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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第二章
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第八話 今の自分に出来るコト

 男の命令の通りにアンナへと殺到する土人形達。

 それを見たアンナは悲しそうな表情で呟く。


「……ブロック」


 その言葉により空気の壁を作り出す魔法が発動する。勢いよく壁に突っ込んだ何体かの土人形はぐしゃっと潰れた。だが壁を迂回した他の土人形がアンナに迫る。

 アンナはメモ帳のページをめくり、他の魔法の魔法陣がかかれたページを開く。


「ショット」


 アンナに右方向から迫っていた土人形に見えない何かが直撃し粉々になった。今度は圧縮した空気の塊を撃ち出す魔法を使ったのだ。

 同じ魔法を使い、左からきた土人形も倒した。これでアンナの近くにはいなくなった。


 だが男の周りには新しい土人形の群れが揃っていた。アンナが最初の土人形達を相手にしている内にまた作り出していたのだ。

 そしてさっきよりも数の多い土人形達は動き始め、しかも男はまた新しい土人形を作り出そうとしている。


「クク、いつまで持ちこたえられるかな」

「……どうして……」


 その声はか細い、自分にしか聞こえないものだった。


 アンナは空気の壁で身を守り、空気弾で吹き飛ばし、風で巻き上げる。

 魔法を使って土人形と闘い続ける



 その最中、アンナは自問する。


 どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 魔法はもっと楽しいものの筈なのに。


 確かにこんな事があっても身を守れるようにと、魔法の練習はしてきた。

 でも本当に闘う事に魔法を使うなんて思ってもいなかった。

 人を傷つける事になんか使いたくなかった。


 それでもこうやって闘えているのは、やはり彼のためだろうか。


 思えば、彼に魔法の素質があると知ってから、正確にはもしかしたら魔法使いの友達ができるかもしれないと思ってからはしゃぎすぎていたのかもしれない。

 今まで普通の友達はいたし仲良くしてきたが、魔法の事を隠して付き合うのは辛かった。

 遠くに住む親戚には魔法使いはいるが滅多に会えない。

 だからずっと気兼ね無く対等に接することの出来る友達が欲しいと思っていたのだ。

 でも、最初は諦めようとした。

 いくら魔法の素質があるといっても一般人に気軽に教えていい訳ではない。

 それなのに、結局教える事にした理由は魔法を使う場面を見た後の彼の言葉だった。


 人前で魔法を使ったのは初めてだった。

 だから、気味悪がられるんじゃないか、怖がられるんじゃないか、と不安になった。

 しかし彼はそんな素振りが無いどころか、普通にお礼を言ってくれたのだ。

 認めてくれるんだと思って嬉しくなった。あまりの嬉しさについつい買い過ぎてしまったし食べ過ぎてしまった。


 魔法使いだと言っても彼は変わらなかった。

 いい友達になれるだろうと思った。


 そんな彼を自分の事情に巻き込んで怪我をさせてしまった。


 これは全て自分の責任だ。

 やはり、最初に決めた通り教えるべきではなかったのだ。

 魔法は楽しいものだ。

 その持論を撤回するつもりはない。

 だけど、我が儘を言っている場合でもない。

 逃げてくれた彼にこれ以上怪我をさせないためにも自分の責任を果たさなければいけない。




 決意を胸にアンナは新たに魔法を使う。


「空を自由に」


 そしてアンナの手に一本の箒が表れる。それも魔女が持っていそうな立派な箒。

 アンナはその箒の房の部分に跨がる。

 するとアンナを乗せた箒は静かに浮かび上がった。

 この箒には空を飛ぶための魔法がかけられている。

 あらかじめ物に魔法をかけておく事で複雑で長い呪文や巨大な魔法陣を省略でき、また魔法と相性のいい物を使う事でより強い魔法になるのだ。


 アンナは十分な距離をとると上空から土人形の軍勢に攻撃を仕掛ける。


「トルネード」


 アンナは小さな竜巻を発生させた。

それにより土人形達は空へと巻き上げられる。お互いにぶつかり合い、地面に落下し、次々と数を減らしていく。

 しかし風が吹き荒れる中、男は魔法で守っているのか無事だった。


「なかなか粘るな……大地から解き放たれよ」


 男がそう唱えると、残っていた土人形達は風の影響とは関係無く、重力を無視してアンナへと向かっていく。


「……大丈夫、私が何とかしないといけないんだから」


 そう呟いて自分を鼓舞するとアンナは自由自在に飛び回りながら迎撃していく。アンナの箒は土人形と比べて遥かに速く、小回りもきく。このまま逃げていても捕まる事はないだろう。

