしまい、アイリスは彼に気付かれないように小さく笑みをこぼした。


 本当はクロイドとどこかに出掛けることが出来るだけで自分は十分に嬉しいし、楽しい。だから、特別なことはそれほど必要だとは思わない。

 自分のことを理解していて、さらに好きでいてくれるだけで十分なのだ。彼と過ごす全ての瞬間にこそ意味があるのだから。


「……明日からいつまでセリフィアは滞在する気なんだろうな」


 溜息交じりに吐かれた言葉には疲れが見えた。よほどセリフィアの事を快く思っていないらしい。


「あの子が満足するまでじゃないかしら? でも、私達を観察しても何も面白いことはないと思うのだけれど……」



 アイリスは苦笑しながらクロイドに言葉を返しつつ、彼の隣を覚られないように出来るだけゆっくりと歩いた。


   

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