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魔力反応

 

 夕食の時間となり、呼ばれたアイリス達は孤児院の建物の一階にある食堂へと降りていく。


 食堂と言ってもこの孤児院の表玄関がある広間に長い台が三台並べられているだけの簡単なものだが、それぞれの席に座っている子ども達は興味津々と言った瞳でアイリスとクロイドを交互に見ていた。


「はーい、皆さん静かに。では、夕食の前にこちらのお二人を紹介しますよ」


 シスター・マルーに促され、アイリスは一歩前へと出てから子ども達に笑顔を向けつつ、自己紹介を始める。


「皆さん、初めまして。アイリスと申します。今日からここでシスター見習いとして頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします」


 アイリスは自分の自己紹介を終えた後、子どもに好かれるような優しい表情に変えないままでいるクロイドへと交代する。


「……ロイ、です。宜しくお願いします」


 ぼそりと呟くクロイドは顔が強張っているようにも見える。どうやら、低い声が出ないようにと彼なりに努めているようだ。


「では先に子ども達からの自己紹介を始めましょうかねぇ。じゃあ、年長者のメドルからどうぞ」


 マルーに指名された子どもが立ち上がり、挨拶を始める。


 そんな中、アイリスは一人の少女と目が合った。麦色の髪は腰まで伸び、それをうなじの後ろで一つに纏めており、丸っこい緑の瞳は真っ直ぐとこちらを見ていた。

 だが、弱々しい外見に反してその瞳は何か強い意志を秘めているように思えたが、アイリスが自分を見ていると感じたのか、その少女は先に視線を逸らしていた。



・・・・・・・・・・



 夕食を終えて、それぞれの自由時間となる夜の八時頃。


 他のシスターと子ども達の事についてや様々な談笑を終えて、アイリスは与えられた自室へと入った。そこにはすでに私服に着替えているクロイドがベッドの上に足を組みつつ、本を読んでいた。


「あら。ここにまで持って来たの、その本」


「……ああ。せっかく貸して貰っているんだし、時間がある時に読めればと思って……」


 クロイドが手に持っている本はアイリスが先日、貸した魔法に関する本だ。どうやら彼は勉強家らしく、少し時間が空いた時などは、魔法に関する本を読んで勉強しているようだ。


「ふーん……」


 アイリスは返事をしつつ、荷物の中から魔力探知結晶を取り出す。


「……一応、示してはいるのよね」


 結晶の中の炎の揺らめきは穏やかなものだった。

 自分が結晶に問いかけているのは、クロイド以外の魔力反応である。


 これはつまり、この孤児院の中に魔具が存在していることを示している意味でもある。


「魔力を持っている奴なら子どもの中に一人居たぞ」


「え⁉」


 魔力を感じられないアイリスには分からなかったがクロイドは感じ取れたらしい。

 アイリスが本を読んでいるクロイドに詰め寄ると彼は少し仰け反りながら、本を閉じた。


「どの子が……?」


「ローラ」


 それは自己紹介をする時にアイリスを真っ直ぐと見据えてきた少女だった。


「あの子が……」


 見た所、何も持っていないようにも見えたが隠していたのかもしれない。

 つまり隠せるほどの大きさの物という可能性がある。


「ローラは自覚しているか分からないが、彼女からは魔力を感じ取れたぞ」


「そう……。とりあえず、あのローラって子に接触するしかないわね。あなた、子どもは平気かしら?」


「……正直に言って苦手だ」


「だと思ったわ」


 表情を作るのがいかにも苦手そうなクロイドのことだ。こんな無表情で子どもに近づいたら怖がられてしまうだろう。

 恐らくクロイドもそれを承知しているのだ。


「まあ、ローラが魔具を持っているとは限らないわ。この孤児院のどこかに誰も知らない魔具が眠っているのかもしれないし。……あなたは建物の中を詳しく調べてくれる?」


「分かった」


 子どもを相手にするよりも、孤児院の建物の中を探す方が彼には向いているだろうとアイリスが提案するとクロイドは快く頷き返した。

 

 魔具を探すのは明日にして、今日はもう休んだ方がいいだろう。体力をそれほど使ったわけではないが、潜入しているというだけで、結構気疲れはするものだ。

 アイリスはシスター服のまま、ベッドの上へと転がるように横になる。


 そして、脳裏にふっと思い出されるのはローラの姿だ。


 ……あの子、似ているわ。


 小さいながらも強い意志を持った瞳。揺るがない思いを貫くために、心の奥へと秘めた弱い自分。


 まるで少し昔の自分を見ているようだった。

 だから、つい気にかけてしまうのだ。何か大きな事を成し遂げるためにその身を捧げてしまうのではないかと。


 ……まさか、ね。


 自分のような人間は一人でいい。

 悲しむのも、その辛さに耐えるのも。



 思ったよりも疲れていたのか、いつの間にかそのままの体勢で寝てしまうアイリスをクロイドは仕方ないなと困った表情で眺めていた。



・・・・・・・・・・



 翌日の早朝、全員が昨日と同じように席に座って朝食を摂っていた。

 その光景はしんみりとしたものではなく、子ども達もシスター達も楽しそうに話をしながらの食事の時間だ。


「……良い所だな」


 ぼそりとクロイドがそれだけ呟いた。

 自分の立場が辛い状況にあったとしてもここの子ども達は決して悲しそうな表情をしない。


「……そうね」


 それでも心の奥では悲しみを抱いている子もいるのだろう。その感情を表に見せないで笑顔を保つことは難しいことだとアイリスは知っていた。


「……」


 アイリスはポケットから魔力探知結晶をこっそり取り出して調べ始める。

 やはり、魔力反応は昨日と同じであるようだ。微力ながらの炎の揺らめきは昨夜よりも増しているように見えた。


 そして周りから見えないようにと長い台の下で紐を垂らして結晶の振り具合を見てみる。


「……クロイド」


「何だ」


「彼女、持っているわ」


 結晶の揺らめきが示すのは紛れもないローラだった。彼女の方へと結晶は進むように揺れている。


「この反応、恐らく魔力だけじゃないわね……」


 始めて見る揺らめき方だ。

 紅色と橙色の炎の二種類が混じっている。


「……何か持っているのね」


 この魔力探知結晶は探知する対象が近ければ近いほど反応が大きく返ってくる。

 アイリスとクロイドは端っこの席で食事するローラを密かに探るような目で見ていた。

   

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