第3話
事件だと早朝から叩き起こされた男は、書類で山積みにされた机から不機嫌そうな顔を上げた。
徹夜明けでまだ眠ってから30分も経っていない。
あまりに不機嫌で怖いくらいの顔の前に、起こした張本人の男は湯気の立つコーヒーのカップを差し出した。
「モガータ、早く支度してくれないとお前の部下たちの収拾がつかん。」
ルアド・モガータ―21歳にして隊長に上り詰めた男だ。
今は調査兵隊を指揮している。
調査兵隊は言わば警察のようなもので、だが取り扱うのは一般の兵団で解決できない事件ばかりだ。
だが、例外もある。
それは、公爵・王族など上位階級を持つ者が事件に関わっている場合だ。
この場合、加害者ならば最も低い罰で済むように情報改竄、ただの関係者なら関係してすらいなかったという事実の捏造、これが仕事の全てだ。
最近は特に大きな事件はなく、この間ジェロード公爵家の猫がいなくなったから捜索し、その報告書を仕上げたばかりだった。
ルアドは熱いコーヒーを飲み、すぐに壁に掛けてあった上着を羽織った。
既に隊長の顔になっている。
「オルディス、行くぞ。」
彼を起こしに来た男を振り返りながら、ルアドは隊長室の扉を開けた。
それはまさに、恐怖としか言いようのない光景だった。
裏口の外には何か大きなものが燃やされた痕跡。
ロビー、領主、その妻の寝室の三か所に残された、顔も分からない状態に切り刻まれ滅多刺しにされた3つの遺体。
今日一番に出勤してきた使用人が発見したものだ。
辺り一面に真っ赤な血が飛び散り、死体自体も驚くほどに肌が青い。
次々と吐き気を催す隊員を無視し、ルアドと副隊長のオルディスは現場である屋敷を見て回った。
この土地の領主で、おそらく村人全員から恨みを買っていたアルデハイト卿の家だ。
体型から見ても、遺体はアルデハイト男爵とその妻ルイス、執事のヴァエスタで間違いないだろう。
犯行時間は夜中、使用人たちが帰ったあと。
容疑者と言えるのは、この村に住む村人全員と、消えてなくなっている宝石類を考えると強盗の場合も考えられなくはない。
しかし殺し方の惨忍さもあるので、ルアドは村人の中に犯人がいるだろうとひとまず考えた。
一軒一軒全てに隊員を派遣し、聞き込みをする。
するとどの家からも、アルデハイト男爵の宝石類がひとつずつ出てきたのだ。
ルアドは首を傾げた。
押収した宝石類はなくなったものとほぼ一致し、3つだけ見つからない以外は村人たちが1つずつ持っていた。
それに村人たちは口を揃えて言うのだ、これは朝起きたら窓の外に置いてあったと。
まるでクリスマスに現れるというサンタクロースのようだ。
「隊長、大変です!」
駆け込んできた隊員に鋭い目を向ける。
その視線に怯えながら、隊員が報告した。
「この村で失踪者が4名、自殺者が1名いることが判明しました。」
隊員は最後の二軒―ビーデルの叔母の家とイルネシアの家を担当したものだった。
そして彼の手には、2つの宝石が握られていた。