6.Observer(3)
「隊長・・・ッ!」
「ご無事ですか、ヘイムダル様!!」
路地に入って二番目の角を曲がるなり(上から降ってきたり下から飛び出したりで)集まってきた部下達を見て、ヘイムダルは苦笑交じりに掌を揺らした。
「ゴブジだ。だから、頼むからそう騒がないで欲しい」
「ですが、ヘイムダル様・・・」
部下の一人は無残に焼き切れた敬愛する隊長のコートの裾を見て、悲しみと怒りが一緒くたになったような形相をした。着ている上着にまでも向かう上司への忠誠心は見上げたものだ。いやまあ、上着一つでそこまで一喜一憂されても困るのだが。
ヘイムダルは大丈夫大丈夫とコートをヒラヒラさせ、かえってスタイリッシュになったなと支離滅裂なことを言ってごまかした。
「いや、すまない。なにせ最初に種を蒔いたのは私だから。それに、どうしてももう一度会っておきたかったものでね」
「しかし、貴方様にもしものことがあれば・・」
「なに、変わりはいくらでもいるさ。それに彼らには異端審問局を敵に回すような愚かさも度胸も持ち合わせていないだろう」
自分と同じような身形をしたサンディブロンドの少年の頭に、ぽん、と手を置く。
「ラズ。君から見て、彼らはどう見えた?」
「我々の精鋭と同じ、もしくはそれ以上の強力な魔術師であると見受けますが、しかし、隊長の敵となるまでではないと思われます」
「おや、買いかぶられているね、私も」
「事実です」
胸を張って力説する部下に困ったような微笑ましいような気分になりながら、ヘイムダルは軽く上方を、薄っすらと慎ましやかに光る星空を見上げた。
「・・・・だが、彼らの本質は――今の段階では当たり前だろうが――まだ雲の向こうの月と同じだ。死神か悪魔か。それとも天使かヒトか、あるいは本当に『呪い』そのものか。・・・話には聞いていたが、もう少し見極める必要があるのだろうな」
興味深いね、とヘイムダルが呟いたのは無意識だった。
すると、彼、ラズは心底不思議そうな表情をしてヘイムダルを見上げた。
「隊長。何故、そこまで彼らに拘るのですか・・?」
「だって、面白いだろう?」
「面白い・・・ですか」
ラズは知らない。ヘイムダルが人材探しという名目の他に、彼らに接近した本当の理由。
彼らは、真の意味で特殊な存在なのだ。
そして、彼らの背に庇われ、護られていたあの少女――。
「いかな血に濡れた死神達といえども・・・やはり戦う理由というものは必要なものなのだろうな・・・」
「ヘイムダル様?」
「・・・いや、なんでもないさ」
理由。その言葉で、ふとヘイムダルの脳裏を誰かの顔が過ぎった。
ああ、やはり面白い。
「さあて、“あの男”はどうするかな――」




