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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
二人の王子編
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修道課

  

「なるほど。つまり、原価よりも少し高めの値段で売ってあるんですね……」


 アルティウスは独り言のように呟きながら手帳に何かを書き込んでいた。朝食を食べ終えた四人は、終わりの時間へと向かっている朝市にまだ残っていた。

 往来を行き来する人達も最初の方に比べれば、少なくなっている。そろそろ店じまいするのだろう。


「まぁ、人件費と材料費、場所代も払わなきゃいけないらしいからね。朝市に店を出したい人は役所で一度、申請して、場所を決めるようになっているのよ。一度申請すれば、ずっと出せるらしいけど、たまに申請せずに出店している人がいたりして、周囲の店とかなり揉めているのを見たことがあるわ」


「そのような場合はどうするんですか?」


「役所の人が見回りに来たりしているから、その人に出店名簿を確認してもらって、申請してない方の店の人を立ち退かせていたわ」


「ああ、そっか。行政も携わって来るんですね。なるほど……。じゃあ、場所代は役所の方に?」


「そういうこと」


 相変わらずユアンが先生のようにアルティウスに朝市の仕組みを教えている。アルティウスの腕には買い物袋が下げられているため、何か気に入ったものを買ったのだろう。


「……」


 出来れば、今度はクロイドと一緒に朝市に来てみたい。休みが被れば、またこの前のように一緒に出掛けてくれるだろうか。


 そんな事を思っていると隣で少し暇そうにユアン達を見ていたレイクが吹き出した。


「また、眉間に皺が寄ってるぞ」


「え、嘘……」


 アイリスはばっと自分の手で眉間を伸ばそうと手を添えると、レイクは更に笑い出した。


「何を考えているのか知らねぇけど、何かあったら、俺達に言えよ? 一応、先輩だからな」


「……はい」


 どうやら顔に出てしまっていたらしく、アイリスは苦笑しつつ頷き返す。また、やってしまった。

 心配も迷惑もかけないようにしているつもりだったが、ふとした瞬間にクロイドのことを考えてしまう。


 相棒を組んでからずっと一緒にいたせいか、長時間離れていることで何故か不安な気持ちになってしまうのだ。


 ……駄目だなぁ、私ってば。


 クロイドがいないと何も出来ないわけではないのに、ついぼんやりとしてしまう。


「おーい、そろそろ他の場所に移動しないか。もうすぐ朝市も終わるぞ」


 レイクの呼びかけに、熱心に話し込んでいたユアン達が振り返り、同意するように頷いた。


「そうね。……アル君、次はどんな場所に行きたい?」


「本当は……教団の方にも行ってみたいんですけどね」


「まぁ、それは無理だな」


 レイクが声を落としつつ、即答した。


「連れて行ってやりたいのは山々だが、いくら王子様でも部外者には間違いないからな」


「そうですよね……」


 納得しつつもアルティウスは少しだけ残念そうに笑った。


「あの……! 教団内は無理でも、教会なら行けるのでは?」


 アイリスの提案に三人が同時に振り返る。


「え?」


「サン・リオール教会なら、教団の敷地内に建っているとはいえ、一般の人もお祈りに来られるように開放してありますし」


 嘆きの夜明け団の場所は表向きにはサン・リオール教会本部の敷地となっている。多くの聖職者を育てるためという理由で、広大な敷地に寮などが建っているということになっているのだ。


 教会の隣に教団が置かれているが、周囲から見えないようにと高い塀で教会以外は囲まれている。

 一般人は教団内には入られないように教団全体に結界が張ってある上に、教団と教会を行き来できる出入口には常に見張りも立てられていた。


「そういえば、そうだったな。お祈りなんて行かないから教会なんて入らないし」


「あんたねぇ……。それ、クラリスが聞いたら鉄槌が下るわよ」


「ユアンだって行かないだろう」


「そりゃあ……用事無いし」


 表向きには教会に所属していることになっているが、二人も頻繁に教会には通わないらしい。アイリスはそれを聞きつつ困り顔で苦笑して、アルティウスの方を振り返る。


「それで、どうかしら。教会は色んな人間が集まる場所だから、目を肥やすには丁度いいかもしれないけれど?」


「教会ですか……。そういえば、生まれて一度も行ったことがなかったですね」


「あ、そうか。王宮の中には教会なんてないもんな」


 同意するようにレイクが頷く。


「もし、宜しければ連れて行ってくれませんか」


「お安い御用よ。……でも、知り合いに会いそうで怖いわね」


「先輩にも会いたくない人っているんですか?」


 こっそりとアイリスが尋ねるとユアンは曖昧な表情を返してきた。


「ほら、うちの課って基本的に他の課から見下されている節があるじゃない?」


「ああ……。それはたまに感じたりしますけど」


「前にね、うちの課のことを泥棒集団だなんて馬鹿にした輩がいたのよ。その時、ちょうどレイクと喧嘩してた時だったから機嫌が悪くって……」


「あー……あの時な。確か同時にそいつらをぼこぼこに殴ったな、素手で」


「素手で!?」


「あんな奴らに魔法を使うのは勿体ないわ。……でも、ほら。教団の団員同士での争いは禁止されているでしょう? だから、罰として自室待機一週間に加えて、任務禁止だったわ」


「あれは辛かったよな……。何もしないって、中々辛いもんだな。まぁ、その後に任務がかなり溜まっていたのがまた……」


 出来るだけアルティウスに聞こえないような声量で話しているが、彼らも他の課からの嫌がらせを受けていたらしく、かなり気まずそうな顔をしている。


「まぁ、教会内なら教団の人間は修道課くらいしかいないと思うけどな」


「修道課は清い感じの人が多いからね~」


 現在の修道課は昔のように「修道院」で行っていたような神の精神に倣って共同生活をし、祈る日々を送るようなことはしていない。


 他の地域や国などでは、貞節、清貧、従順といった誓いを立てて、禁欲生活をしていたところも見られるが、教団の修道課では修道士が行っていたようなことは行われていないのだ。


 どちらかと言えば、宗教関係に関する研究を行い、神父になるための修行を積む者もいれば、人に対する奉仕活動を行う者が多く見られる。修道課に属しつつ、医務室にも勤めているクラリスは後者の方だろう。


 だが神父と言えど、それは教団の神父であるため、神に祈り、人の前に立って神の教えを伝えるだけが仕事ではない。


 例えば、各地の教会へ派遣され、そこで聖職者として働きつつ、魔物から人を守るように結界などを張って、その魔法が長く保つように祈り続けている者がいるとも聞いた。

 また、治癒や救護に関する魔法にも長けており、大規模な魔物討伐の際には支援部隊として駆り出されているらしい。


 だが、つくづく、修道課の人間は凄いと思う。神というものを信じつつも、己は魔法を使うのだ。他の国の聖職者が知ったら、どう言われるか大体想像がついてしまうくらい、奇妙な組み合わせとなっている。


 そう思いつつも、アイリス自身には信仰心がそれほどないため、神と言われてもあまり、しっくり来ないでいた。


 ……でも、神を信じながら魔法使いでいられるのも、エイレーン達が魔法使いとそうでない人も大事に守りつつ、教団を作り上げてくれたおかげなのよね。


 ふっとイリシオスの姿が浮かんできた。また、聞けば何かエイレーンのことについて話してくれるだろうか。

   

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