 ただし、男から目を離しては透人へと目標を変えるかもしれない。

 それはさせてはいけない、そう考えたアンナは攻勢に出る。


 機動力を活かして土人形をかいくぐり、男との間に何も無くなったところで魔法を使おうとした。

 だが、男の方が早かった。


「沈め」

「ふぇっ!?」


 その瞬間、アンナと箒の高度がガクンと下がった。

 アンナは必死に立て直そうとするが地面との距離はどんどん近づいてくる。


「えっと、クッションッ」


 アンナは柔らかい空気の壁で一度バウンドしてから地面へと落ちる。


「ううっ」


 地面への激突は何とか免れた。

 だが、体が重くゆっくりとしか動かせない。

 男の魔法がアンナにかかる重力を増加させているのだ。


「これであとは逃げたガキを捕まえれば終わりだが、これ以上抵抗できないようにしないといけないな」

「そん……な……」


 男はアンナを目で見下ろしていた。

 アンナは悲しそうに悔しそうに顔を歪める。

 だが、自分だけの問題ではないのだ。まだ簡単には諦められない。

 そう思ったアンナが力を振り絞って魔法を使おうとした時、


「その娘を死なない程度に……ガハッ!」


 男は台詞の途中で突然吹き飛んだ。

 アンナは訳が分からぬまま男が吹き飛んだのとは逆方向を見る。


「おぉー、すごいな。本当にできた」


 聞こえてきたのはこの場にそぐわない緊張感が欠片も感じられない声。

 そこには逃げた筈の透人が一冊のノートを手にして立っていた。


「……ふぇ? え? ……なんで?」


 アンナはしばらく呆然とその姿を見つめていた。



 透人が選んだ戦力にならない今の自分に出来る事。

それは、魔法を身につけ戦力になること、だったのだ。



「観鳥さん大丈夫?」


 倒れたままのアンナに透人が駆け寄ってくる。

 重力の魔法から解放されたアンナは状況が掴めないものの、とりあえず立ち上がった。


「……その……えっと、どうして戻ってきたの?」

「ん? どうして……か。あ、それどころじゃないや。ショット」


 近くに寄ってきた土人形を透人の空気弾の魔法が吹き飛ばした。


「ふぇっ? あ! っと、ショット」


 透人に遅れてアンナも同じ魔法を放ち応戦する。ただし、アンナの魔法を受けた土人形は吹き飛ばずにその場で粉々になった。


「ん? 同じ魔法の筈なのに大分威力が違うなぁ」


 アンナは透人が来るまで、自分が何とかしないと、と思い焦っていた。今はそれが無くなった代わりに状況が掴めなくて混乱していたが、透人があまりにも堂々としているのもあって段々と落ち着いてきていた。


「……とうどくん。どの精霊と契約したの?」

「契約できたのは土だったけど。……って成程。観鳥さんは風って言ってたから空気の魔法と相性がいいとかそんな感じか。失敗したな、あの本の付箋のページは観鳥さん用の魔法だったのか」

「……あ、うん。そうだよ。すごいね、何で分かったの?」


「……このっ、ガキ共!!」


 アンナが感心していると、憎悪と怒りが混ざった声が聞こえてきた。

 そちらを見ると透人の魔法を受けた男が立ち上がって杖を構えているところだった。


「あー、あれだけじゃ無理だったか。ショット」

「ッ! 我が身に加護を」


 それを見た透人が容赦無く魔法を放つが、男も反応して魔法を使った。

 その結果、透人の魔法が直撃しても全くの無傷でよろめくことすらなかった。そして、そのまま男は杖を地面に打ち付け、新たな土人形を作り出そうとしていた。

 その様子を見た透人は冷静なままアンナに問いかける。


「あれは防御の魔法か……観鳥さんならいける?」

「……ええっと……どうだろ? わかんない」

「じゃあ、魔法を解除するには……ショット。……どうすればいい? っとショット」

「うーん……あの人がどうやって魔法を使ったかにもよるから……あ、ブロック」


 透人は話を続けながらも寄ってくる土人形を迎撃する。アンナの魔法より威力は低くても他の土人形にぶつければ二体とも倒す事ができた。

 そしてアンナも透人と同じように迎撃し、土人形が向かってくる中でも話を続けていた。


「じゃあ、俺が来るまでどんな風に戦ってたの?」

「えっと、それを聞いてどうするの?」

「いや、作戦会議に必要だと思って」



  *



 二人は作戦会議をしている間も、合間に魔法を放ち土人形を倒していた。

 それを見た男は土人形を作り出すのを止め、対策を考えていた。


 あのガキは素人だった筈だ。

 だというのに魔法での戦闘に余裕が感じられる。

 知らないふりをしていたのだろうか。

 完全に未知の存在だ。

 だが魔法自体は大したことがない。

 不意打ちが終わった時点で脅威ではない。

 やはり警戒すべきは娘の方だ。

 予定外の出来事が起こった以上、遊びは程々にするしかないか。


 と、そこまで考えた時二人が左右に別れ走りだした。


 好都合だ、そう思い男は残しておいた土人形を二人に半分ずつ向かわせ、自身はアンナの方を見た。

アンナが土人形を相手にしている間に男は杖を構える。


そして狙いを定めた時、


 カッ!


