(4)
「で、どうして色を?」
私は改めて鳥に尋ねた。何故に色を求めるのか。ここまで見事な純白を携えながらも、なおも別の色合いを求める理由は何なのか。私はそれを知る必要がある。その気持ちによって私が今回の仕事に対してどのような姿勢で臨むべきかが決まるからだ。気持ちなくして、いい仕事は出来ない。
「いえ、大した理由ではないのですが」
鳥は少しの間をおいてから、恥ずかしそうに理由を口にした。
「色んな鳥に、なってみたいなと」
「色んな鳥?」
「ええ。あなたに頼めば、それが実現出来ると思いまして」
なるほど、と私は思った。
それは色を扱う仕事をしている私にとって、うってつけの依頼とも言える。
私の仕事はまさに色塗りだ。
お客様が求める物に、求める色を塗る。
それは家具であったり、壁であったり、はたまた卵の殻に色を塗ってくれ、なんて依頼もあった。私の色に制限はない。必要であれば何でも色を塗る。
色の要求も様々だ。こんな色合いにして欲しいといった明確なイメージを持ったものから、これにあった色を付けて欲しいといったざっくりとした依頼もある。
自ら選んで進んだ道とは言え、なんとも変な仕事をしているものだなと、思う時もある。ただ、嫌だと思った事は今の所一度もない。私は、この仕事が好きだ。
「そうか、確かに私なら、その願いは叶えてやれるな」
「本当ですか!」
自分の仕事の自信を口にして見せると、鳥は嬉しそうに翼をばたつかせた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「おいおい、落ち着けよ。で、どんな鳥がお望みなんだ?」
「そうですね! えーと、あれもあるし、これもあるし、あーどれからにしようか……」
翼をはたはたさせながら、鳥はせわしなく地面をくるくると歩き回る。
その姿が面白くて私は笑ってしまう。
この仕事を始めていろんな依頼主と出会ってきた。
しかしよもや鳥から仕事を依頼されるとは想像もしていなかった。
だがもちろん、私は全力で取り組むつもりだ。
こんなにも嬉しそうな姿を見せられれば尚更だ。
「あ!」
ぴたっと鳥が急に足を止める。
くりっと私の方に向けた顔は少し心配気に見えた。
「どうした?」
鳥は翼で頭の後ろをさすさすしながら、あのー、えーとですねと何やらばつの悪そうな様子だった。
その一連の仕草が本当に人間じみていて、実はこの鳥自体は着ぐるみで中に小人が入っているのではないかなんて思った。そうでなければ神様の気まぐれか何かで人間の魂が鳥の中に入り込んだのかとも思えた。
「依頼料は、どうすればよいのでしょうか」
「なんだ、そんな事か。気にしなくても、無料でやってあげるよ」
「いやいや! そんな悪いですよ!」
「といっても、お金なんて持ってないだろ?」
「……それは……まあ」
「依頼料はいつも私の判断で決めている。だからお金なんていらないよ。君が私の仕事に満足してくれたら、それが私にとっての見返りになる。それで十分さ」
「なんと……あなたに声を掛けて本当に良かったです。では、御言葉に甘えて」
鳥は私に深々とお辞儀をした。なんとも礼儀正しい、律儀な鳥だ。
「じゃあ、早速始めようか。と、言いたい所だが、私にも少し準備が必要だ。それに」
「それに?」
「もう少し話を聞かせてくれないか。どうして他の鳥になりたいと思ったんだ?」
「ああ、そうですね」
先程の昂ぶりが嘘のように、鳥は静かにぽつぽつと語り始めた。
「忘れてしまったのですよ。私がどんな鳥だったのか」