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真紅の破壊者と黒の咎人  作者: 伊月ともや
二人の王子編
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変わり身

  

 壁を背にしてうたた寝をしているレイクの横でアイリスはこの部屋に誰かが近づいてきていないか、耳を澄ませていた。


 まだ、鶏も眠っているような時間だ。物置部屋の窓の外に見える遥か遠くの空は、先程よりもほんの少し白んできているようだが、王宮の料理人や使用人達は今から起きようとしている者ばかりだろう。


「……」


 何となく、首に下がっている黒い石の付いた首飾りを握りしめる。


 自分はこれからクロイドの傍を離れることになってしまう。それはクロイドが一人きりで、彼が抱いて来た想いと過去に対峙しなければならないということだ。

 出来るなら、傍に居たいと思う。


 だが、きっとそう伝えても彼は断るのだろう。ここから先は、自分が立ち入れない領域だ。手助けすることは許してくれないのだろう。


 ──どうか、私の片割れがあなたの心に寄り添っていてくれますように。


 自分が彼に渡した、自分の分身である青い石。力なんて込められていないが、祈りと願いが込めてある。どうか、自分が傍にいられない分、寄り添っていて欲しい。


 すると、隠し部屋の扉が静かに開かれた。


「はい、お待たせ~。二人の準備が出来たわよ」


 ユアンが何故かご満悦の表情で外に待機していたアイリス達を手招きする。


「お、終わったか。さて、どれどれ……」


 先に部屋へと入っていったレイクの足がぴたりと止まる。どうしたのだろうかとアイリスは脇をすり抜けるように顔を覗かせた。


「っ……」


 そして、自分も固まってしまった。そこにいたのは、先程と変わらない二人がいたからだ。いや、座っている場所をお互いに交換したわけではない。


 それでもそう思ってしまうほど、クロイドとアルティウスはお互いが、お互いの姿に変わっているように見えたのだ。


 向かって右に座っているのはクロイドだと分かっているが、本当に見た目はアルティウスそのものだ。服も王子が着るようなものに変わっている。

 表情が無表情になっているため、その見た目は機嫌があまり良くないアルティウスのようだ。


「二人の髪色は変装用のものでね、ちょっと特殊な粉を専用の液体に溶かしたものを髪に塗り込んでいるの。水に触れるとすぐ色が落ちてしまうから気を付けなきゃいけないけどね。あと、目の色は変えられないから、この眼鏡をかければ……」


 そういって、ユアンはクロイドにごく普通の眼鏡をかけてみせると、それまで黒色だった彼の瞳の色が碧色へと変わった。


「ほらっ! これは目の色を変えられる眼鏡なの! まぁ、掛けている時しか意味ないんだけれど……」


 ちらりと見ると、木箱の脇には両手に収まるくらいの箱が置いてあり、その中にはずらりとたくさんの眼鏡が並んでいた。色んな目の色に合わせて揃えられているらしい。


「凄いです、先輩……。これじゃあ、本当に見間違えてしまいそうです」


 アイリスが溜息を吐きながら素直にそう伝えるとユアンは嬉しそうにはにかんだ。


「褒められて嬉しいけれど、今度あなた達にも教えてあげるわ。変装は魔具調査課には必要な技術だからね。はい、クロイド君に、王子様。鏡で確認してみて?」


 ユアンは手持ちの小さな鏡を二枚、変装した二人へと手渡す。すると、二人の表情はすぐに驚いたものへと変わった。


「うわぁ……。凄いですね、これ。本当にロディ……クロイドみたいだ」


「……機嫌の悪いアルみたいだ」


 クロイド達はお互いに頷き合いながらも、その姿を受け入れているようだ。


「ユアンは本当にこういう細かい作業が得意だよなぁ」


「まぁね。どこかの誰かさんが女の子の格好をしなきゃいけなかったから、それから技術を磨いたもの」


 ユアンが少し意地悪そうに舌を出しながら言うと、レイクの顔が一瞬で真っ赤になった。


「なっ、おまっ……あの時のことを今、言う必要あるか!?」


「ふふん、別にあんたとは言っていないわ。それにしても中々の美少女だったからね。あの姿、結構気に入っていたのよね~」


「くそっ、今すぐ忘れろ! ここで魔法が使えれば、お前の記憶ごと闇に葬り去れるのにっ……!」


 そんなレイクをどこか同情するような瞳でクロイドが見ていた。どうやら、レイクもクロイドと同じように女装を強要されたらしい。

 もちろん、その命令を下したのはブレアだろうと聞かなくても分かってしまうアイリスは気まずげに苦笑するしかなかった。

   

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