 音とともに男の杖が弾かれた。

 アンナが男の死角から箒だけを飛ばして杖を叩いたのだ。

 魔法を発動させていた杖が手から離れたことで防御の魔法が維持できなくなった。

 アンナはそこを狙って空気弾を放つ。

 だが男は杖が手から離れた時点で既に懐に手をいれて唱えていた。


「盾よ」


 見えない壁に空気弾が弾かれる。

 杖が無くても防御の魔法が使えるよう用意してあったのだ。

 残念だったな。二度目は無いぞ、そう思い杖を呼び戻そうとする。


「出でよ」


 しかし、それは少しばかり遅かった。


「沈め」

「ぐあっ!?」


 男は自らが使っていた重力の魔法に囚われ地に伏せた。

 男は重力に抗い声がした方向を見る。

 そこには弾かれた男の杖を構える透人の姿があった。

 弱い魔法を補うために男の杖を利用したのだ。


「このっ……我が……」

「「ショット」」


 男は必死で抵抗しようとしたが、二人の空気弾をまともに受け、意識を失った。



  *



「で、この人どうするの? 警察に言う訳にはいかないよね」

「魔法使いには魔法使いのルールがあるからね。とりあえずパパとママを呼んでみる」

「ふ~ん、そっか」


 アンナは危険が無くなったことで安心していた。そこで再び沸き上がった疑問を尋ねる。


「それより、とうどくんが何で契約できたの?」

「ん? いや、普通に書いてあった通りにやっただけだけど?」

「でも相性のいい精霊を調べるには時間がかかるし、できても体に負担がかかると…」

「あー、確かに最初の二回は痛かったなぁ。三回目でできた時も何か気持ち悪かったし。……あれ? 何か間違ってた?」


 どうやら順番に試していったらしい。その方法も間違ってはいない。

 ただ、透人は気軽に言っているが相性の悪い精霊と無理矢理契約しようとした時の拒絶反応はそんなレベルでは済まなかった筈だ。

 アンナは透人に対して申し訳ない気持ちになり、悲しそうに顔を曇らせる。


「どうしてそこまでして助けてくれたの?」

「ん~、いや実はほとんど自分のためだったんだよね」

「自分のため?」

「うん。まあ、細かく言うと魔法を使ってみたかった、と格好つけたかった、が合わせて三割。あのままじゃ自分も危なかった、も三割。悪人に狙われてる人を見捨てて逃げるなんてできない、が四割って感じかな。

 ……まあ、だから観鳥さんは気にしなくていいよ」


 透人はふざけた調子で本気かどうか解らない言葉を言った。

 だが言いたいのは最後の一言だったのだろう。

 その言葉にアンナは期待してしまう。


「許して……くれるの?」

「何を?」


 透人は本当にわからないという風に首をかしげた。

 それを見たアンナは慌てて言う。


「だって、私の事情に巻き込んで、怪我までさせちゃって」

「巻き込まれたのはしつこく聞き出そうとした俺のせいだし、殴られたのも格好つけて前に出た俺の自業自得だよ」


 またふざけた調子だったがどうやら透人は本当に気にしていないようだ。


 アンナは信じられないものを見たような顔で驚いた後、難しい顔で考えこむ。


 しかしアンナの考え事は透人によって中断された。


「じゃあ、俺は帰るから」

「ふぇ? どうして?」

「いや部外者は居ない方がいいかと思って、それに魔法を教えたのがバレたら怒られるんでしょ?」

「そうだけど……」

「じゃあ、そういう訳で。また明日」


「ふぇ?」


 アンナはキョトンとしていたが透人の言葉の意味を理解して笑顔を見せる。


「うん。また明日」


 アンナは自転車に乗って去っていく透人を見送りながら考えていた。


 難しく考える必要は無かったかもしれない。

 気にしなくていい、と言ってくれたのだ。

 その言葉に甘えてしまおう。

 あの様子なら何があっても友達でいてくれそうだ。


 一度諦めたものを手にすることができたのだ。



  *



「何か凄い事になったけどこれからどうなるのかなぁ」


 裏の世界に巻き込まれるとは言われていたが透人はついに魔法使いになってしまった。

 魔法に関してもう部外者ではない事は解っている。あのまま残っていた方がよかっただろう。

 それでも強引に出てきたのは他の裏の存在のためだ。

 口を滑らせるつもりはない。だが新な疑問も増えた今、個別よりも全体的な知識の方が先決だと判断した。

 そこで透人は学校に向かい、全てを知る筈の人物に話を聞く事にしたのだ。

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