(7)
かくして、色という接点から私と鳥の日々が始まった。
残念ながら初めての色塗りとなった鳩の姿は、求めていた答えではなかったようだ。
図鑑を眺め、色を塗り、空に羽ばたき。
そんな日々を繰り返した。
ある時は、夜空に溶け込む程に漆黒を纏ったカラスのように。ある時は丁寧にたてた抹茶の渋みのある緑をもつウグイスのように。ある時は蒼玉のような奥行のある青を輝かせるカワセミのように
文字通り色とりどりに鳥は姿を変えた。
なかなか答えは見つからなかった。だが、鳥は意外にも満足気だった。
その理由を尋ねると、
「自分を見つけたいという気持ちはもちろんです。でもこうやって色んな鳥になってみるというのが、単純に楽しくて」
と嬉しそうに語った。
接する機会が多ければ、自然とその距離は縮まった。
一人でのんびりと、たまに忙しく働いてきた私だったが、気付けば私の横には鳥がいた。
いつも一人で過ごしてきた公園での昼食も、今では当たり前のように同じパンを食していた。そんな日々を、悪くないなと感じている自分がいた。
ある日の夜、私は鳥に呼びかけた。
「君には、名前ってあるのかい?」
「名前、ですか?」
そう言うと鳥は首を横に振った。
「いえ、ありません。いや、あったのかもしれませんが。その辺りはよく分かりません」
「そうか」
それを聞いて私は思い切って言ってみた。
「"シキ”ってのは、どうだ?」
「シキ?」
「ああ。色という文字は、シキという読み方もあるんだ。いろんな色を持つ君に、ぴったりかなと思ってね」
「シキ……なんだか、私にはカッコが良すぎてちょっと照れくさいですね」
「でも、なかなかよくないか?」
「ええ、もったいない程に」
「じゃあ、決まりだな」
「あなたは?」
「ん?」
「名前ですよ。せっかく名前をつけて呼んでもらえんたですから、私も名前で呼びたいです」
「そうか。それもそうだな。自己紹介が遅れたが、イクトだ。よろしくな」
「イクト、ですか。いい響きですね」
「ありがとう」
私達はその日から、互いを名前で呼び始めた。